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[寄稿]不確実な日本の「新しい資本主義」

登録:2022-10-18 02:57 修正:2022-10-18 08:52
イ・ガングク|立命館大学経済学部教授
日本の岸田文雄首相が昨年10月4日、首相官邸で就任記者会見を行っている。この日、岸田首相が強調したのは経済成長のために分配の重要性を強調する「新しい資本主義」の実現だった=東京/AP・聯合ニュース

 「分配なくして成長なし」

 昨年10月8日、日本の岸田首相が就任後の演説で述べた言葉だ。彼はこの演説で労働者と下請け企業に対する分配の強化、中産層の拡大、看護・介護・保育労働者の賃金引き上げを強調した。彼はすでに昨年9月の自民党総裁選挙で、賃上げを通じて成長の果実が公平に分配される新しい資本主義を看板政策として提示している。

 実際に首相官邸は、昨年10月15日に成長と分配の好循環とコロナ禍以降の新たな社会の開拓を目指して新しい資本主義実現本部を設立し、会議を開催している。それによると、世界経済は自由放任資本主義から福祉国家、そして新自由主義へと変化してきた。新しい資本主義は、市場中心の資本主義のもたらした不平等や気候危機などの問題を解決するために、市場と国家が共に国民の幸福実現のために努力する体制だ。

 このような試みはアベノミクスに対する反省にもとづいたものだ。2013年のアベノミクス導入以降、経済成長は若干回復したものの、賃金と家計所得、そして国内消費は停滞した。アベノミクス以降の9年間のうち6年は実質賃金がマイナス成長となり、実質賃金水準はアベノミクス以前より低くなった。日本政府も、1991年から2019年までで1人当たり実質賃金は米国が41%、ドイツとフランスは34%上昇した一方、日本はわずか5%の上昇にとどまっていると報告している。

 その結果、昨年10月の総選挙では賃金引き上げと所得分配の改善が重要な政治的議題となった。野党は低所得層に対する支援と所得税、法人税の引き上げを提示し、自民党も労働分配率を高めるために賃金引き上げを行った企業に対する税制支援を約束した。

 総選挙での勝利後、岸田首相は新しい資本主義の推進に意欲を示した。昨年11月には緊急提言を通じて人的資本の拡充にもとづく成長の促進と成果の分配を強調し、12月には中小下請け企業が労働コストや原材料コストの上昇分を元請け企業に転嫁できるよう支援と監督を行うと表明した。今年6月には人への投資と分配、科学技術とイノベーション、スタートアップの育成、デジタルとグリーンへの転換に集中的に投資するという実行計画を発表した。

 もちろん、新しい資本主義をアベノミクスとの断絶と考えるのは難しい。岸田政権もアベノミクスの基調を維持しており、安倍政権も「一億総活躍プラン」で成長と分配の好循環を強調していたからだ。これは、各国が持続可能な成長を目指して包容的成長を推進しているという世界的な流れとも軌を一にする。パンデミック期にも先進各国は市民の所得と雇用を守るために積極的に財政を拡大し、日本政府もこのような流れに乗った。

 しかし限界も多い。岸田首相は、金融所得税率が勤労所得税率に比べてはるかに低く、年収1億円を超えると所得税負担がむしろ軽くなるという現実を打開するために金融所得税率の引き上げを提示したが、株価の急落の中で撤回された。最近の実行計画も分配より成長に偏っているとの指摘を受けている。にもかかわらず、新たな政策が低迷している民間投資を促進できるかは疑問だ。また、安倍派の反発を背景に6月に発表された「経済財政運営と改革の基本方針」からは、2025年までに基礎財政収支を黒字に転換するという目標も削除され、財政健全化の意志も後退している。

 新しい資本主義の将来は不確実だが、日本の経済と市民は今や円安とインフレという試練に直面している。このところ米国は急速に金利を引き上げているが、日本銀行は依然としてマイナス金利と長期国債金利を抑制する通貨政策を維持しているからだ。黒田総裁はインフレが拡大して賃金引き上げ、そして景気回復へとつながる物価と賃金上昇の好循環を期待している。しかし賃金上昇は遅々として進まず、4月以降の実質賃金上昇率はマイナスを記録中だ。一方、急激な円安は輸入物価の上昇をもたらし、日本の家庭の平均生活費負担は年間約8万円増える見通しだ。

 長きにわたり停滞し、社会的合意が重要な日本において、果たして賃金上昇と分配の改善、そして資本主義の変化は可能だろうか。政府の期待とは異なり、政治的圧力なしには現実における賃金引き上げは決して容易ではないだろう。労働組合と市民社会、そして何より政治の変化なしには、日本においては新しい資本主義は口だけに終わり、まったく新しくない結果をもたらすかもしれない。

//ハンギョレ新聞社

イ・ガングク|立命館大学経済学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1063060.html韓国語原文入力:2022-10-17 18:50
訳D.K

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