韓国が秋夕(旧暦8月15日の節句、新暦で今年は9月21日)の連休に入った20日、米国と欧州の証券市場は大きく揺れた。米国のダウ・ジョーンズ産業平均指数は一時2%以上下げるなど、ニューヨーク証券市場は約4カ月ぶりに最大幅の下落傾向を示した。欧州の証券市場はもちろん国際原油価格やビットコインなども同時に下落した。
その日の金融市場を揺るがした主犯は、中国の大型不動産開発企業の恒大集団(エバーグランデ・グループ)だ。同社の負債は350兆ウォン(約33兆円)に達する一方、現金は17兆ウォン(約1兆6000億円)に満たないうえ、近い将来に巨額の利子を償還しなければならないというニュースが浮上し、世界的な金融危機の触発への懸念がすぐに広まった。物価上昇など多くの不安要因のために脆弱になっていた投資心理を、瞬く間にさらに萎縮させたのだ。その後、不安は落ち着いたが、状況がさらに悪化する余地は残っている。
無理な不動産投資と事業拡張で始まったこの会社の資金危機は、何カ月も前から予想されていたことだ。それは、この会社が発行した社債の相場がよく示している。米国の経済メディアのCNBCによると、来年3月満期で戻ってくる恒大集団の社債収益率は、5月までは10%の水準だったが、資金難が深刻になり、2カ月の間に135%まで上昇した。最近の収益率は少なくとも560%に達する。
収益率560%は、今この会社の債券を買い満期まで持っていれば、560%の利益を得られるという意味だ。言い換えるなら、債券の相場が額面価格の18%まで落ち、事実上紙切れになったということだ。資金を踏み倒されるリスクが高く、この会社の債券を買おうとする人はほとんどいない状況だという話だ。
普通の投資家ならば、このような社債は考慮に入れないというのが常識だ。香港のある私募ファンドの最高経営者は最近、英国のフィナンシャル・タイムズにこのように語った。「私は職員に、恒大集団の債券と株式を20年間は触ることもできないようにした。あまりにもリスクが高く、ある日突然ひどい目に会うということは火を見るよりも明らかだ」
このような常識を無視するギャンブラーは常にいるが、最近この会社の債券を買いとった集団の面々は、少々意外だ。フィナンシャル・タイムズによれば、世界最大の資産運用会社のブラックロックと英国系の香港上海銀行(HSBC)が、7~8月にこの会社の債券を追加で買い入れた。ブラックロックは8月に恒大集団の社債5種類を買い入れ、現在4億ドル(約440億円)規模で持っている。HSBCの場合、7月時点の債券保有規模は5カ月の間に38%も増えた。両社は追加買い入れの背景についての論評を拒否したと、同紙は説明した。
有名な投資機関がなぜ紙切れのような恒大集団の債券を買い入れたのかについては、スイスの投資銀行のUBSが先週顧客に送った文章を通じて推測できる。同社は、恒大集団の社債3億ドル(約330億円)分を売却していないことについて、「債券を売却すれば、今後の建設活動の再開や外部資金による支援、政策調整などによる追加の機会を失うことになる」と説明した。外部資金による支援や政策を取りあげたのは、「まさか中国政府が恒大集団をそのまま破産させはしないだろう」という期待をほのめかしたものだと思われる。
巨大投資家が「高収益(ハイイールド)ファンド」を前面に出して行った投資が成功するか失敗するかは、まだ誰にも分からない。しかし、一つ明らかなことは、一般の個人は絶対に真似できないという点だ。ある中国人女性は、自分の親が恒大集団が分譲したマンションを買ったことを機に、この会社が売る金融商品にも投資したと述べ、「両親が期待したのは、(母の)高価ながん治療剤のために苦しくなった生計の足しにしたいということだけだった」と、フィナンシャル・タイムズに語った。この女性は先週、苦しい思いで恒大集団の本社を訪れたが、これといった収穫もなく踵を返さねばならなかった。
シン・ギソプ|国際ニュースチーム先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )