米国のジェイク・サリバン国家安保担当大統領補佐官は、2016年の米国大統領選挙でヒラリー・クリントン陣営の外交政策を総括した。トランプに衝撃的な敗北を喫した後にサリバンが行ったのは、米国外交と中産層の関係についての深層研究だった。彼が民主党の外交・安保の専門家たちと共に2020年に発表した82ページからなる報告書「米国の外交政策を中産層により適合させる」はその産物だ。
この報告書に最も多く登場する単語は「(米国の)中産層」だ。高くつく海外への軍事介入と中国に生産を依存するというやり方をとるグローバル化によって被害を受けた米国の中産層を蘇らせてはじめて、米国の全世界に対する覇権も維持できるとサリバンらは強調する。米国の先端技術の競争力の強化、海外からの投資の誘致に政府が積極的に取り組むとともに、外交的影響力を利用してグローバルサプライチェーンのルールを米国に有利なものに作り直すべきだ主張する。
トランプよりはるかに精巧な「アメリカファースト(米国第一主義)」政策、半導体産業を支援する「CHIPS法」やインフレ抑制法(IRA)などで実現しつつある米国の「利己的政策」は根深い。
先月米国議会で可決されたインフレ抑制法で、「北米における最終組立」規定を満たしていない韓国製電気自動車が補助金の支給対象から除外されてから、韓国政府は今更ながらに騒々しい手遅れ外交を繰り広げている。政府の合同代表団が米国に駆けつけ、キム・ソンハン安保室長がサリバン補佐官に解決を要請したが、すでに確定してしまった法を変えるのは困難だという現実ばかりが明確になりつつある。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が就任からわずか10日で米国のジョー・バイデン大統領と首脳会談を行い、「韓米が経済安保同盟へと格上げされた」と自画自賛してからわずか3カ月で、掛け声ばかりがかまびすしい外交の実状が明らかになったわけだ。
まず、米国議会の動向を把握して対処するという外交の基本からして手抜かりがあった。政府の関係者たちは、米国議会が電光石火のごとくインフレ抑制法を可決したため、対処する時間がなかったと弁明する。1年間漂流していた法案が、来たる11月の中間選挙をにらんで7月末から急速に可決へと向かったのは確かだ。その間にテスラやGMなどの米国の自動車企業、トヨタなどの日本企業、カナダやメキシコなどは、米国議会の動きを把握し、激しいロビー活動を展開して肝となる要求を貫徹した。なぜ唯一韓国の立場のみが反映されなかったのかについて、政府は答えを出せずにいる。
米国議会の状況に精通するワシントンのある専門家は「GMなどの米国の自動車企業が『ラストベルトで雇用を創出すべき』として上下両院の議員に強力なロビー活動を展開したことで、終盤になって法案の内容が変わった。外交・安保、通商などの主要懸案については米国議会を中心に決定されているが、駐米韓国大使館と外交部は米国議会の動向をきちんと把握することも、積極的に動くこともできていなかった」と語る。
尹錫悦政権の「親米外交」が肝心な米国の政策変化をきちんと読んで対応できていなかったことも致命的だった。韓国の電気自動車に対する米国の差別は、2016年の在韓米軍のTHAAD配備後、韓国製バッテリーの搭載された車を補助金の対象から除外するという中国の報復処置と、結果的には似たような様相を呈している。米中いずれも自国産業の競争力と安保論理を最優先にしているためだ。米国は半導体、エネルギー、バイオ、宇宙航空などの中国との競争分野において、中国のように国家主導で投資と研究開発に取り組んでいるほか、核心分野の工場を米国内に吸収する戦略を強めている。このような現実に対して韓国政府は「同盟の善意」という幻想から脱することができずにいた。仁川大学のイ・ヒョンテ教授(中国語中国学科)は「今のような流れの中では、韓国企業は米国の新基準に合わせるために米国への工場移転を急ぐだろうし、韓国全体としては失業や産業の空洞化などが深刻になる可能性がある。半導体などの先端産業は、米国に韓国の安保をよりいっそう重視させる要素の一つだが、このような産業を米国に移してしまった場合に韓国の安保に対する懸念が高まる可能性なども多角的に考慮し、精巧な戦略をまとめるべきだ」と提案する。
先端技術と市場の必要に応じて米国と協力するにしても、国内の労働者と産業競争力を考慮し、譲歩できない原則を明確にしたうえで、戦略的に米国と交渉していくべきだ。似たような苦悩を抱える国々と協力し、米国に「同盟の責任」を断固として要求すべきだ。前政権の「親中外交」を非難するばかりだった尹錫悦政権は、このような苦悩と戦略を示したことがあるのか。
パク・ミンヒ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )