いま進められている防衛費分担金交渉の問題は、地位協定に背馳する特別措置協定にも再び違反し、在韓米軍の維持経費以外の費用まで韓国に負担させようとしているという点にある。すでに米軍は、昨年韓国が出した防衛費分担金のうち134億ウォンを在日米軍の戦闘機と探索救助ヘリコプターの整備などに使ったことが明らかになった。
防衛費分担金はなぜ問題なのか。一見すると何の問題もない。米国が軍隊を派遣し韓国の防衛を分担しているので、韓国はその費用を分担するということではないのか。韓国は経済的にも成長し国際的地位も高くなったので、それに見合った責任を負うということは、どう見ても論駁しがたい。トランプ大統領の話は正しいのではないか。
正しくない。韓国は2015年の一年だけでも5.4兆ウォンに及ぶ防衛費を分担した。平沢(ピョンテク)米軍基地移転事業も総事業費11兆ウォンのうち90%以上を韓国が負担した。本来は韓米連合土地管理計画改正協定により米国が負担することにした米2師団の移転費用まで、韓国がほとんど負担した。毎年すでに決して少なくない費用を分担しているだけでなく、両国の合意により米国が負担するはずの費用までも韓国が支給したのだ。韓国はすでに責任を負うべき以上の費用を分担している。
問題は、現在韓米の当局者が交渉している「防衛費分担金」は、このような広い意味の防衛分担とは異なるという事実にある。防衛費分担金は、「大韓民国と米合衆国間の相互防衛条約第4条による施設と区域、および大韓民国での合衆国軍隊の地位に関する協定第5条に対する特別措置に対する大韓民国と合衆国間の協定」(特別措置協定)により在韓米軍に支給される支援のことだからだ。この特別措置協定にともなう防衛費分担金としては、在韓米軍の駐留費用のうち一部を支援することになっている。現在トランプ政権が要求しているのは、こうした項目以外の支援も韓国が実施しろということだ。こうした要求がまさに問題である。
真っ先に注目すべき問題は、米国が法外に多くの金額を要求している点だ。当初トランプ政権は、韓国の直接・間接支援費の総額を超える6兆ウォン(約5600億円)を防衛費分担金として要求した。最近の交渉で米国側は、この要求額を13億ドル(約1兆6千億ウォン)に“縮小”したと言うものの、2019年の韓国の防衛費分担金と比較するとほとんど50%の増額にあたる要求だ。事実、特別措置協定が締結された1991年以後、防衛費分担金は雪だるま式に膨らんでいる。初年度に1073億ウォンだったものが、毎年増えて昨年は1兆389億ウォンにまで10倍近く増えてきた。一方、1991年に4万3千人に肉迫していた在韓米軍兵力は減少を続け、現在は2万8千人水準だ。なぜ兵力は減っているのに、防衛費分担金は上昇するという珍現象が起きるのだろうか?
特別措置協定が締結された背景に一つの答がある。この協定は、1991年の在韓米軍駐屯軍地位協定の1次改正と同時に発表されたために、その重要性が埋もれた。当時、社会的に注目を浴びたのは在韓米軍に対する韓国の刑事裁判権の自動放棄条項のような不平等条項の改正だったが、盧泰愚(ノ・テウ)政府が協定を締結した理由は1989年から始まった冷戦解体プロセスにあった。米国から米軍兵力の縮小要求が強く提起されて作られた3段階の在韓米軍再調整計画案によれば、1991年までの1段階で7千人を撤収し、3段階(1996~2000年)以後には最小限の米軍のみを残すということだった。在韓米軍を金科玉条としていた保守政府にとっては、青天のへきれきとも言える通知だった。慌てたあげく在韓米軍の撤収を防ぐための苦肉の策として、防衛費分担金という名目の金を出し始めた。
当時、盧泰愚政府がどれほど切羽詰まっていたかは、この特別措置協定がその母法である「大韓民国と米合衆国間の相互防衛条約第4条による施設と区域、および大韓民国での合衆国軍隊の地位に関する協定」(地位協定)に背馳しているという事実によくあらわれている。地位協定第5条は、米国が「大韓民国に負担を科さず、合衆国軍隊の維持に伴うすべての経費を負担」するとされている。ところが特別措置協定は、母法に反して在韓米軍の維持に必要な経費を韓国が負担することにした。国会の批准を受けた地位協定に重大な違反をした特別措置協定が、国会の批准を受けていないことも深刻な手続き的問題だ。
いま進められている防衛費分担金交渉の問題は、地位協定に背馳した特別措置協定にも再び違反して、在韓米軍の維持経費以外の費用さえも韓国に負担させようとしている点だ。すでに米軍は、昨年韓国が出した防衛費分担金のうち134億ウォンを在日米軍の戦闘機と探索救助ヘリコプターの整備などに使ったことが明らかになった。すでに現実的に特別措置協定を無視して、在韓米軍経費以外の目的に防衛費分担金を使ったのに続き、あろうことか新たな項目を作ってこれを正当化しようとしているのだ。
分担金の金額だけが問題なのではない。積弊は正さなければならない。
ソ・ジェジョン日本国際基督教大学政治・国際関係学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )