“ロシア・スキャンダル”に関するロバート・ミュラー特別検察官の448ページにおよぶ捜査報告書が公開された後、ワシントンに余震が続いている。ドナルド・トランプ大統領は「共謀も司法妨害もない」として、一方的に勝利を宣言したが、論議はまだ続いている。先月、ウィリアム・バー司法長官が公開した4ページの要約とは違い、今回の報告書にはミュラー特別検察官解任の企みなどトランプの執拗な司法妨害疑惑の事例10件余りが出ている。ミュラー特別検察官は「大統領が明確に司法妨害をしていないとの確信が持てたならば、私たちはそう指摘しただろう」と明らかにした。以降の処分を政界に委ねたのだ。
核心となる弾劾推進の可否をめぐり、野党の民主党は党内弾劾論を静めようと機敏に動いた。ナンシー・ペロシ下院議長など指導部と、バニー・サンダース上院議員など多くの大統領選候補者が議会調査に集中しようと主張した。共和党が多数を占める上院で3分の2の賛成を得ることはできず、弾劾は結局失敗するというのが最大の理由だ。弾劾の推進が、来年11月の大統領選挙を控えてトランプ支持層を結集させ、健康保険など他のイシューを飲み込むという主張もある。妥当な現実論だ。
だが、「政治でなく原則の問題」という反論もある。民主党の大統領選候補者であるエリザベス・ウォーレン上院議員が、率先してこれを明確にした。同議員は「これはトランプだけの問題でなく、未来のすべての大統領に関すること」とし、弾劾を主張した。トランプをそのままにすれば、他の大統領も似たやり方で権力を乱用するだろうという話だ。
米国史上3回の大統領弾劾議論の前例と比較しても、トランプの行為は軽くないという指摘も絶えない。1868年アンドリュー・ジョンソン大統領は、議会の同意を得ずに陸軍長官を解任したという理由で弾劾手続きが進められたが、上院で1票差で弾劾を避けた。1998年ビル・クリントン大統領は、私生活と関連して他の裁判でなされた偽証が口実になり、弾劾訴追されたが上院で否決された。トランプとの“デジャビュー”に挙げられるのは、ウォーターゲート事件で1974年に下院で弾劾訴追表決がなされる直前に自ら退いたリチャード・ニクソン大統領の事例だ。ニクソンは、盗聴事件を隠そうとして嘘をつき、アーチボールド・コックス特検をついに解任した。ジョージ・コンウェイ弁護士は「ニクソンがウォーターゲート盗聴を事前に知らなかったこととは異なり、トランプは側近が(彼の司法妨害行為を)止めようとした“ワンマンショー”だった」と主張する。トランプがニクソンと異なる点は、特検解任が参謀の抵抗により実行されなかったことだ。だが、『大統領職終了:弾劾の力』の著者ジョシュア・メッツは、ニューヨークタイムズに「(司法妨害行為の指示に)内部的不服従があったという理由で、弾劾に反対するには限界がある」と指摘した。
混乱の渦中でトランプ・ワンマンショーは続く。彼は“ツイート攻撃”などを通じて民主党と“フェイクニュース”を非難し、前・現職参謀の議会出席と資料提出を阻み、「弾劾が開始されれば最高裁に行く」と主張するなど、休む間もない攻撃を浴びせている。大統領の行為と民主主義の危機に対する論争よりは、“トランプvs反対勢力”の神経戦にしようとしているようだ。民主党は、ただ刃物を研いでいるだけだ。その間に米国民はそれぞれ親トランプ、反トランプの立場だけを強めているようだ。米国の人々は、もうトランプのいかなる行動や発言にも敏感に反応しない。未来世代に及ぼす影響を考慮するならば、実行の有無とは別に弾劾自体に対する真剣な討論が活発に進行されなければならないのではないだろうか。米国が民主主義の模範事例ではなく、退行事例の隊列に入るかもしれない瞬間だ。