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[社説]統合の代わりに「反知性主義」で批判勢力を狙った尹大統領

登録:2022-05-11 02:32 修正:2022-05-11 07:30
尹錫悦大統領が今月10日午前、ソウル汝矣島の国会前の広場で開かれた第20代大統領就任式で、就任演説を行っている/聯合ニュース

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が10日、第20代大統領就任演説で、「自由、人権、公正、連帯の価値に基づき、国民が真の主人である国、国際社会で責任を果たし、尊敬される国を作る」と述べた。大統領の就任演説は、新政権5年の国政目標と原則を国民に説明する手段だ。尹大統領は当面の危機と難題を解決するカギとして「自由の拡大」を強調したが、時代的要求である「統合」と「協治」には一度も言及しなかった。尹大統領が対話と妥協の代わりに一方的な国政運営を予告したのではないか憂慮される。

 尹大統領は就任演説で「政治が民主主義の危機で本来の機能を果たせずにいる」とし、その原因として「反知性主義」を挙げた。尹大統領は「行き過ぎた集団的対立によって真実が歪曲され、自分が見たい、聞きたい事実だけを選んだり、多数の力で相手の意見を抑圧する反知性主義が民主主義を危機に陥れている」と語った。尹大統領が自ら演説文に入れたという「反知性主義」は、事実上巨大野党になった共に民主党をはじめ、自身に批判的な人々を狙ったものとみられる。

 尹大統領はまた「見解が異なる人々が互いの立場を調整し、妥協するためには、科学と真実が前提にならなければならない」とし、「それが民主主義を支える合理主義と知性主義」とも述べた。相手に対する尊重と理解に基づき、意見の相違を調整するのではなく、司法的観点で事実関係を争い、国政を運営するということだろうか。自身に向けた批判と牽制を「抑圧」とみなすのも理屈に合わないうえ、国民を「知性」側と「反知性」側に分けているという指摘を免れないだろう。

 就任演説には、韓国社会の懸案解決に向けた具体的な実行案が明確に見えなかった。歴代の大統領が就任演説で自分が推進する政策方向を明示したことに比べれば、極めて異例のことだ。その代わり、尹大統領が主に掲げたのは「自由」だ。尹大統領は「繁栄と豊かさ、経済的成長はまさに自由の拡大」だと強調した。尹大統領は自分にインスピレーションを与えた本としてミルトン・フリードマンの『選択の自由』を挙げてきたが、同書で強調する自由は市場の競争と個人の責任を極大化する方式だ。新型コロナウイルス感染症の大拡散以来、二極化と不平等の解消に向けて国家の役割を拡大している世界的な流れとは正反対の方向だ。就任演説に福祉拡大や分配などが全く言及されなかったのも、同じ脈絡と言える。尹大統領が「行き過ぎた二極化と社会葛藤」に言及し、「跳躍と速い成長」を解決策として提示したことも、開発独裁時代の成長万能主義を連想させる。

 新しく発足した「尹錫悦政権」の前には国内外の難題が山積している。これを突破するためには、協治で野党の協力を最大限に引き出し、統合の政治を通じて国民的エネルギーを結集しなければならない。国政の無限責任は大統領にあるということを忘れないでほしい。

(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/editorial/1042322.html韓国語原文入力:2022-05-1019:29
訳H.J

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