ドイツ政府が政府転覆の陰謀を企てた極右集団の構成員25人を検挙した。1人はかつてのドイツ貴族一族の出身で、これらの者たちは彼をドイツの指導者に据えようとした。米国では、共和党が中間選挙を通じて下院を担うことになった。共和党は、今もなお2020年の大統領選挙は盗まれたと主張するドナルド・トランプの支持者が掌握している。ペルーでは、宮廷クーデターを試みた大統領が投獄された。その支持者らのデモにより、国が大きく振れている。
こうしたことは、世界的に民主主義が直面している挑戦のうちの3つの事例にすぎない。フリーダムハウスが2月に出した『世界の自由報告書』は、「独裁政治の世界的拡散」という不吉な題名をつけた。報告書は、過去25年のあいだで民主主義が今ほど悪い状況に置かれたことはなかったと結論付けた。民主主義に対する脅威は、世界的に自由が16年連続で縮小していることの結果だ。昨年、25カ国で自由が伸張した反面、退歩したのは60カ国になる。
韓国は活気に満ちた市民社会を持つ民主国家だ。2022年のフリーダムハウスの報告書では、昨年と同様に100点満点中83点を得た。このような評価に従うのであれば、過去5年間で点数は特に変わっていないため、民主主義が退歩したわけではない。多くの国が韓国より点数が高いが、一部のリストを見ると驚くかも知れない。ウルグアイ97点、日本96点、キプロス93点、パラオ92点、ベリーズ87点、モンゴルは84点を得た。ここ数年にわたり韓国の点数を低くした要因は、腐敗、マイノリティーの権利に対する尊重の欠如、親北朝鮮とみなされる見解に対する「国家安全保障」レベルでの制裁などだ。
朴槿恵(パク・クネ)政権のスキャンダルはそのような欠陥を強調したが。2017年の弾劾は韓国民主主義の自浄能力を立証した。韓国人の自国の民主主義に対する満足度が2019年に比べ2021年にいっそう高まったとする世論調査結果も出ている。
ところで、なぜ一部で、韓国民主主義の衰退を言い始めたのだろうか。ピュー・リサーチセンターの19カ国の世論調査では、韓国は党派的対立に対する懸念が最も高かった。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が1ポイント未満の得票率差で勝利した大統領選挙に対する毒舌で満ちている雰囲気をみれば、これは驚くべきものではないのかもしれない。
民主主義に対する韓国の懸念は、世界的な流れも反映する。グローバリゼーションは経済的不平等を拡大し、韓国は産業化した国家のなかで所得格差が2番目に大きい。韓国の有権者は、そうした変化をもたらした政党に対する不満を強めた。技術の発展は、そうした不満を表出できるSNSを作りだした。陰謀論がどこにでも広がっている。光州(クァンジュ)民主化運動に対する陰謀論は今もなお流れ、最近では、コロナウイルスに対する陰謀論も広がった。
韓国の民主主義の危機は、他の特有の要因も反映している。韓国の政党は、通常は特定の政治家を中心に組織され、理念的なプラットホームのようなものを標榜することはない。論争的な政治環境では「犬娘」(犬のように従順で熱狂的な共に民主党のイ・ジェミョン代表の女性支持者)や「イデナム」(20代男性に多い保守層)のような“部族”が出現し、政治的妥協が難しくなる。性別や年齢のような既存の区分が、こうした“部族”を補強する。
韓国は、ペルーや米国を揺るがしているような危機に直面することはなかった。軍事クーデターの危険性もない。しかし、韓国の民主主義の危機は心配だ。韓国には、1970年代にドイツの中道左派と中道右派が東方政策を共に受け入れたように、広範囲な支持を得られる対北朝鮮政策が必要だ。化石燃料から抜けだした未来のための気候政策を展開していかなければならない。蔓延する不平等の解消政策も必要だ。
こうした緊急の課題を持つ韓国には、うまく作動する民主主義が必要だ。どのようにしてそれを成し遂げるかをめぐり、意見の違いが大きいという点が問題だ。もちろん、それは民主主義の両面だ。民主主義は人々に、指導者を選択できる声とともに、不満を表出できる声も与える。民主主義の成功の秘訣は、一部の人々ではなく、全体のための自由と正義を実現できる政治のリーダーシップと、幅広い支持を得る政策を見いだすところにある。
ジョン・フェッファー|米国外交政策フォーカス所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )