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[寄稿]労働尊重がソウル九宜駅事故の答えだ

登録:2016-06-15 03:32 修正:2016-06-15 07:04

 九宜(クウィ)駅のスクリーンドア事故に最も大きな責任を負っているソウル市のパク・ウォンスン市長は、キムさんの死をきっかけにソウル型労働革命を起こすと述べた。ソウル市の原因究明と責任者の処罰、代案には期待しているが、これはソウル市だけの問題ではない。

 私は韓国に根強く残る(肉体)労働を卑下する慣行や、労働をコストとしてしかとらえない韓国社会の主流支配層の考え方、大卒でなければ一人前として認められない韓国社会の慣行が複雑に重なり合った結果、彼を死に至らしめたと考える。彼はインスタントラーメンで食事を済ませながら、144万ウォン(約13万円)の給料の中で100万ウォン(約9万円)を貯め続け、大学に進学しようとした。彼が自分を死に追い込むかもしれない危険な労働条件を受け入れた理由は、生活費と授業料が必要だったからであり、ソウルメトロ子会社の正社員になれるかもしれないという期待が、大学卒業後は今とは異なる人生が広がるという希望があったからだろう。

 民主労総の組合員だった彼は、雇用不安のためにプラカードを持ってデモをしたこともあった。しかし彼は、労働者の権利を集団的に提起できず、賃上げを求めることも、生命の脅威を感じながらも作業中止権を行使することもできなかった。工具など握ることもない親世代のメトロ出身の幹部や正社員が400万ウォン(約36万円)の給料をもらう間、自分はほとんど最低賃金水準の給料で、まともにご飯も食べられず、駅から駅へと走り回って努力しなければならなかった。

 彼が生きていたら、1年の期間契約は更新されたかもしれないが、正社員の夢を実現できたのだろうか? そして、正社員になれば、果たして幸せになれるのだろうか? 一生懸命お金を貯めて、大学を卒業できたかもしれないが、自己紹介を200回も書かなければならない、今の大卒失業者の青年になったのではなかろうか? それでも19歳の若い彼は、この社会が作り出した、教育を受ければ正社員にも管理者にもなれるという神話に疑問を持つことができなかった。現実をただ耐え抜くには、彼にとって「未来」はあまりにも大きく開いていた。残念ながら、彼に未来はなかったが。

 (肉体)労働卑下/階層上昇というドグマは、この社会主流層の利害関係から生まれたものだ。汗だくで働いている人やパートタイマー、危険な作業場の労働者に、より多くの賃金を与えるより、オフィスに座っている管理者に、高い報酬と仕事の安定性を保障するのは、資本主義の一般的な特徴ではなく、韓国式の官尊民卑、労働蔑視の慣行であり、その最大の受益者は官僚と企業家たちだ。公企業のコスト削減、経営効率を暴力的と言えるほど強制しながらも、自分たちはいかなる牽制や監視も受けず、退職後は公企業に天下るこの国の高学歴官僚たちの特権と腐敗、マスコミと知識人たちの繰り返されるドグマの流布も、また利害関係と無関係ではない。企業が危機に瀕すると経営者を問責せず、労働者の首を先に切るのは最も退嬰的な韓国式新自由主義だ。

キム・ドンチュン聖公会大社会科学部教授//ハンギョレ新聞社

 メトロ労組は労働が尊重される社会を作るよりも、自分の仕事を守るために重要な業務のアウトソーシングをし、子供のような青年たちが低賃金と危険にさらされている状況に目を瞑っており、市民たちは自分が費用をさらに負担しなければ、誰かが命を捧げなければならないという事実に気付いていなかった。彼らは労働者のストライキを罪悪視するマスコミの報道に拍手を送ったため、青年たちが低賃金の危険な労働に甘んじながら、大学進学のためにすべてを奉げるようになったとは考えていない。

 現在のメトロ予算の範囲内でもキムさんは250万ウォン(約22万円)の給料をもらえたはずであり、労働組合と市民社会の監視権があったなら、彼は2人1組の作業チームで働きながら、少なくとも命は保障されただろう。韓国同様、労働者の権利が弱い日本でもパートタイマーや非正規労働者は(韓国より)もう少し給料をもらえる。配管工が教授よりも多く稼ぎ、高卒と大卒の賃金格差がさらに減れば、そして学校で子供たちに労働を尊重し、労働権の概念を教えることができれば、キムさんは整備工としての誇りを持ち、大学行くために無理に働かなくてもよかったはずだ。

キム・ドンチュン聖公会大社会科学部教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-06-14 22:37

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/748233.html 訳H.J

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