ニッケル生産量世界1位のインドネシアをめぐり、韓国の自動車・バッテリー業界の計算が複雑になっている。韓国企業はバッテリーに欠かせない鉱物であるニッケルの円滑な需給のため、インドネシアとの協力および現地投資を強化しているが、米国の「インフレ抑制法」(InflationReductionAct・IRA)という予期せぬ壁にぶつかったためだ。
4日の本紙の取材によると、現代自動車は先月25日、米国のインフレ抑制法に対応するための政府・業界懇談会で、米国の電気自動車(EV)補助金支給のためのバッテリー鉱物の原産地条件に「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)に参加する国も含める方向で米国政府と交渉してほしいと要請した。先月16日に米国のジョー・バイデン大統領が署名した同法は、米国内で販売するEVが補助金を受けることができる3つの条件を明示している。そのうち一つが、来年からリチウムやコバルトなど主なバッテリー鉱物を、米国または米国と自由貿易協定(FTA)を締結した国から少なくとも40%以上調達しなければならないという内容だ。2027年には80%まで規定が強化される。
現代自動車はIPEF参加国であるインドネシアを念頭に置いてこのような要請をした。現代自動車はこれまで、インドネシア現地市場への進出とニッケルの円滑な調達のために力を入れてきた。インドネシアは人口2億7千万人に達する巨大市場であり、ニッケル埋蔵量が約4900万トンで世界1位だ。ニッケル生産量も世界1位で、昨年の全世界の生産量のうち37%を占めた。現代自動車は今年3月、現地工場を竣工し、電気自動車アイオニック5を生産している。 LGエナジーソリューションと共にバッテリーセル工場の設立も推進している。
問題はインドネシアが米国とFTAを締結した国ではないという点だ。インドネシア産ニッケルを使ったバッテリーを搭載したEVは、米国の補助金支給対象から除外される可能性が高くなった。現代自動車としては、従来のサプライチェーン戦略に大きな変化を加えざるを得ない状況だ。米国が鉱物の原産地の具体的な条件を年内に設けると発表したため、韓国政府はインドネシア産ニッケルを使ったEVも補助金を受けられるよう積極的に交渉してほしいと要請した。
米政府との交渉結果によっては、韓国企業が主導するインドネシアのニッケルプロジェクトで実利を得られるという分析もある。 LGエナジーソリューションやLG化学、ポスコなどで構成されたLGコンソーシアムは、11兆ウォン(約1兆1300億円)規模のインドネシア・バッテリープロジェクトを進めている。インドネシアの鉱山で採掘したニッケルを利用して製錬・前駆体・両極材・バッテリーセルの生産まで完結型のサプライチェーンを構築しようとする事業で、現地政府と交渉を進めている。
韓国政府がインドネシア政府と協議し、米政府を相手に仲裁案も提示しうる。ニッケルの採掘や製錬などの先工程はインドネシアで、前駆体・両極材・バッテリーセル生産などの後工程を韓国で行った場合、韓国製バッテリーと認めてほしいというアイデアだ。インドネシアは主なニッケル供給先を、韓国は雇用を確保できる戦略だ。バッテリー業界の関係者は「インドネシアは伝統的な米国の友好国ではないが、韓国のバッテリー3社と日本のバッテリー会社におけるインドネシアのニッケルの比重が高いため、交渉力を発揮する余地があるとみる」と話した。ジョー・バイデン大統領の法案署名後にインドネシアを訪問したあるバッテリー専門家は「現地の公務員に会ったが、米国のインフレ抑制法を皮切りに米国中心のEVサプライチェーンが再編されるのではないかという懸念が大きかった。インドネシアは自国のニッケルを活用して外国資本を誘致しながらも、グローバルEVサプライチェーンへの編入を望んでいる」と述べた。
ただし、米国政府が韓国企業の要求を受け入れるのが難しい現実も存在する。インドネシアの主要ニッケル鉱山は、中国資本の影響下にある。韓国貿易協会の報告書によれば、世界のニッケル鉱山プロジェクトの大半が中国資本によってインドネシアで計画中か、現在進められている。EVのサプライチェーンから中国を除外しようとする米国の意図とは相反する状況だ。米国とFTAを結んでいるオーストラリアもカギとなる。オーストラリアのニッケル生産量は世界5位だが、採掘可能な推定埋蔵量はインドネシアと同じ水準であり、長期的にニッケル需給先の代案として浮上する可能性がある。