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[コラム]ルーズベルトのニューディール、文在寅のニューディール

登録:2021-08-26 03:58 修正:2021-08-26 11:01
さらに重要なのは、「ニューディール」を推進するにあたって大統領が直に国民に説明し、説得して支持を広げる努力が見出し難いということだ。デジタル分野で若者の雇用を創出し、プラットフォーム労働者に自らを守る権利を保障し、自営業者をセーフティーネットに組み入れることは、ニューディールの核心であるだけでなく、多くの国民にとって最も切実な生活の問題だ。今の韓国版ニューディールからは、経済と社会改革の両者をつなぐコミュニケーションと説得が見出せない。
昨年9月に大統領府で文在寅大統領の主宰により開かれた「韓国版ニューディール」第1回戦略会議の様子=大統領府ウェブサイトより//ハンギョレ新聞社

 約1カ月前の7月14日、大統領府で「第4回韓国版ニューディール戦略会議」が開かれた。1年前に文在寅(ムン・ジェイン)大統領が自ら「韓国版ニューディール」を宣言した第1回から数えて、4度目となる会議だ。1回目の会議で文大統領は「韓国版ニューディールは大韓民国の新たな100年の設計であり、大韓民国大転換宣言」だと明らかにした。今後5年間でデジタルニューディール、グリーンニューディール、セーフティーネットに160兆ウォン(約15兆円)を投資するという計画も付け加えた。政権後半期の最大の国政アジェンダであることは明らかだが、今そのように感じている国民はあまりいないように思われる。

 韓国版ニューディールに意味がないというわけではない。デジタルとグリーンは次世代の成長エンジンと見なされているため、来年3月の大統領選挙で誰が勝っても、推進し続けるしかないだろう。特に、環境保全と炭素ゼロを追求するグリーン分野は、私たちが集中的に力を注がなければならない部門であることは間違いない。政府は、コロナ以後の経済再建と成長のてことして、そのように韓国版ニューディールを想定しているように見える。

 重要なのは、1930年代の大恐慌時代に米国が推進した「ニューディール」という名前を、ほぼ1世紀が経った今、韓国でよみがえらせた訳を、政府が十分に認識しているかどうかだ。文大統領は「なぜ韓国版ニューディールと呼ぶのか。もともとニューディールは世界大恐慌時代、米国のルーズベルト大統領が危機克服のために採択した政策だ。最も肝心な軸の一つは労働者の権益伸張と福祉制度の導入であり、もう一つの軸は大規模な公共土木事業を通じての多くの雇用の創出である」と説明した。その通りだ。前例のないパンデミックのただ中で国政の最重要アジェンダを「ニューディール」と名付けたのは、単に経済再建と成長のみを念頭に置いたものではないと信じる。

 フーバーダム建設に象徴される大規模経済復興事業がニューディールの本質ではない。100年近く経った今でも全世界の多くの政治家が「ニューディール」を借用するのは、それが疎外された人々の暮らしを変えるという大胆な社会改革の約束だったからだ。労働者や女性、黒人、移民などの「忘れられた人々(forgotten people)」に基本権を保障し、自らの権益を伸張できるようにさせようという試みだったからだ。1950年代以降数十年にわたって続いた「豊かで開放的な米国」の土台を築いたのがニューディールだった。社会改革プログラムとして見ることなく投資および成長政策のみでアプローチすれば、国民との「新しい約束(NewDeal)」の意味は半減し、成果は限定的にならざるを得ない。朴槿恵(パク・クネ)政権の「経済革新3カ年政策」のような数多くの成長政策の一つとして、国民の記憶から消えていくことだろう。

 もちろん政府は「ニューディール」の一環としてセーフティーネットの強化に多くの努力を傾けていると言える。雇用保険の拡大は代表的な例だ。昨年12月からは、6万人あまりの芸術家が新たに雇用保険に加入している。今年7月からは12職種の特別雇用(特雇)・プラットフォーム労働者に雇用保険が適用されている。意義ある変化だが、これだけでは足りない。1930年代のニューディール立法の核心は、労働者に団結権と団体交渉権を保障したことだった。今も労働形態の変化により、多くの特雇・プラットフォーム労働者と間接雇用労働者が労働法の死角地帯に置かれている。伝統的な労働者の概念を拡張して、法の垣根の外で働く人々にセーフティネットを提供するとともに、自営業者をもセーフティーネットの枠内に組み込まなければならない。そのためには二大労総をはじめとする労働界との協力の模索が切に求められる。社会的対話機構が失敗しているため、政府は正規労働者を基盤とする労働組合を迂回して、直に非正規労働者と未組織労働者を救済するという考えのようだが、その限界は明らかだ。当然のことだが、非正規労働者の組織化や労働3権保障にもっとも熱心な勢力は、資本ではなく従来の労働組合だ。韓国版ニューディールの真の成功は社会的対話にかかっているということを忘れてはならない。

 さらに重要なのは、「ニューディール」を推進するにあたって大統領が直に国民に説明し、説得して支持を広げるという努力が見出しにくいということだ。ルーズベルトのニューディールは数多くの限界を抱えているが、絶えず国民とコミュニケーションを図り説得したということだけは高く評価できる。ルーズベルトはなぜニューディールが必要なのかを国民生活と結びつけて説明し、支持を広げた。空前絶後の当選4回はこうして可能になった。デジタル分野で若者の雇用を創出し、プラットフォーム労働者に自らを守る権利を保障し、自営業者をセーフティーネットに組み入れることは、ニューディールの核心であるだけでなく、多くの国民にとって最も切実な生活の問題だ。今の韓国版ニューディールからは、経済と社会改革の両者をつなぐコミュニケーションと説得が見出せない。残念である。

//ハンギョレ新聞社

パク・チャンス先任論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1009085.html韓国語原文入力:2021-08-25 16:06
訳D.K

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