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「中国は潜在的パートナー、欧州は文明消滅」…米国家安保戦略、利益中心の孤立主義へ

登録:2025-12-09 06:21 修正:2025-12-09 10:38
第2次トランプ政権、国家安保戦略を公開 
「北朝鮮の非核化」に言及せず
ピート・ヘグセス米国防長官が6日(現地時間)、カリフォルニア州シミバレーにあるレーガン大統領記念館で開かれたレーガン国防フォーラムで演説している=シミバレー/ロイター・聯合ニュース

 「米国がアトラス(ギリシャ神話に出てくる巨人)のように世界秩序を支える時代は終わった」

 4日(現地時間)に公開された米国の新たな国家安保戦略(NSS)は、ドナルド・トランプ大統領のトレードマークである「アメリカ・ファースト(米国優先主義)」を外交・経済・軍事分野の戦略として掲げた。特に冷戦以降、米国が追求してきた「唯一の超大国の地位」を維持するという目標を廃棄し、国益に基づいて各地域の力の均衡を認める「現実主義」路線に回帰したことを明確にした。このため、米国本土の前庭である西半球に力を集中し、最優先事項から押し出された「中国抑止」は韓国などアジア同盟国の力を集めて達成することを目指す。「台湾防衛」を宣言しながらも、中国は「経済的競争相手」であり、「潜在的パートナー」として取り上げられた。一方、欧州については、文明が消滅しているとし、政治勢力の交代を誘導するという立場を明らかにした。

 戦略文書の軸となるのは、西半球すなわちアメリカ大陸に対する米国の排他的支配権の強化だ。文書は1823年にジェームズ・モンロー米大統領が宣言した「モンロー・ドクトリン」に対する「トランプ版修正案」を公にした。「米国は西半球で米国の優位を回復し本土を防衛するため、モンロー・ドクトリンを再確認して執行する」と明示している。西半球内で中国、ロシアなど非西半球の競争相手が軍事力を配置したり戦略資産を統制することを拒否するという「要塞化」戦略といえる。ピート・ヘグセス国防長官は6日、レーガン国防フォーラムの演説で、このような路線をより鮮明にした。ヘグセス長官は「自称共和党のタカ派のいう『ユートピア的理想主義』は災いだった」とし、「トランプ大統領は『冷徹な現実主義』を通じて平和を回復した」と強調した。米国の全地球的介入を減らし、各地域の大国がそれぞれの圏域の責任を負う「多極体制」を事実上容認したことも目を引く。

 対中国戦略においても根本的な変化が表れている。戦略文書は中国を「経済的競争相手」としながらも、「真に相互有益な経済関係」だとして、潜在的パートナーとも捉えている。米国が中国との競争を「価値観の衝突」ではなく「利益の競争」とみなしていることを示唆する。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「中国を米国の最大の挑戦とみなしてきたここ数年間の基調と決別した融和的なアプローチ」だと評価した。

 米国はアジアで中国と直接的な覇権競争を繰り広げるよりも、第1列島線の防衛のような具体的な目標に集中する一方、これさえも同盟国に安全保障の負担を転嫁する方針を明らかにした。戦略文書は「第1列島線内のどこでも侵略を拒否できる軍事力を構築する。だが、米軍だけでこれを進めることはできず、そうすべきでもない」とし、「同盟国は積極的に費用を支出しなければならず、さらに重要なのは集団防衛のためにはるかに多くのことをしなければならないこと」だと明らかにした。第1列島線は日本の九州-沖縄-台湾-フィリピンを結ぶ仮想の線で、中国海軍の太平洋進出を遮断する軍事的境界線だ。

 この過程で韓国と日本を中心的な役割を果たす同盟国に挙げた。文書には「第1列島線の同盟国とパートナーが、自国の港とその他の施設に米軍がより多くアクセスできるよう認め、独自防衛により多くの費用を支出するようにする。最も重要なのは、侵略抑止を目標とする能力に投資するよう圧力をかけることに外交の焦点を合わせること」だとしたうえで、「日本と韓国が敵を抑止し、第1列島線を守るのに必要な能力(新たな能力を含む)に焦点を合わせて国防費を増やすように促すべきだ」と書かれている。ヘグセス長官はこの日の演説で、イスラエル、韓国、ポーランドなどを米国の国防費支出拡大要求に応じた「模範同盟」と称したうえ、「米国から特恵を受けるだろう」と述べた。

ドナルド・トランプ米大統領が6日(現地時間)、米ワシントンの国務省で開かれた国務省ケネディセンター名誉賞の授与式の晩餐会で発言している/ロイター・聯合ニュース

 戦略文書は、台湾占領の試みを「拒否」するために同盟国との協力を明示し、米国、オーストラリア、日本、インドの安保協議体である「クアッド(QUAD)」の重要性を強調するなど、伝統的な外交政策基調も一部維持されていることを示している。だが、台湾海峡の現状変更に対する立場は「反対する」から「支持しない」に緩和された。ジョンズ・ホプキンス大学国際関係大学院(SAIS)のジェシカ・チェン・ワイス教授は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に「総合的にみると、北京の指導者たちは今回の新たな文書を、米国の戦略が自分たちに比較的有利な方向に旋回したと判断する可能性が高い」とし、「今回の戦略文書はジョー・バイデン政権時代とは異なり、中国が『米国の最も重大な地政学的挑戦』だと名指ししなかった」と指摘した。保守系シンクタンク「米国企業研究所(AEI)」のライアン・フェダシューク研究員も「米国が台湾問題において『反対する』から『支持しない』に立場を緩和したことに対し、北京は歓声を上げるだろう」と語った。

 欧州に対しては非常に敵対的な見方を示した。戦略文書は欧州が移民と主流指導者によって「文明的消滅」に直面しているとし、現在欧州の主流政治勢力を替える意志を表わした。また、「欧州の問題は単なる国防費の支出不足や経済停滞よりはるかに深刻だ」とし、「移民政策が大陸を変化させ対立を誘発しており、出生率は底を打ち、国家アイデンティティが消えている」と指摘した。それと共に「現在の傾向が続くならば、特定の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は数十年内に大多数が非欧州人で構成される可能性が高い」とし、「彼らが米国のような価値を共有するか疑問だ」と指摘した。

 米国は現在の欧州の主流指導者たちを「現実性のない期待を抱いた不安定な少数政権」と貶め、彼らが「民主的原則を踏みにじり野党を弾圧している」と非難した。米国は欧州内の「愛国主義政党」の浮上を歓迎し、これを積極的に支援するという意思を明確にした。戦略文書は「米国の目標は欧州が現在の軌跡を修正するよう助けること」だとし、「欧州国家内で現在の軌跡に対する『抵抗』を育成する」と明示した。欧州各国の右派ポピュリズム勢力を支援し、政権交代を誘導するという内政干渉ともとれる宣言といえる。バイデン政権時代の「価値観同盟」の復元基調を完全に廃棄し、欧州を「改造」の対象とみなしている点で、大西洋同盟の根幹が揺れていると指摘されている。

 今回の戦略文書では、過去とは異なり「北朝鮮」や「北朝鮮の非核化」などが全く言及されなかったが、米国本土を直接威嚇しない限り、北朝鮮問題も韓国と日本が解決しなければならない「地域の問題」と捉えているものとみられる。

ワシントン/キム・ウォンチョル特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/international/america/1233314.html韓国語原文入力: 2025-12-08 15:34
訳H.J

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