ソウル地下鉄車内が監視されている。 ほとんど“ドッキリカメラ”水準だ。 しかし市民の誰もこのような事実を知らずにいた。 ソウル地下鉄の運営主体であるソウルメトロとソウル都市鉄道公社は昨年6月から2号線と7号線の車両ごとに2台の監視カメラ(CCTV)を設置して運営している。 設置目的は火災予防と性犯罪予防など“市民の安全”だというが、全く実効性がない。 かえって市民監視と人権侵害、予算浪費と乗務員の安全運行妨害を招いている。 ついに大統領直属機関である個人情報保護委員会が乗り出して去る1月29日「緊急な状況を除き、常時モニタリングはしないこと」を勧告したが、それさえ今だにまともに守られていない。
現在ソウル地下鉄2号線運行車両の43%(主に新型車両)と7号線で運行中の全車両の天井に監視カメラが設置されている。 2号線に712台、7号線に992台、計1704台が運用されている。 カメラに撮られた映像は前後の運転室に設置されたコンピュータ画面と総合管制室で見ることができる。 この映像はコンピュータに保存され保管されるので、永久保管と外部流出も可能だ。 これまでこのような事実を乗客は全く知らずにいた。 これは深刻な市民監視であり人権侵害だ。 地下鉄乗客の平均乗車時間は20分余りだ。 その時間、誰と乗ってどこに移動したか、どんな事をしていたか、確認が可能だ。 乗客の一挙手一投足が監視されるわけだ。 個人情報保護法25条は公共機関が監視カメラを設置する場合、公聴会や説明会を開催して専門家と利害関係者の意見取りまとめを通じて設置可否と場所、活用目的などを決めるようになっている。 だが、両公社は監視カメラを設置するに当たってこのような手続きを全て無視した。
両公社が主張する性犯罪と火災予防など“市民の安全”という設置目的も、全く説得力がない。 性犯罪は主に乗客が多い出退勤の時間帯に発生する。 乗客が多い時には客室天井に設置されたカメラは乗客の頭を写すだけだ。 客室でどんなことが起きているのかとうてい確認することはできない。 たとえ確認できたとしても、乗客が多く常に乗り降りしているので緊急に措置することはできない。 火災予防も運転室に設置された映像画面だけ見たのでは不可能だ。 コンピュータ画面が10秒ごとに客室を1輌ずつ順繰りに映し出すので、あっという間に発生しうる火災を発見するのは容易でない。 たとえ発見しても電車の長さが長く火災現場まで行って措置できる時間が非常に足りないのが実情だ。
ソウル地下鉄のうち唯一2号線だけに設置した理由は、2号線の1人乗務計画をソウルメトロ側がまだあきらめていない点にある。 これまで公社側は2号線の1人乗務導入のために、途方もない予算を投じて新型電動車を導入し信号体系を全面的に改編した。 車内の監視カメラさえ設置すれば技術的に1人乗務が可能になる。 2号線は乗客が最も多く曲線区間も多い。 2号線に1人乗務が導入されるならば、大規模な人員削減により大邱(テグ)地下鉄火災惨事よりさらに深刻な安全事故が発生する恐れがある。
今設置されている車内の監視カメラは直ちに撤去されなければならない。 そして個人情報保護法に違反してまで設置を主導した関係者を厳重に問責しなければならない。 両公社は監視カメラ設置により“市民の安全”が保障されているという客観的な資料を全く提示できずにいる。 “市民の安全”は監視カメラや機械でない“人”によらなければならない。 地下鉄の車内で性犯罪と火災を予防する方法としては、車両ごとに設置された乗務員との非常通話装置が最も迅速であると言えよう。 また、市民の安全を専門的に担当する“安全要員”をさらに補充しなければならない。 その方法は現在77人しかいない“地下鉄保安官”を拡大することだ。
労組と人権団体が問題を提起すると、両公社は一ヶ月経てば画面が自動的に削除されるので別に問題がないと言い繕った。 また、個人情報保護委員会の勧告事項である「常時モニタリングはしないこと」 を数日前に乗務員に公示した。 それも、いかなる教育や説明もなしで公文書一枚で処理したのだ。 客室内の監視カメラが設置された時はそれさえもなかった。 しかし今この瞬間も車内の監視カメラは作動している。 これが公共機関の個人情報保護と市民人権保護の現住所だ。
ファン・チョル ソウル地下鉄2号線乗務員