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[コラム] リー・クアンユー、エアコンと民主主義

登録:2015-03-31 09:46 修正:2015-03-31 10:53

 先だって死去したリー・クアンユーはシンガポールに成功をもたらした一つの要因にエアコンを挙げた。彼は首相になるといち早く公務員が働くビルにエアコンを設置し、それが政府の効率性を高めたと誇った。効率的な政府を作り上げ、シンガポールを世界最高のお金持ちの国に導いたリー・クアンユーの実用主義を実によく物語っている。

 シンガポールの奇跡も、自由市場の資本主義と国家の積極的な経済介入が結びついた実用的モデルによるものだった。シンガポールは低い税金と経済開放で世界の企業を呼び込むと同時に、教育と産業発展のために戦略的な努力を傾けた。また、政府が80%以上の国民に公共住宅を提供し、航空会社から動物園に至るまで様々な公企業を所有・管理する。だが、シンガポールの経済発展は一方では権威主義的政治体制に基づいている。成長の陰でリー・クアンユーはアジアの価値と文化を強調し、民主主義と人権を押さえ込んできた。彼の息子が現在の首相となり家族が国家を支配している。政府に対する批判が禁止される言論の自由がない国。鄧小平の改革開放のモデルになったシンガポールは今、権威主義に基づく繁栄を夢見る中国で再び未来のモデルとなった。

 リー・クアンユー死後、韓国でも腐敗を清算しビジョンを実践した彼の業績を称賛する声が響く。自由を留保してでも経済を発展させねばならないとする権威主義の香水まで漂わせ。実際、過去のシンガポールと韓国では、開発途上国では独裁が成長に役立ち民主主義は贅沢品とする主張の根拠にもなった。しかし多くの国家の歴史的経験を振り返れば、権威主義は成長率を高めないことが分かる。時間的変化を考慮した経済学の最近の実証研究は、民主主義の発展が経済成長を促進すると報告している。また、様々な学者が革新と成長の促進のため、富と権力の集中を防ぐ民主的で包容的な政治制度と経済制度が必須であると強調する。

 シンガポールは他の独裁政権とは異なり、清廉で発展指向的な政府の主導の下に経済成長の恩恵を誰もが共有し、眩いばかりの発展を遂げた。しかし、最近のシンガポールでは貧富の格差と富の集中が深刻になり憂慮が広がっている。国は金持ちなのに多くの労働者は貧しく、相対的貧困率は実に20%を超えると推定されるのだが、政府は公式的貧困統計さえ発表しないでいる。また、2000年代以後所得の不平等が悪化し、2014年の上位10%の世帯の所得は下位10%に比べ18倍にもなる。政府の再分配機能は微弱で、可処分所得基準のジニ係数は0.412で他の先進国よりはるかに高い。人口の4分の1以上に増えている劣悪な境遇の外国人労働者も悩みの種だ。失業保険も出さないほどけちくさいシンガポール政府が、2007年から貧困層のための支出を増やし、今年の富裕層の最高所得税率を20%から22%に引き上げることに決めたのも、こうした現実を反映したものだ。

イ・ガングク立命館大経済学部教授//ハンギョレ新聞社

 不満と変化の動きはすでに政治に現れている。与党は2011年の総選挙で歴代最低の60%の得票率に終わり、その後の補欠選挙でも敗北した。相変らず与党が議会を掌握しているため政府に対する信頼度は高目に現れるが、政治体制を変えねばならないとする声はますます高まっている。リー・クアンユー死後、こうした変化の要求はより一層強まる見込みだ。シンガポールも社会安全網のための政府の役割を強化し、より平等な発展モデルを追求しなければならない時期に入っている。持続的成長のために成長の果実と権力を市民に分配する努力が要求されているのである。リー・クアンユーが去った今、シンガポール人に必要なのはエアコンではなく、より多くの自由と平等、そして民主主義だ。

イ・ガングク立命館大経済学部教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015.03.30 18:56

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/684604.html 訳Y.B

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