「我々は長い間このことで苦しむだろう。人々を間違った道に導いてしまって申し訳ないと言いたい。故意ではなかった」
米国の右派インフルエンサー、タッカー・カールソンは先月、自身のポッドキャストという公開の場で、トランプ大統領への支持を撤回した。カールソン氏はトランプ誕生の土壌となった「右派メディア・エコシステム」を代表する人物。数千万人のフォロワーを持つカールソン氏の離脱は、トランプ大統領を支持する保守連合勢力「MAGA(米国を再び偉大に)」の分裂を告げるものだった。
対立の火種は米国・イスラエルとイランとの戦争だ。トランプ大統領が「終わりなき戦争を終わらせる」との公約を覆して戦争をはじめると、支持者たちは「トランプ個人忠誠派」と「反戦・孤立主義派」に分裂。政治著述家のジェイソン・ゼンガールは「MAGAがトランプ個人を崇拝する集団なのか、特定のイデオロギー原則に従う運動なのかが試される段階に入った」と診断した。
ユーチューブ、ポッドキャスト、ソーシャルメディアなどで巨大な視聴数を武器にトランプ当選のために団結してきた右派メディア・エコシステム内では、互いを「裏切り者」と呼ぶ罵り合いが横行している。右派・極右の著名な人物らは、トランプ大統領が「米国第一主義」を裏切ったと批判する。キャンディス・オーウェンズとアレックス・ジョーンズは、大統領の職務停止要件を規定する憲法修正第25条に言及しつつ「トランプ退陣」を叫んでいる。メーガン・ケリーは、「今日、ひとつの文明全体が滅びる」とイランを脅したトランプ大統領に対し、「正常な人間らしく振る舞ってほしい」と述べた。ジョー・ローガン、ティム・ディロンら、トランプが若者や男性支持層の攻略に利用してきたポッドキャスターたちも、徐々にトランプ政権から距離を置きはじめている。保守系メディア「アメリカン・コンサバティブ」のカート・ミルズ編集長は「この戦争ほどMAGA連合を分断した事案はなかった」と述べている。
一方、マーク・レビン、ベン・シャピーロ、ローラ・ルーマーら親イスラエル系の右派は、トランプ大統領は「米国の安全保障に対する脅威を取り除いている」と述べ、擁護する側に立っている。彼らは、カールソンは「反逆者」(レビン)だとして、「精神疾患者」(ルーマー)で「国の安全保障に対する脅威」になると批判する。トランプ大統領も、カールソンらは「安っぽい無料宣伝のために適当なことを言う愚か者たち」であり、「MAGAではない。MAGAに寄生しようとしている負け犬たち」だと批判に加わっている。
11月の中間選挙を前に、共和党の最大の資産であった保守メディアのネットワークが揺らいでいることで、共和党の危機感は高まっている。トランプ大統領の支持率は第2期で最低水準に落ち込み、2024年の大統領選で彼を支持した若者、ヒスパニック、黒人、無党派層の有権者の離脱の兆しがはっきりと表れている。
特にカールソンは、この過程でトランプを反キリストに例えるなど、宗教的レトリックを駆使して、MAGAのアイデンティティーの要のひとつである「キリスト教原理主義」の聴衆を揺さぶっている。このところトランプ大統領と教皇との対立が表面化していることで、カールソンの批判は勢いづいている。一部では、カールソンの大っぴらな反トランプの動きを、2028年の大統領選を意識した政治的独立宣言と分析している。共和党の予備選への挑戦、第三党の結成、無所属での出馬など、選択がどのようなものになろうと、カールソンの持つ数千万規模のファンダムは無視できない政治資源になるとみられる。
もちろん、共和党に対するトランプ大統領の支配力は相変わらずだ。今月5日に行われたインディアナ州の共和党の予備選では、トランプ大統領が推進した選挙区再編(ゲリマンダリング)に反旗を翻した共和党の6人の現職議員のうち5人が親トランプ候補に敗れた。世論調査でも、イラン戦争は伝統的な共和党支持者とMAGA系の有権者の多くの支持を得ている。
米国の保守勢力内のイデオロギー戦争の結果は、今後の米国の外交路線にも影響を及ぼす見通しだ。カールソン式の孤立主義が台頭すれば、在韓米軍の削減や戦略的運用の動きがいっそう勢いを増す可能性がある。一方、トランプ忠実派が主導することになれば、トランプの追求するどのような政策も無条件に支持すると思われる。外交交渉よりも力の優位を前面に押し出す対外政策基調も強まりうる。「MAGAの内紛」の勝者が誰になるかは、トランプの米国が進む道を予告するものとなるだろう。