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[寄稿]トランプの最大の犠牲者はトランプ支持者だ

登録:2021-01-25 01:30 修正:2021-01-25 06:35
スラヴォイ・ジジェク|スロベニア・リュブリャナ大学、慶熙大学ES教授
バイデン米大統領の就任式が行われた2021年1月20日、前任者のドナルド・トランプ氏は新大統領の就任式に出席せず、ワシントン近くのアンドルーズ空軍基地で行われた送別行事で演説する前に、複雑な表情を見せている/AFP・聯合ニュース

 T.S.エリオットの『寺院の殺人』に登場する大司教ベケットには有名な台詞がある。「正しいとしても、その理由が間違っているとすれば、それはまったく間違っている」。自らが教会を守るために行った「正しい」行為が、実は聖人として崇められたいという「誤った」動機から出ているのではないかと恐れる台詞だ。

 最近、米国ワシントンで起こった政治的事件は、ベケットの台詞を思い起こさせる。今年初め、ドナルド・トランプはマイク・ペンスに大統領選挙の結果を承認するなと迫った。米国の選挙制度は、新自由主義エリートたちが権力を維持するために用いる問題のある手段という点で、米国の選挙制度に対する問題提起は、それ自体としては間違っているとは言えない。しかしトランプが望んだのは、それを根本的に変えることではなかった。単に自分の政治生命を必死に延ばそうとしたに過ぎなかったのだ。

 1月6日にはトランプ支持者たちが連邦議事堂に乱入した。米国の選挙制度が、構造的に労働者階級の下からの不満を反映しえないように設計されていることを考えると、これを問題提起すること自体は十分に正しい。しかし、考えてみよう。トランプは支持者に資本を攻撃するよう扇動したことがあるか。トランプは資本の味方だ。トランプが自分の支持者を代弁するようなふりをするのは、彼らが自分たちを代弁するために直接立ち上がる危険な状況を事前に遮断するためだ。

 トランプはポピュリズムを掲げているだけで、依然として既存体制の中にいる政治家だ。彼は代議制民主主義の枠にとらわれず、人々と直接コミュニケーションを取るふりをする。しかしトランプのポピュリズムは、既存のポピュリズム(例えばファシズム)が権力を掌握して全く新しい秩序を樹立しようとしたのとは異なり、既存の支配体制を除去することには何の関心もない。今日の右派ポピュリズムは、自分たちが公言する目標を達成することを絶えず猶予する。自由主義的な秩序が作る足かせがなくなり、自分たちが非難する対象がなくなれば、彼らが自ら何かをしなければならなくなるが、そうなれば、自分たちには何のプログラムもないという事実があらわになるからだ。今のポピュリズムは、自由主義支配体制のいわゆる「ディープステート」を攻撃することでのみ存在しうるのだ。

 トランプは、自分を自由主義支配体制を攻撃する人間としてメッキする。このようなトランプの最大の犠牲者は、彼の言葉を真に受けた支持者たちだ。トランプこそ彼自身の言うポピュリズム的な大義の反逆者であるからだ。トランプは、決して自分の支持者の側に立ったことがない。支持者たちが議事堂に乱入した時も、彼は群衆を議事堂に向けて行進せよと扇動した後、ホワイトハウスに入ってテレビで状況を見守っていただけだった。トランプはクーデターを望んだのだろうか。いや、トランプは支持者たちの行為を称える時でさえ「もう帰宅すべきだ。法と秩序を尊重しなければならない」というメッセージを伝えることを忘れなかった。

 トランプは、支持者たちの議事堂乱入を「こんなことが起こったのは、私の大統領選での圧勝が情け容赦なく悪辣に盗まれたから」と正当化し「この日を永遠に記憶せよ」と述べた。私たちは本当にこの日を永遠に記憶しなければならない。その日は、トランプ・ポピュリズムの欺瞞性と米国民主主義の虚構性がともに暴露された日だからだ。1934年に進歩的な作家アプトン・シンクレアがカリフォルニア州知事選に出馬したとき、資本家はあらゆる手段を使ってシンクレアを落選させた。果ては、ハリウッドの資本家たちは、シンクレアが当選すれば映画産業をハリウッドからフロリダに移すとして、カリフォルニア住民を脅すことまでした。これこそまさに米国の似非民主主義だ。

 もはや米国には、他国が選挙を行う際、下からの意見が十分に反映される方向で選挙が行われるか監視するという名目で、選挙監視団を送るといういやらしい行為をやめてくれるよう願う。選挙の際に他国の監視団が必要なのは米国だ。米国はならず者国家だ。トランプが大統領になってからそうなったのではない。現在起きている事実上の内戦が示しているように、米国はいつも大きな亀裂の入った国だったのだ。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|スロベニア・リュブリャナ大学、慶熙大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/980109.html韓国語原文入力:2021-01-24 15:18
訳D.K

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