周期的に朝鮮半島を襲う北朝鮮先制攻撃論が再び登場した。驚くべきことに、今回はワシントン発ではなくソウル発だ。2022年の大統領選挙の熱い争点になる兆しさえある。
北朝鮮に対する先制攻撃論が初めて登場したのは、1994年の第1次北朝鮮核危機の時だった。当時はクリントン政権が北朝鮮の核施設に対する外科手術的な攻撃を検討するとともに、在韓米国人の疎開作戦まで推進された。しかし、数百万人の犠牲者が出ると推定されたため断念したということもよく知られている。2度目は、2002年にブッシュ政権が先制攻撃ドクトリンを採択し、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しした時だ。朝鮮半島には戦雲が漂ったものの、同様の理由で断念した。3度目はトランプ政権初期で、北朝鮮が相次いで核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を強行したことで沸騰したが、2018年の朝鮮半島の春で劇的に軍事的緊張が解消された。
このように、北朝鮮に対する先制攻撃論は常にワシントン発だった。それもそのはずで、戦時作戦統制権は米国が握っているからだ。また、米国と韓国が被ることになる被害は比較にならないため、過去の韓国政府は強い反対の立場であったし、米国は韓国の立場を尊重した。しかし、韓国で先制攻撃論を世論化するとしたら、話は全く異なる。北朝鮮に対する先制攻撃論は、ワシントンにおいて北朝鮮政策のオプションとしていっそう力を得ることになり、たとえ決行されなくても、北朝鮮に対する心理戦として公然と言及され、朝鮮半島の緊張を高めるだろう。
北朝鮮に対する先制攻撃論は、北朝鮮は基本的に全面戦への拡大と政権の崩壊を恐れて韓国に対する報復攻撃はできない、という仮定に依拠している。しかし、先制攻撃によって北朝鮮の核を100パーセント除去することは不可能だ。非武装地帯(DMZ)一帯に配備され、1時間当たり約1万発を打てる長射程砲と、1000発あまりの弾道ミサイルによる報復攻撃の可能性は言うまでもない。
もちろん、韓国軍にも先制攻撃の概念はある。もはや韓国軍ではこのような刺激的な用語は使わないが、いわゆる3軸システムの一つである「キルチェーン」は、北朝鮮に核攻撃の兆候が見られれば事前に攻撃するという概念だ。問題は、北朝鮮による核攻撃の兆候を事前に100パーセント確信することはできないということだ。北朝鮮による核攻撃が切迫しているとの判断が誤っていたとしたら、それによって全面戦争という災厄を招く恐れがある。たとえ確実な核攻撃の兆候が見られたとしても、先制攻撃の前に大規模な報復を警告し、それを抑制することこそ優先されるべきだ。
軍事最強国の米国でさえ、先制攻撃を実行したケースはあまりない。米国は戦争を最も多く行なってきた国だが、典型的な先制攻撃は1986年のリビア空爆と2003年のイラク戦争程度だ。イスラエルによる1981年のイラクのオシラク原発に対する攻撃と、2007年のシリアの核施設に対する攻撃の例があるが、地政学的にも報復能力の面でも北朝鮮とは比ぶべくもない。北朝鮮への先制攻撃が実行されるなら、事実上、核保有国に対する前代未聞の作戦になるだろう。これは戦争史における最初の事例であり、そのように簡単に考えるべき問題ではない。
北朝鮮への先制攻撃はもっぱら軍事的に検討すべき事案であって、政治的に世論化されてはならない問題だ。軍事作戦計画を樹立することと政治指導者がメッセージを発することは全く別の問題だ。指導者がすべきなのは戦争を防ぐことだ。先制攻撃は、その他の代案がすべてなくなった時に最後に考えるべき問題であり、先制攻撃しか方法がないというような発想は極めて危険だ。軍事的には大量報復能力と拡張抑止によって北朝鮮の核使用そのものを抑制する戦略が基本となるべきで、根本的には非核化交渉の促進によって核の脅威を除去する方向へと向かっていかなければならない。
キム・ソンベ|国家安保戦略研究院首席研究委員・元国情院海外担当局長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )