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ドナルド・トランプ米大統領が2月29日、ホワイトハウスでCOVID-19と関連してアレックス・アザー保健福祉部長官(左)とマイク・ペンス副大統領(左から3番目)などとともに記者会見を行なっている＝ワシントン/AP・聯合ニュース

　「アルコール消毒ジェルは今日売り切れて、マスクは結構前から在庫がありません」

　数日前、ワシントンから車で2、3時間離れたところに出かけたついでに、「人口が少ないところだから、もしかしたら」という思いで現地の商店に立ち寄ったところ、店員からこのような話を聞いた。近くの商店2、３軒をはしごして、棚の奥底に残っていた馴染みの薄いブランドの消毒ジェル数本を大事に持ち帰ってきた。

　韓国の深刻な状況には比べ物にならないが、米国でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、日常に深く浸透している。米国でCOVID-19の初の感染者が出てから、生活必需品店がごった返し、咳をしただけで周りの米国人たちに突然席を立たれたり、「あの人コロナでは？」とささやかれるような毎日を送っている。学校はCOVID-19関連の生活指針を盛り込んだメールを保護者らに頻繁に送っており、春休みに計画しておいた払い戻し不可の旅行をキャンセルすべきかどうか、深刻に悩んでいる人も多い。

　米国政府も慌ただしく動いている。マイク・ペンス副大統領は毎日、ホワイトハウスでタスクフォース会議を主催し、記者団にブリーフィングを行っている。米国内の感染者と死亡者が増えるにつれ、海外一部地域に対する旅行禁止や韓国とイタリアから米国に向かう旅行客に対する医療検査の義務化、米国内のCOVID-19検査の拡大など対策を相次いで打ち出している。

　あいにくにも、韓国と米国いずれもCOVID-19事態の中、大きな政治日程を控えている。韓国は4月に総選挙があり、米国は11月に大統領選挙を行う。そのため、米国でも疾病対処と政治的攻防が入り混じっている。トランプ大統領は米国のCOVID-19検査能力の低さに関する批判に対し、「オバマ政権時代、検査と関連して有害な決定が下された」とし、前政権に責任を転嫁した。米メディアは、オバマ政権時代に検査を制限する措置が実施されたことはないと指摘した。トランプ大統領が疾病の専門家でもない忠誠派政治家のペンス副大統領をCOVID-19のタスクフォースの責任者に任命したことをめぐっても、批判の声が上がっている。保健当局による率直な発言で国民の不安感を煽ることを防ぎ、株価を管理するためという疑惑が持ち上がっている。トランプ大統領は、ワクチン開発に1年以上かかるという専門家らの見解に対しても、「私には『数カ月以内』という言葉の方が嬉しい」として、ワクチン開発に拍車をかけることを求めた。

　トランプ支持者の間では陰謀論も広がっている。ナンシー・メソニエ疾病対策センター(CDC)長官が「米国内のCOVID-19の感染拡大は時間の問題」だと警告したことについて、これは彼女がトランプ大統領と仲の悪かったロッド・ローゼンスタイン前司法副長官と兄妹であることと関係があるということだ。不必要に政治が割り込み、事態の解決を妨害している事例だ。

　韓国にはいまだに政府がCOVID-19の発生初期に中国人の入国禁止を実施しなかったことで、事態が悪化したと非難する人たちがいる。現在ワシントンではトランプ大統領がCOVID-19の「ホットスポット」(頻発地域)と言及した韓国について、米国入国禁止措置を取りかねないとして、在米韓国人たちが不安に怯えており、外交部と駐米大使館が激しい外交戦を繰り広げている。米国が韓国に対して入国禁止を決定すれば、「文在寅(ムン・ジェイン)が中国に肩入れしている」と非難する人々は、「トランプが必要な処置を取った」と褒めたたえるだろうか。莫大な国家的威信の墜落と経済的打撃をもたらす事態を防げなかったとして、また韓国政府を非難するのではないだろうか。

　米国の6つの政権にわたり疾病事態の対応にかかわってきた国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・パウチ所長は、「ポリティコ」に「国民に正直でありながらも怖がらせてはならないため、非常に難しい仕事」だと述べた。過剰対応を控えながらも、不安を和らげ、生命と安全を守るという課題を、全世界がともに抱えている。いくら選挙で切羽詰まっていても、前後左右はちゃんと確認しながら進むべきだ。

//ハンギョレ新聞社

ファン・ジュンボム・ワシントン特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)