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[寄稿]「新自由主義の死」叫ぶ35歳のチリ大統領候補

登録:2021-10-09 03:28 修正:2021-10-09 11:40
キム・スンベ|チリ中央大学比較韓国学研究所長

 「新自由主義の天国」チリに巨大な変化の波が押し寄せている。35歳の左派大統領候補のガブリエル・ボリッチ下院議員が、次期大統領の座に近づいているのだ。今月4日に発表された世論調査では22%の支持率を得て、極右のホセ・アントニオ・カスト(15%)、中道右派のセバスティアン・シチェル(12%)、中道左派のヤスナ・プロボステ(12%)の各候補をリードしている。回答者の37%は、彼が11月21日の選挙で大統領に選出されるだろうと答えた。韓国野党の「国民の力」のイ・ジュンソク代表より1つ年下だ。当選すればチリ史上最年少の大統領が誕生する。

 イ・ジュンソク代表が最大野党の最年少の代表になったのは、韓国政治の変化を望む民意を表している。ボリッチの浮上は、チリ社会の底辺の強い社会改革要求、古い政治勢力やパラダイムの転換への渇望などを象徴する。教育の公共性の強化を求めた2011年の全国的なデモ当時、ボリッチはチリ大学総学生会長として社会改革の声を代弁した。そのような社会的な熱気は、ボリッチが28歳だった2014年に彼の下院進出へとつながり、彼は新しい政治勢力のリーダーとなった。闘争歴が語るように、イ代表のようなこざっぱりしたスーツ姿の優等生のイメージとは程遠い。縞模様のTシャツと乱れた髪、ぼうぼうのひげは、革命家チェ・ゲバラをかすかに連想させる。

 彼の公約は、チリ社会の根本的な問題にメスを入れることを提案している。民営と公営に二分された医療保険の一本化、民間に委ねられた年金制度の公営化および基礎年金制の導入、新自由主義教育モデルの改革および教育権の保障、先住民自治権の認定、富裕層に対する増税、労働権の強化および週40時間労働制の導入、地方分権および地方自治の強化などだ。彼が代表する左派の選挙連合には共産党まで加わり、「急進左派」との攻撃を受けている。右派は彼を指して「指導者というよりゲリラに近い」と述べ、公約については「酔っぱらったラテンアメリカ左派のたわごと」と非難する。しかし彼の言葉と政策には、変化への渇望と未来に対する大胆な夢と覇気が込められている。

 「まだ若すぎる」という不安な視線も強い。9月末の討論では、非難を避けつつ安定感を印象づけ、討論の勝者となった。予備選挙で有力な共産党候補を下したのも、相対的に妥協的で合理的な態度のおかげだ。セバスティアン・ピニェラ大統領に対する弾劾要求が高まった2019年末の大規模反政府デモの際には、新憲法制定を通じて出口を見出した政治的合意に賛同し、手続き的制度改革に協力した。「我々の政府は巨大な変化を推進するだろう。一歩ずつ、誰も置いて行かず」というボリッチのスローガンは、全面的で漸進的な改革と連帯の目指すところを示しつつ、中道の有権者にアプローチしている。一方、中道左派は伝統的支持層の信頼を失い、候補選出をめぐる内輪もめまで起きている。中道右派は、中道層の支持を得ようとして正統右派の支持まで取り逃がしている。

 社会変革への熱望は、今年5月に行われた地方選挙と憲法制定会議選挙ですでに既成政治勢力の没落、無所属旋風、急進左派の浮上というかたちで表れている。11月の大統領選挙と同時に行われる上・下院選挙では、155人の下院議員全員と、43人の上院議員中27人を新たに選ぶ。この選挙でも左派の善戦が予想されるが、そうなれば彼の改革も勢いを得るだろう。チリの根幹を変革する新憲法まで来年に成立すれば、ボリッチの言うように「新自由主義の故郷」チリはもはや「新自由主義の墓場」となりうる。変数として決選投票が残っているほか、彼の当選と政策は右派の非難のとおり混乱へとつながるかもしれない。しかし彼は、国民的な熱望を込めて未来についてのそれなりのビジョンを提示し、審判台に立った。残念なことに、今の韓国政治と大統領選挙には、ボリッチの投げかける未来に向けた大胆で胸躍るようなビジョンがない。

//ハンギョレ新聞社

キム・スンベ|チリ中央大学比較韓国学研究所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1014419.html韓国語原文入力:2021-10-08 05:00
訳D.K

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