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[記者手帳]不思議の国のシム・ジェチョル

登録:2018-10-03 09:40 修正:2018-10-03 15:17
シム・ジェチョル自由韓国党議員//ハンギョレ新聞社

 見習い記者時代のことだ。教育時間に言論界の先輩が「記者にとって最も必要なのは何だと思うか」と尋ねた。血気盛んだった私や同期たちは「正義感」や「使命感」、「記者精神」と答えたが、先輩の正解は「好奇心」だった。「街頭で人が輪になってざわざわしているのにそのまま通り過ぎるような記者は記者ではない」。好奇心は(人々を)真実へと導く。

 見たいのによく見えないと好奇心はさらに大きくなる。大韓民国最高のセレブである大統領が生活している所だが、国家安保のためセキュリティが強調されている大統領府(青瓦台)は、まさに「好奇心の巣」だ。しかも大統領府は裁判官が発行する令状の執行も事実上不可能だ。2012年11月、李明博(イ・ミョンバク)大統領一家の内谷洞(ネゴクドン)私邸敷地の購入疑惑を捜査していたイ・グァンボム特別検察官チームは、李明博の金を節約するため、国の金を不当に使った大統領府警護処の家宅捜索に失敗した。「軍事上機密を要する場所は責任者の承諾なしには家宅捜索をできない」という刑事訴訟法条項のためだった。

 「国家の重大な利益を害する場合を除いては、(家宅捜索の)承諾を拒否できない」という端緒規定もあるが、無用の長物だった。捜査機関の家宅捜索が国益を侵害するかどうかを判断する主体も捜査対象、すなわち「大統領府」であるからだ。2017年2月、朴槿恵(パク・クネ)-チェ・スンシル国政壟断事件を捜査していたパク・ヨンス特検チームも、同じ理由で大統領府を捜索できなかった。

 そのようにセキュリティが強調され、幾重にも保護を受けている大統領府に穴があいた。国家財政情報システムから国政監査資料を取り出したシム・ジェチョル自由韓国党議員の補佐官らが、正当に発給されたIDで接続し、大統領府職員の業務推進費の内訳などを入手したのだ。国民の税金を大統領府と政府省庁が規定通りに使っているかを問うのは、不純な好奇心ではない。シム議員は企画財政部の指針に反した業務推進費の支出を指摘し、解明を要求した。「非正常的な南北首脳会談合意が行われた裏には、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)と韓国側の主体思想派の隠れた合意がある」というホン・ジュンピョ元自由韓国党代表の主張よりは、はるかに合理的な問題提起だ。大統領府と政府はシム議員の疑惑提起に「真実はこうだ」と一つひとつ説明すれば済むことだ。

 

 しかし、政府と与党は「国家機密の不法な奪取事件」だとして問題を大きくしている。大統領府に納品する食材業者と警護処の通信装備の供給業者のリストもシム議員室が違法に入手したとして「国家安保を脅かす反国家行為に他ならない」と主張している。しかし、シム議員は大統領府と取引する会社のリストを公開したことはない。「ソウル市内だけでも固定スパイが数十万人」というある公安検事の安保観のように細かすぎる憂慮だ。「国家安保を脅かす機密流出」なら、これを防止できなかった韓国財政情報院の過失も甚だ大きい。だが、この情報を入手したシム議員だけを国事犯に追い立てている。

キム・テギュ政治チーム記者//ハンギョレ新聞社

 時計の針を2年ほどばかり戻して考えてみよう。野党だった共に民主党が財政情報システムから大統領府の業務推進費の内訳を入手したなら、どうだっただろうか。「反国家事犯として厳罰に処す」という朴槿恵(パク・クネ)大統領府の目玉を喰らい素直に資料を返したら、国民が拍手をしただろうか。

 正当な好奇心の別の言葉は「知る権利」だ。好奇心を抑圧すれば真実の純度は薄くなり、ある瞬間には言葉にすらできなくなる。2014年11月、「チョン・ユンフェが陰で国政に介入している」という大統領府文書が公開されると、朴槿恵大統領は「国家規律紊乱行為」だと激怒し、検察は迅速に事件を“整理”した。李明博・朴槿恵政権は検察を犬のよう使い、人々の好奇心を押さえつけた。不思議の国、異常な国だった。

キム・テギュ政治チーム記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/864165.html韓国語原文入力:2018-10-03 01:06
訳M.C

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