アジアの豊かな自然エネルギー資源を活用し拡大するため、各国を送電網(グリッド)でつなぐ「アジア・スーパーグリッド(ASG)」という構想がある。壮大な夢のようだが、次第に現実味を帯びてきた。
モンゴルには膨大な太陽光・風力資源があり、少なめに見ても、その潜在量は2.6兆ワットにおよび、年間15,000TWhの電力を供給できる。日本と韓国の現在の電力需要約1,500TWhの10倍以上で、中国の電力需要約6,000TWhとの合計よりも大きい。隣国の中国は、世界の自然エネルギー拡大を牽引し、投資も世界最大規模だ。ロシアにも豊富な水力資源が存在するし、日本も太陽光の伸びが加速している。
スーパーグリッドというと、まるで送電網構築だけを指しているようだが、実は、こういった自然エネルギー資源の利用こそが目的である。そして、この目的を現実に近づけているのが、今世界で起きている三つの大きな変革だ。
まずは、自然エネルギーの大幅なコスト低下だ。風力は随分前からkWhあたり4セント台で発電してきたが、太陽光も、日照がよく土地の価格も安い地域では、すでにkWhあたり1セント台という驚異的な入札価格が登場している。まだまだ高いと思われてきた洋上風力も5セント台の落札価格が出ている。多くの国や地域で、自然エネルギーは、今や原子力や化石燃料よりも安くなっている。
二つ目は、この急激な価格低下が、これまで一部先進国のものだった自然エネルギーを、今後の温室効果ガス削減の鍵を握る主要途上国で急速に拡大させていることだ。世界全体の風力発電の設備容量は、17.4GWから約500GWと約30倍になった。太陽光は、2000年の1.3GWから300GWとなんと300倍に増えている。現在自然エネルギーが加速している国の筆頭が中国であり、欧米や日本も交えながらも、インド、南アフリカ、チリ、ブラジルなどが後を追う。
三つ目は、この流れを支える二つの技術革新だ。一つは、言うまでもなく情報通信技術の発展であり、ITの進展が、需要や天候予測と連動した近代的な電力市場の構築を可能にした。そして、もう一つは、高圧直流送電技術の発達だ。つい10年前にはまだまだコストの高い技術だったが、高圧直流送電は、周波数の違いや海底600キロもの遠距離を超え、少ないロスで安定的に自然エネルギーを活用するための重要な技術に発展している。
電力を安定的に供給するためには、需要と供給を同一に保つ必要がある。需要は常に変動するので、これまでガスや石油など立ち上がりの早い発電所や、大型水力や揚水発電を、需要にあわせて調整する方法がとられてきた。しかし経済性という観点からは、変化する電力需要を満たすために、発電コストの安い発電所から順番に運転することが最も合理的だ。
さまざまな種類の発電所を、いわゆる「メリットオーダー」という限界コストの安い順に並べると、発電しても追加燃料費のかからない自然エネルギー;水力、風力、太陽光、地熱発電が最初にくる。そして一般的には、原子力、石炭、ガス、石油の火力発電が続く。限界コストの低い順に発電を行うことが、もっとも経済合理的となり、このメリットオーダーによる市場運用は、欧米など、電力市場が整備されている国々で行われている。そういった市場では、自然エネルギーは、燃料費のかからない電源として、優先的に利用されるものと位置付けられている。
一方で、太陽光や風力は、気象条件によって発電量が変動する「変動型自然エネルギー」だ。電力系統に統合されていけば、より需要に追従できる系統運用が必要になる。そして、変動型自然エネルギーを安定的に電力系統に統合していく方法の中でもまず取り組むべきなのが、系統の広域的な運用であり、国際送電網はその最たるものだ。
広域運用にはさまざまな効果がある。まず、広域連系を通じ、異なる電源構成や需給パターンを持つ地域や国間で、より効率的な発電設備運用と安定供給が実現する。資源量の平準化も起こり、特に太陽光や風力の発電量を左右する気象の変動は広域的に平準化される。また、系統上の異なる調整方法が増加し、出力変動そのものへの調整力が増加する。さらに、需要の少ない地域でもそれを上回る量の自然エネルギーを導入し、広域系統を利用して、その他の地域に自然エネルギーの電力を流すこともできるようになる。
国際連系により、異なる卸売り電力市場間の取引が実現し、市場競争が促進され、広域でのメリットオーダーの実現で、市場間価格差の低減が起きる。時間帯の異なる国々の多国間連系が可能となった場合、特に東西南北に拡がるアジアでは、国と国を結ぶことで、電力のピーク時間帯がずれることにもつながる。
こういった効果はすでに世界で実証されており、実は、主要国の中で、他の国とまったくつながっていないというのは、韓国と日本だけである。ちなみに、釜山−福岡間は約200kmだが、欧州では600km規模の高圧直流海底ケーブルが実用化されている。
海外の化石燃料やウランに依存する大規模な既存エネルギーから、分散型で環境に負荷を与えず、循環をもたらす国内エネルギーへと、北東アジア諸国も転換していく時である。
「アジア・スーパーグリッド」は、決して夢の話ではない。より安価で、安定的で、平和なエネルギー利用を実現する方法である。こうした相互依存の関係は、新しい北東アジアの外交関係を築くことにもつながるに違いない。
大林ミカ 自然エネルギー財団 事業局長
韓国語原文入力:2017-11-16 18:23