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[コラム]「大統領は初めてだから」の軽率さとNATOの招待状の重み

登録:2022-06-17 06:18 修正:2022-06-17 07:30
今月15日午前、尹錫悦大統領が龍山の大統領室庁舎に出勤し、取材陣の質問に答えている=大統領実写記者団//ハンギョレ新聞社

 今月29~30日にスペインのマドリードで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会談には、特別な「パートナー」たちが招待された。NATO加盟国30カ国のほか、韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランドの首脳や、ウクライナ大統領、スウェーデンとフィンランドの首相が出席する予定だ。大統領室は10日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「韓国首脳としては初めてNATOの公式の招待を受けて参加する」と意味付けした。韓国国内ではNATO首脳会議期間に韓日首脳会談が開かれるかどうか、キム・ゴンヒ女史が同行するかどうかに関心が集まっているが、今回の会談はそれよりはるかに重みがある。

 今回の首脳会議は、1949年にソ連に対抗して創設されて以来、欧州の安全保障に集中してきたNATOをロシアと中国の「2つの脅威」に対応する「グローバルNATO」に変化させることを目指している。今回の会議で2010年以後初めてNATOの新しい戦略概念が採択される予定だが、NATOの軍事態勢を強化することと、活動範囲をインド太平洋地域に拡大することが主な内容だ。NATOは昨年6月、中国を「構造的挑戦」と規定し、「中国とロシアの影響力拡大を同時に牽制する」と宣言した。今年2月にウクライナに侵攻したロシアを中国が擁護し続け、中国に対する欧州諸国の警戒感がより一層高まった。「強軍夢」を掲げて軍事力を強化してきた中国が、台湾武力統一に乗り出す可能性に共同で対応すべきという共感が広がっている。このような状況で、尹錫悦大統領のNATO首脳会議への出席は、それ自体で非常に象徴的な意味を持つ。

 今、国際秩序をめぐっては3つの流れがぶつかっている。米国は同盟とパートナーを糾合して中国牽制・包囲網を幾重にも張り巡らせている。クアッド(Quad:米国、日本、オーストラリア、インド)やオーカス(AUKUS:米国、英国、オーストラリア)、「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」などを発足させる一方、韓米日軍事協力とNATOの役割強化も進めている。これに対抗して、中国の習近平国家主席は今年4月、グローバル安全保障提案(全球安全倡議)を打ち出した。 内政不干渉や主権尊重、領土保存原則を強調し、米国の一方主義に対抗するという。中国とロシア、北朝鮮が協力を深めながら、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、南アフリカ)との協力を強化し、南太平洋や中央アジア、南アメリカ、中東で中国側に立つ国々を結集させようとしている。一方、両陣営の間で、国土の大きさや石油エネルギー資源の影響力を利用し、巧妙な綱渡りをするインドやサウジアラビアのような国もある。揺れ動く国際情勢の末、どのような新しい秩序が作られるかは予断しがたい。第2次世界大戦後の国際秩序全般が揺れており、誤って対応した場合、大混乱または世界大戦の危険も排除できない不確実な時代だ。

今月15日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領がルーマニアを訪問した中、NATO軍兵士たちがコンスタンツァ近くの軍基地で査閲を待っている=コンスタンツァ/EPA・聯合ニュース

 民主主義体制に基づく輸出主導の製造業強国という韓国のアイデンティティと、北朝鮮の核・ミサイル脅威の強化という挑戦を考慮すれば、韓国が3つの流れの中で米国主導の流れに乗っていくことは避けられない現実だ。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領も昨年、「韓国首脳としては初めて」主要7カ国(G7)首脳会議と民主主義首脳会議に出席した。韓国が「米中間でバランスを維持しながら最大限の実利を追求する外交」だけでは、もはや難しい時代が到来してしまったのだ。

 問題はディテールにある。尹錫悦政権の外交は米国の大戦略と一体化しているようだ。韓国の能力と地政学的位置などを考慮した固有の戦略と慎重さが見当たらない。尹大統領は選挙運動期間中、「国民は中国を嫌っている」と述べるなど、嫌中感情を刺激しており、韓米首脳会談を控え、クアッド内の微妙な勢力バランスを考慮せずにクアッドに参加すると言い出し、米国側に「今のところ考慮していない」と返された。今回のNATO首脳会談への出席も、岸田文雄首相より5日も早く発表した。

 米国は中国・ロシアとの競争を「民主主義対権威主義の対決」と規定している。中国とロシアが国内で抑圧的統治を強化し、国際的には「帝国の復元」を念頭に置いた大国中心の位階的秩序を追求するのは警戒しなければならない。しかし、米国の民主主義は正常に作動しているのか、中間選挙と大統領選挙など国内政治の変化によって同盟を防衛するという米国の約束が揺れることはないのかも、問いながら点検する必要がある。国際秩序の混乱を防ぎ、朝鮮半島と台湾で武力衝突が起きないよう役割を果たす一方、米中間で緩衝空間を作り出す努力も続けていかなければならない。

 最近、中国の外交官たちは、韓国との会議でも米国の東アジア政策を非難し、北朝鮮とロシアを擁護し、韓国が台湾問題に干渉せず、米国の戦略核兵器を持ち込んではならないという要求を「北朝鮮のアナウンサーが声明を読み上げるように」繰り返しているという。尹錫悦政権の親米外交に対する中国の硬直した対応だ。「中国が報復するかもしれない」という恐怖に苛まれ、韓国がやるべきことを諦めてしまうなどはあってはならないが、困難が予想される中国との関係を管理し、万一に備える対策作りをよりいっそう徹底すべきだ。米国通ばかりの外交安保チームに中国通の専門家を入れて補強する必要がある。

 世界6位の軍事力、10位の経済力を持つ韓国がNATOとの安保協力に乗り出すのは、国際秩序のバランスを変える歴史的重みがある。「大統領は初めてだから」という言葉で批判をかわそうとする軽率さで、その重みに耐えられるだろうか。

//ハンギョレ新聞社
パク・ミンヒ|論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1047271.html韓国語原文入力:2022-06-17 02:51
訳H.J

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