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【ニュース分析】イスラエルの領土拡張の野心…「ダビデ回廊」構築とガザ占領

登録:2025-07-25 07:06 修正:2025-07-25 07:47
「シナイ半島からユーフラテス川まで」、大イスラエルが現実化
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が2024年9月27日の国連総会で、イランとその同盟勢力を「悪」と規定し、イスラエルの影響力のもとでの中東を「善」と規定する地図を示し、ガザとレバノンでの爆撃を正当化する演説をしている。一部からは、ネタニヤフ首相がこの日掲げた地図について、イスラエルの領土と影響力を中東全域に拡大しようとする極右勢力の「大イスラエル」概念を示したものだとして批判された/ロイター・聯合ニュース

 イスラエルはパレスチナのガザ地区の占領攻勢を加速する一方、シリア南部にまで勢力圏を拡大している。「シナイ半島からユーフラテス川まで」イスラエルの領域を拡大するという、いわゆる大イスラエル構想を現実化しようとしているのだ。

 トルコのハカン・フィダン外相は22日(現地時間)、イスラエルがシリアのドゥルーズ派保護を名目にダマスカスにあるシリア国防省を空襲したことについて、「イスラエルは隣に安定した国家が存在することを望まず、シリアを分裂させようとしている」と非難した。フィダン外相は、シリアの分裂と不安定は、トルコにとっての「国家の安全保障に対する直接の脅威とみなし、介入」する可能性があると警告した。

 トルコのこのような警告は、昨年末にシリアでバッシャール・アサド政権が崩壊して以降、イスラエルがかなり前から夢見ていた、いわゆる「ダビデ回廊」の構築を現実化しているという懸念に基づくものだ。ダビデ回廊とは、イスラエルが夢見る拡大された勢力圏で、ゴラン高原からシリア南部を経て、イラクのユーフラテス川まで続く地域を意味する。これは、イスラエル内部、特に極右勢力が主張する「シナイ半島からユーフラテス川まで」を含む「大イスラエル」へと向かうプロジェクトの主軸となっている。

 イスラエルは、2023年10月7日にイスラム組織「ハマス」がイスラエルを奇襲攻撃したことで勃発したガザ戦争をきっかけに、大イスラエルを現実化しようとする動きをみせている。

 ガザ戦争が発生してからわずか6日後の2023年10月13日、ベンヤミン・ネタニヤフ内閣の情報省は、ガザの住民たちを南部に移住させた後、エジプトのシナイ半島に追い出すことを提案した報告書を作成したと、イスラエルメディアが報じた。実際にイスラエルはこのときから、ガザを南北に分断した後、住民を南部に移住させる一連の措置を取った。極右勢力は一貫してガザ占領と住民追放を主張し、休戦に反対した。

 「ハマス撲滅」を掲げてガザ戦争を繰り広げているイスラエルは、ハマスを孤立させ、レバノンのヒズボラを弱体化させた。シリアのアサド政権は、内部の武装勢力によって追放された。イスラエルは最大の敵対国イランを爆撃し、大イスラエルに向かう道を整えた。

 ガザ戦争の勃発から1年たった2024年9月27日、ネタニヤフ首相は国連総会の演説で、イランと同盟国を黒く塗りつぶし「呪い」と表現し、イスラエルと国交があるか交渉中のスンニ派アラブ諸国を緑色で示し「祝福」で描写した2枚の地図を見せた。イスラエルが再編しようとしている中東の地図だった。これについて、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は「イスラエルの憎むべき野望」だとしたうえで、「彼らはチグリス・ユーフラテス川の間のわれわれの祖国の土地を狙っている」と非難した。

