本文に移動

[寄稿]強制徴用「併存的債務引受」は中途半端な法律論であり、歴史的退行

登録:2023-01-10 06:39 修正:2023-01-11 16:39
キム・チャンロク | 慶北大学法科大学院教授
社団法人日帝強制動員市民の会は12月26日午後、光州広域市議会市民疎通室で記者会見を開き、韓国政府が進める被害補償案に反対すると明らかにした=日帝強制動員市民の会提供//ハンギョレ新聞社

 2023年初日の朝、産経新聞電子版に妙な記事が掲載された。記事によると、韓国の外交部アジア太平洋局長が日本の外務省アジア大洋州局長に、早ければ今月中に強制動員賠償問題と関連した韓国側の解決策を発表する意向を伝えたという。解決策としては、韓国の「日帝強制動員被害者支援財団」が敗訴した日本企業の賠償金に相当する寄付金を韓国企業などから募り、原告に支払う案が有力だと、同紙は報道した。また「解決策の発表は、日本側は『韓国の国内問題』との立場であることから、韓国側が単独で行う方向で調整している」とも報じた。

 要するに「韓国の最高裁強制動員判決が日本企業に損害賠償責任があると宣告したにもかかわらず、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権がその責任を全面的に肩代わりする方向で進めている」という意味だ。

 外交部関係者は「まだ何も決まっていない」という答弁を繰り返しているが、事態の流れはその方向に急ピッチで進む可能性が高いものとみられる。もし尹錫悦政権がそのような方向に進んだ場合、その結果はどうなるだろうか。

 韓国メディアの関連報道には「代位弁済」、「併存的債務引受」など、法律家にも馴染みのない用語が飛び交っている。だが、それらはいずれも「日本企業の責任を韓国側が肩代わりする」という誤った方向を覆い隠すための小細工に過ぎない。さらに、産経新聞の記事のように、そもそも責任がないという日本側の主張に屈し、韓国側が単独で責任を負うとすれば、中途半端な法律論に凄惨な外交惨事が加わることになるだろう。

 強制動員被害者たちは20年近い長い年月の間、韓国で日本の巨大企業を相手取って訴訟を続けた末、やっとの思いで最高裁(大法院)の勝訴判決を勝ち取った。ついに加害者から損害を賠償される法的権利を認められたのだ。ところが加害者である日本企業は、その長い間、韓国最大手の法律事務所を動員し、韓国の法廷で高齢の被害者と争ったにもかかわらず、いざ判決が言い渡されると、従わないという。韓国で利益を得ておきながら、韓国の法には従わないと言い張っている。だからこそ、被害者たちは再び裁判所に差し押さえ命令、売却命令を求める手続きを続けている。加害者から損害を賠償してもらうためだ。

 ところが、尹錫悦政権が乗り出して、加害者の責任を帳消しにしようとしている。何の責任もない韓国企業から寄付を募り、被害者に渡すという。もし被害者が受け取りを拒否するなら、供託をしてでも(賠償問題を)終わらせるという。被害国が加害者の責任を帳消しにするため、ここまで努力する理由は一体何なのか。それが自国民である被害者に対し、最小限の礼儀をわきまえた態度なのか。

 日本企業の責任を韓国側が肩代わりするというのは、その責任を宣言した最高裁の判決を真っ向から否定することだ。行政府が介入しているのだから、行政権による司法権の否定であり、三権分立を規定した憲法に反することだ。さらに、最高裁の強制動員判決は日帝の朝鮮半島支配が不法な強制占領だったという判断の根拠を憲法前文の「3・1運動で建立された大韓民国臨時政府の法統」に求めているため、その判決を否定することはすなわち、大韓民国のアイデンティティを否定することに他ならない。

 同時に、それは深刻な歴史の退行でもある。周知のように、朴正煕(パク・チョンヒ)政権が日本政府と締結した1965年韓日基本条約第2条は、「千九百十年八月二十二日以前に大韓帝国と大日本帝国の間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される」と規定している。「もはや」という妥協的な修飾語のため、日本側に日帝の朝鮮半島支配が「合法」だったと主張する口実を与えたりもしたが、1905年乙巳勒約(第二次日韓協約)と1910年併合勒約(韓国併合条約)などが当初から無効だという大韓民国の公式立場を確認するものでもあった。

 ところが日本政府は「合法的支配」という自らの前提から出発しており、そもそも強制動員というものは認められず、したがって最高裁の判決は誤りだと攻撃している。そのような日本政府の攻撃に全面的に屈服することは、1965年の水準以下に転落することに他ならない。その結果は、朴正煕政権よりも歴史的に最悪の政権以外の何物でもない。

 外交惨事、被害者軽視、司法権否定、憲法否定、歴史退行。尹錫悦政権がこの誤った最悪の道に進まないことを願う。

//ハンギョレ新聞社
キム・チャンロク | 慶北大学法科大学院教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/1075028.html韓国語原文入力:2023-01-10 02:04
訳H.J

関連記事