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[寄稿]伝統ジャーナリズムと大統領の「弾劾」

登録:2016-12-02 00:05 修正:2016-12-02 08:44
「チェ・スンシルゲート」を最も執拗に報道してきた「ハンギョレ」の「ミルTF」リュ・イグン記者が挙げた4回のターニングポイントとなったハンギョレ1面記事。ハンギョレは9月20日からほとんど毎日1面に「チェ・スンシルゲート」関連単独記事を書いてきた//ハンギョレ新聞社

 国民が大統領の「弾劾」を叫んでいる。このような状況はメディアの役割によって可能になった。そう判断する根拠は次の二つだ。第一に、個人は自分の環境ではなく、メディアが描写した内容を土台に政治を認識する傾向がある。メディアを通じた「他人」の態度、信念、経験に対する知覚もまた、市民の政治現実の認識に大きな影響力を発揮する。マスコミが「チェ・スンシルゲート」を暴露してから、百万をはるかに超える市民が光化門(クァンファムン)のろうそく集会に参加して、95%以上の有権者が大統領の職務遂行を否定的に評価している。このように集約された意見の表出を観察した個人は、大統領がこれ以上国政運営を担えないと判断し、弾劾は必然的帰結という結論を下すことになる。第二に、個人はネットワークを構成している家族や隣人そして職場の同僚たちから政治現実の認識に有用な情報を得る。さらに、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にアップロードされた弾劾関連ニュースをシェアーしたり、ろうそく集会への参加記念写真を見ながら、自分のネットワーク内にあるこれらの性向や意見を概ね正確に推論する。そして、そのような判断は個人の政治的選択に影響を及ぼす。SNSの環境は物理的距離にとらわれずに個人間のコミュニケーションを可能にする。ネットワーク内で共有されるニュースと知人の政治的意見に対する認識が個人の政治的態度に及ぼす影響がさらに高まっているわけだ。

 一人の民間人が国政を壟断するほど国家の統治システムが脆く、正常ではないルートが制度化されたチャンネルを支配するという、とんでもないドラマのようなニュースに私たちは怒りと侮蔑感を感じる。民主主義の崩壊という恐怖と不安感を感じるようになると、市民たちは様々な方法でこうした感情に対処しようとする。何よりも危険を避け、恐怖を解決する方法を探し求めるが、この過程で私たちは普段よりさらに積極的に情報収集に乗り出すことになる。

 「チェ・スンシルゲート」に対する市民の情報探索行為は、これまで私たちが経験してきたものとは、大きく異なっていた。第一に、時代遅れとされてきた紙の新聞と、B級放送と見られていた総合編成チャンネルが、先頭に立って告発と議題設定をリードした。「ハンギョレ」、「TV朝鮮」、「JTBC」の権力監視の役割は、伝統的ジャーナリズムの帰還と評価されるほど鮮烈な印象を残した。第二に、ろうそく集会の参加者たちは進歩対保守の観点ではなく、常識対非常識という構図で「チェ・スンシルゲート」を評価し、広場は共同体のメンバーたちの怒りと侮蔑感を超えて、希望を分かち合う空間だった。

キム・チュンシク韓国外国語大学メディア・コミュニケーション学部教授//ハンギョレ新聞社

 今私たちは、メディアによるジャーナリズムの実践が、市民の政治関与や参加を促す核心要因であることを体感している。ニュースが政治をめぐる対話の情報源だからこそ、広場の世論形成過程はこれによって条件づけられる可能性が高い。ところが、市場原理が力を伸ばすほど、最も質の良い紙新聞のニュースの受容者は減っていく。例えば、2015年、紙新聞の購読率と閲読率は14.3%と25.4%で、この20年間にそれぞれ55%ポイントと59.9%ポイントも下落した。市民たちはメディアが提供したニュースを通じて政治を間接的に経験する。市民が主体になる民主主義を守るためには、言論の基本に忠実なジャーナリズムの実践が欠かせない。まともなジャーナリズムの居場所が失われれば、民主主義は脅かされる。伝統的メディアのジャーナリズムの実践を支援し監視するための社会的次元の議論が必要である。

キム・チュンシク韓国外国語大学メディア・コミュニケーション学部教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/772866.html 韓国語原文入力:2016-12-01 18:08
訳H.J(1661字)

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