 昨年末にイランの最大の同盟国であるシリアのバッシャール・アサド政権が崩壊したことで、大イスラエルに向かう主軸であるダビデ回廊の構築のためのイスラエルの動きは本格化した。イスラエルは、1967年の6日戦争の際にシリアから奪ったゴラン高原において、ユダヤ人入植者の人口を2倍に増やす計画を公開した。さらに、ゴラン高原の東側のシリア領内の緩衝地帯に侵攻して占領し、シリア南部に勢力圏を拡張し始めた。現在のシリア臨時政府がアサド政権を追放した際、イスラエルは戦闘機を用いてシリア軍の数百カ所の施設を爆撃し、防空網の86%を破壊した。今から考えると、これは6月のイラン爆撃の事前準備だった。地上ではゴラン高原東側の緩衝地帯を越えて、ダマスカスを見下ろせるヘルモン山のふもとまで占領した。

 大イスラエル構想は、今年の初めにはさらに露骨になった。イスラエルの内閣は1月8日、シリアを民族と分派で分割する計画について、イスラエル・カッツ国防相から報告を受けた。ギデオン・サール外相は2月25日、欧州連合(EU)代表団との会談で、シリアを民族と分派による自治区で構成する連邦国家に変えるよう求めた。前日の24日にネタニヤフ首相は、シリアの新政府軍が「ダマスカスの南側地域に進入することは容認しない」と述べた。また、「シリア南部の完全な非武装地帯化を要求し、そこにおけるドゥルーズ共同体に対する脅威は容認しない」と述べた。早い段階でドゥルーズ派保護を名目にしたシリア南部への介入を示唆したのだ。

 今月14日にシリア南部のスワイダでベドウィン族とドゥルーズ派間の流血紛争が発生すると、イスラエルはシリア南部に軍事力を大々的に投じた。シリア政府軍の戦車を攻撃する一方、わずか2日で首都ダマスカスの大統領宮の近くにある国防省まで爆撃した。これをきっかけにイスラエルがシリア南部を占領あるいは勢力圏を構築できれば、一気にイラクのユーフラテス川まで勢力圏拡大が可能だと計算されたものだと読み取れる。その中間には、ヨルダンと接するシリア東部のアルタンフ米軍基地があり、さらにシリア北部は米国の支援を受けるクルド人のシリア民主軍(SDF)の領域であるためだ。

 シリア南部におけるイスラエルの勢力圏構築は、ガザ占領と軌を一にする。

 ネタニヤフ政権は5月に入ると、ガザ全体を占領して撤収しない方針を公式化した「ギデオンの戦車作戦」を開始した。ガザ全域を生活が不可能なほどまで破壊し、住民たちを南部に強制移住させた。このころから、イスラエルが統制する「ガザ人道財団」(GHF)がガザ地区での救援食料配給を掌握した。3月末にハマスと第1段階の休戦が終了すると、ガザ地区に入る救援物資を遮断し、ガザ地区を全面封鎖したため、ガザは3カ月近く飢えに苦しむ状態にあった。食料を受け取ろうと駆けつけた住民たちには、銃撃が連続して加えられた。イスラエルは7月になると、ガザ最南端のラファに、いわゆる「人道都市」を建設し、ガザ住民全員を受け入れつつ、自発的な海外移住を奨励する計画を明らかにした。

 イスラエルがガザを占領して住民を追放するという戦略は、ハマスの脅威を根本的に除去するという意図を超えている。ガザ近海には約40億ドル(約6000億円)の価値のガス田があり、パレスチナ独立国が建設された場合、15年間で毎年1億ドル(約150億円)の収益をもたらす可能性があると、英紙ガーディアンが20日に報じた。イスラエルとしては、このガス田がパレスチナ独立の財源になることを阻止する一方、大イスラエルの前提である東地中海の独占のためには、ガザ占領が必須だ。

 ガザ占領とパレスチナ住民追放、そしてシリア南部におけるダビデ回廊の構築は、大イスラエルに向かう過程であり、これは現時点でのガザ休戦交渉が空転する根本的な理由でもある。

チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1209648.html韓国語原文入力:2025-07-24 07:56
訳M.S

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