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[寄稿]尹錫悦政権の真逆のインフレ対応

登録:2022-06-16 02:01 修正:2022-06-16 08:33
パク・ポギョン|慶熙大学教授、元大統領府経済補佐官
尹錫悦大統領が先月16日午前、ソウル汝矣島の国会本会議場で、コロナによって被害を受けた小商工人と自営業者に対する補償のための追加補正予算案の迅速な処理を要請する施政演説を行っている/聯合ニュース

 世界中がインフレーションの恐怖に包まれている。米国の物価上昇率はピークを過ぎてまもなく下がるという当初の期待とは異なり、先月は8.6%を記録し、41年ぶりに史上最高値を更新した。これを受け、金利引き上げがさらに加速するとの見通しが示されたことで、為替レート、株価、市場金利などの国際金融指標が動揺している。この物価上昇の勢いがいつごろ削がれるかを予想することも、今は難しくなった。韓国のインフレも心配なのは同じだ。5月の物価上昇率は5.4%でここ14年の最高値を記録し、6月には6%台に達する可能性もあるという見通しも出ている。1997年の国際通貨基金(IMF)危機以来の最高値だ。

 このような記録的な物価上昇圧力が予想される中、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の最初の経済政策は、59兆ウォン(約6兆1400億円)という史上最大規模の補正予算案の編成だった。コロナ禍で経済的衝撃が激しかった2020年から21年にかけてを除けば、この10年あまりの補正予算の規模は概して5兆~10兆ウォンほどだった。それと比較すると、尹政権の補正予算がどれほど大規模なのかが推察できる。さらに大きな問題は、このように資金を供給すればインフレのリスクを増幅させる恐れがあるという多くの専門家の懸念にもかかわらず、大規模な補正予算を強行したという点だ。3月に防疫制限措置が全面解除されたことで、抑えつけられていた消費が噴出し、物価を刺激することが予想されたが、ここに油を注いだのだ。

 時期も問題だが、規模はさらに問題だ。名目は小商工人に対して完全な損失補償を行うということだった。しかし、なぜ50兆ウォン台という莫大な規模の補正予算でなければならないのかについては、ほとんど何の根拠も提示されていない。

 50兆ウォンという数字は、大統領選挙の選挙運動期間に初めて登場した。当時の与党が前年度の超過税収を用いて各自営業者に300万ウォン(約31万2000円)支給すると約束し補正予算を編成したことに対し、尹錫悦候補は自身が当選すれば1000万ウォン(約104万円)支給し、そのために50兆ウォンの補正予算を編成するとして真っ向から対抗したのだ。選挙期間に両党が示した財政ポピュリズムの極致だった。税収が予想より多かったので、損失規模に関係なく自営業者に300万ウォンずつ一括支給するというのも問題だったが、当選すればそこに上乗せして1000万ウォン支給するという尹錫悦候補の発言は法外なものだった。当時、経済学者でもある野党議員さえ妥当性がないと言ったが、この約束は尹錫悦候補の第1号公約となった。

 それでも私の周囲の専門家たちはみな、選挙期間の空公約に過ぎず、大統領となれば実際には守れないだろうと予想していた。補正予算の規模が前例にないほど大きいうえ、インフレ圧力が高まり続けていたからだ。しかし当選した尹氏は、引き継ぎ委員会に公約の順守に努めるよう指示した。そのうえ政権が発足して2日後に、企画財政部は今年の超過税収は53兆ウォン(約5兆5200億円)に達するだろうと発表した。その瞬間、このとんでもない公約は推し進められる恐れがあるという不安に私は駆られた。

 わずか数カ月前には野党議員として300万ウォン一括支給を批判していた新任経済副首相は、結局のところ最大1000万ウォンの支援策を含む50兆ウォン台の補正予算案を発表した。大統領候補が何の根拠もなく吐いた数字が、インフレ時代において史上最大規模の補正予算として実現された瞬間だった。補正予算案は地方選挙をわずか数日後に控えた時点で国会を通過し、恩恵を受けた世帯は韓国の総世帯数の4分の1に当たるおよそ600万世帯に達した。恐らく民主化以降、選挙を前に繰り広げられた史上最大の財政ポピュリズムとして記録されるだろう。

 一部の人々は、コロナ禍の最中には自営業者に対する損失補償が十分ではなかったため、このような大規模な支援が必要だと主張する。しかし、補償規模の適切性の評価は容易ではない。昨年7月以降、政府は防疫制限措置によって被害を受けた自営業者に対し、売上減少による営業利益の減少分を補償している。営業利益だけでなく人件費や不動産賃借料などの固定費も補填している。他国とは異なり、制度化された損失補償制が実施されているということだ。このような損失補償制が導入される前には、社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)拡大戦略が強化されるたびに、4回にわたり各業者当たり約1000万~3000万ウォン(約312万円)規模の支援金を支給している。今回の補正予算で支給される支援金は、税収が余っているので既存の損失補償制とは別に追加で支給されるものだ。適切な補償手続きがあるにもかかわらず、選挙を前に被害規模の算定もなしに一定額を一括支給した人々が、よく財政健全性やインフレ対応を語れるものだ。

//ハンギョレ新聞社

パク・ポギョン|慶熙大学教授、元大統領府経済補佐官 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1047169.html韓国語原文入力:2022-06-15 19:28
訳D.K

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