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[寄稿]保守の実力、この程度だったのか=韓国

登録:2022-08-08 02:39 修正:2022-08-08 16:41
ユン・ホンシク|仁荷大学社会福祉学科教授・ソーシャルコリア運営委員長
チュ・ギョンホ副首相兼企画財政部長官が先月25日、政権世宗庁舎で行われた懇談会で発言している=企画財政部提供//ハンギョレ新聞社

 発足以来、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の一貫した政策基調は「成長を通じて国民生活」を解決するというものだ。1990年代から成長率の鈍化が不平等の深化を伴ってきたわけだから、考えうる解決策だ。加えて「経済は保守がうまくやる」という世間の信頼がある。保守政権のこのような公言は、高度成長を通じて金持ちになりたいという国民の欲望を刺激したことだろう。しかし、国民の欲望が実現される可能性はほとんどない。

 減税すれば経済は成長するという論理は神話に近いからだ。ポール・クルーグマンが指摘したように、保守主義者が金科玉条のように崇める1982~84年の米国の好況は、レーガン政権の減税政策の結果ではなかった。それは1970年代末から始まっていた急激な金利上昇がもたらした人為的景気低迷による基底効果と、金利を急激に引き下げた1982年の金融緩和の結果だった。

 さらに大きな逆説は、レーガン政権が減税とともに景気後退を防ぐために負債を増やすことで需要を刺激したということだ。減税で足りなくなった財源を負債で補ったのだ。息子ブッシュ政権の減税政策も保守の公言とは異なって景気低迷につながったし、ついには金融危機で終焉を迎えた。

 李明博(イ・ミョンバク)政権の減税も同様だった。李明博政権は法人税率を25%から22%に引き下げるとともに総合不動産税を無力化し、企業と富裕層の税負担を軽くした。だが李明博政権による減税は、経済を立て直すことも国民生活を回復させることもできなかった。李明博政権時代の年平均成長率は金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)両政権にはるかに及ばない3.2%に過ぎず、減税で財閥の社内留保を増やしただけだという批判を受けた。

 問題は、李明博政権もレーガン政権のように、減税によって足りない財源を補うため、国債発行を増やしたということだ。金大中、盧武鉉両政権の10年間の国債発行額が年平均5.6兆ウォンだったのに対し、李明博政権は「民主党政権」の4倍近い年平均20兆ウォンを発行した。「増税なき福祉」を叫んだ朴槿恵(パク・クネ)政権は、減税で不足した財源を埋めるために増税しなければならなかった。

 事実は上記の通りであるにもかかわらず、尹錫悦政権は「経済の活力を向上させ国民生活を安定」させるために、またしても富裕層と財閥のための減税を実施するという。当惑するのは、企画財政部長官がこの減税政策のことを、韓国経済をグローバルスタンダードに合わせるものだと主張していることだ。どのような基準のことを言っているのかさっぱり分からない。

 金融危機とパンデミックを経て、国際通貨基金、世界銀行などが強調する「グローバルスタンダード」は、不平等を軽減するために政府は積極的な役割を果たさなければならないというものになった。そうすることではじめて経済が長期低迷から抜け出し、持続的に成長しうるからだ。まさか長官が世間知らずにも、数十年前に流行した政策が今も有効だと錯覚しているのか。そうでないと信じたい。それでもどうしてもグローバルスタンダードに合わせたいと言うのなら、なぜ労働と福祉は合わせないのかが知りたい。

 大統領は本人の言う通り大統領をやるのは初めてだし、捜査しか知らない政策の門外漢だから論外だとしても、企画財政部長官をはじめ「実質的」決定権を持つ官僚と専門家はこうした事実を知らないはずはない。にもかかわらず、金持ちと大企業に対して減税すれば経済と国民生活が好転するという非科学的主張をなぜ繰り返すのかが分からない。彼らだけではない。国民の力はまるで政権担当の経験が全くない初心者与党のように行動している。

 保守の実力はこの程度だったのか。パンデミックに続きインフレが景気を低迷させて庶民と中産層の暮らしを脅かしているが、対策だとして打ち出したのが金持ちにさらに多くの恩恵を与え、インフレを刺激しうる減税だとは。この政権をみると「経済は保守がうまくやる」という世間の信頼は根拠のない誤った信頼だという気がする。

 減税はグローバルスタンダードではないし、インフレと経済危機の時代にやるべきことでもない。尹錫悦政権が今なすべきことは、保守の理念に合わせて危機に瀕する国民生活を支えることだ。金がないなどという苦しい言い訳はやめよ。国民がほとんど体感できない油類税引き下げと計画された減税を撤回するだけでも、5年間でおよそ60兆ウォン(約6兆2100億円)以上が調達できる。その金で、保守の色に合わせて基準中位所得の現実化など脆弱階層のための「選別的福祉」をきちんと拡大せよ。インフレ時代に絶対に必要なことであり、世界経済の流れと基本的な算数を知っているだけでも難しくはない。

 保守政権という体面があるからには、経済と国民生活の政策で落第は避けなければならないのではないか。

//ハンギョレ新聞社

ユン・ホンシク|仁荷大学社会福祉学科教授・ソーシャルコリア運営委員長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1053807.html韓国語原文入力:2022-08-07 18:01
訳D.K

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