6年前、韓国の市民は財閥企業と癒着して国政を壟断した朴槿恵(パク・クネ)政権に憤り、ろうそくを持って大統領を権力の座から引きずり下ろした。そして「ろうそく政権」を掲げた文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足した。この時から「ろうそく請求書」という言葉が流行り始めた。「ろうそく抗争」を主導した勢力が文在寅政権に何かを「要求」すると、「ろうそく(集会の)請求書を突き付ける」というレッテルが貼られた。それを最も多く経験した勢力が民主労総だった。民主労総はこれまで通り、労働時間の短縮や最低賃金の引き上げ、非正規労働者に対する差別の撤廃を求めたが、集会を開こうとするたびに、保守系のマスコミから「ろうそく請求書を突き付けている」という非難の声が上がった。あるメディアは大統領選挙が終わった今年4月まで、民主労総の集会を「政権終盤のろうそく請求書」だと批判した。
ろうそく請求書が実在したかどうかは確かではないが、民主労総が実際にろうそく請求書を突き付けたとしても、「ろうそく政権」から何が返ってきたかを振り返ってみると、首をかしげざるを得ない。文在寅政権5年間の平均最低賃金引上げ率(7.2%)は、朴槿恵政権時代の平均引上げ率(7.4%)とあまり変わらなかった。そのうえ、賞与金や福利厚生費などが最低賃金算入範囲に含まれ、実質的な引き上げ効果は減少した。非正規労働者は昨年800万人を越え、歴代最大値を記録した。労働時間が減ったとはいえ、依然として経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち4位(2020年基準)だ。
5年が経って尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が発足した。新政権に対する請求は、文在寅政権時代よりも今のほうが活発なようだ。主に企業が請求書を突き付けている。現政権発足後、経済団体は「建議書」という名で新政権に様々な要求をしており、これは政府政策として進められている。尹大統領は「靴の中の小石のような不要な規制を取り除く」とし、企業の要求を積極的に受け入れ、規制緩和に乗り出した。元公務員として金・張法律事務所(Kim & Chang)で4年4カ月間、20億ウォン(約2億1千万円)の諮問料を受け取ったハン・ドクス首相は、靴の中の小石を取り除くため、年俸2352万ウォン(約250万円)で退職公務員と博士級の民間専門家を規制革新推進団に採用した。
企業家の「靴の中の小石」には労働者の権利も含まれている。企業の経営責任者に従業員の安全保健確保義務を賦課した「重大災害処罰などに関する法律」が「企業の経営活動を萎縮させる」法律として政府の公式文書に登場し、仕事場における「グローバルスタンダード」である国際労働機構(ILO)の核心条約を批准するために改正した「労働組合および労働関係調整法」なども「経済刑罰」として取り上げられている。企業が望む時に1週間52時間以上勤務できるよう延長労働を柔軟化する方案も進められている。企業の請求書そのまま政府が政策を打ち出しているわけだ。
尹大統領は大統領選候補時代に(昨年12月14日の寛勲討論会で)「私は使用者の味方ではない。政治家は保守や進歩を問わず労働者の味方だ」と発言したことがある。ならば労働者の請求書を受け取るべきだ。しかし、尹大統領は経済界に「夕方は空いているから、いつでも連絡してほしい」と述べるなど、請求書を受け取る準備に乗り出しながらも、「味方」だと言っていた労働者が1平方メートルの牢屋に自ら身を閉じ、適法と違法を行き来する闘争で声を上げているにもかかわらず、「違法行為には厳正に対応する」という言葉を繰り返しているだけだ。
尹大統領の選択的な請求書の受領に「裏切られた」と思う必要はない。すでに「政治家は労働者の味方」と言った理由を率直に語っているからだ。その理由は「労働者の方がより票が多いから」だった。選挙はまだまだ先だ。