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ハン・ガンの初の日本語版出版から15年「日本のハン・ガン・ブーム、突然ではない」

登録:2024-10-18 07:04 修正:2024-10-18 11:40
[インタビュー]東京の韓国文学専門出版社「クオン」の金承福代表
出版社クオンの金承福代表が15日、東京都千代田区の神保町の古書店街にあるブックカフェ「チェッコリ」で日本国内における韓国文学について説明している//ハンギョレ新聞社

 「韓国文学の神髄を日本に紹介しようと読書ノートを細かく書いたのですが、最初の項目はいつも『ハン・ガン』でした」

 15日、日本の東京都千代田区の神保町の古書店街で「出版社クオン」とブックカフェ「チェッコリ」を運営する金承福(キム・スンボク)代表に、ハン・ガン氏について尋ねると、「驚くほど繊細で優れた文体のなかに、人間の弱さと深い悲しみを描く世界観を形成してきた」と語った。ソウル芸術大学文芸創作科を卒業し、1991年に来日した金代表は、韓国文学を紹介すべきだと考え、2007年に韓国文学専門出版社「クオン」を設立。2010年に初めて出版した韓国文学の書籍が、ハン・ガンの『菜食主義者』日本語版だった。

 金代表は「最初の出版のときから日本の主要な新聞が書評を出すほどで、『レベルの違う小説』という評価を受けてきた」と振り返った。これまで同社が出した120冊あまりの本のうち、ハン・ガンの翻訳本は『菜食主義者』に加え、『少年が来る』(小説)、『そっと 静かに』(散文)、『引き出しに夕方をしまっておいた』(詩)の4作。他の日本の出版社の本を含めると、ハン・ガンの作品は全部で8作品が翻訳された。

 「ノーベル賞効果」は絶大だ。受賞のニュースが報じられた翌日、一般書店で販売される分とは別に、出版社に残っていた600冊あまりの本がわずか2時間で完売した。金代表は「本がなくて売れない状況」だと述べた。金代表とのインタビューを行っている最中にも、書店の職員はかかってくる電話に「(ハン・ガンの)本は売り切れです。韓国でも予約を受け付けている状況で、ここも同じ」と答えるなど、応対に忙しかった。金代表は、とりあえず2万部を目標に重版計画に着手したが、本が届くまでには10日以上かかる見込みだ。

 日本の「ハン・ガン・ブーム」は、単にノーベル文学賞の受賞によって突然湧き出たものでないと金代表は語る。「韓国文学の本質には、歴史・文化・社会的な話が背景にあることが多いが、海外の読者たちも思弁的でなく現実に足のついたその特有の重みを好むようだ」と読み取った。さらに金代表は「日本で韓国文学の人気の秘訣はシンプルだ」として、「良い作品が多いから」だと述べた。

 出版人や文学者が長い時間をかけて積み重ねてきた成果も大きい。金代表は最近、朴景利(パク・キョンニ)の著作の20巻からなる『土地』完訳本を刊行した。土地文化財団とともに日本語版を出すことにしてから10年、最初の翻訳本として1~2巻が出版されてから8年がかりの成果だ。金代表は「日本で韓国文学の裾野が広がっただけでなく、深さも増し、朴景利の『土地』のような作品も出せる環境が整えられた」とし、「出版社としては、より素晴らしい韓国作品を、さらに多く出版できるという信頼を読者に示そうとする切実さが反映されたもの」だと説明した。金代表は日本で30人ほどの読者とともに19日、慶尚南道統営(トンヨン)にある朴景利の墓地を訪れ、日本語版『土地』の献呈式と出版記念会を開く。

 また、ハン・ガンのように韓国文学が海外で評価されるためには、長きにわたり培われてきた翻訳の力も必要だと説明した。「ハン・ガンの作品5冊をはじめ、『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ)や『カステラ』(パク・ミンギュ)などを翻訳した斎藤真理子さんは、1990年代初めに韓国で勉強しました。そのときには、すでに日本語になっていた金芝河(キム・ジハ)や尹興吉(ユン・フンギル)の小説を読んでいたそうです。誰かが道を切り開いていたということです」。金代表が主催する「K-BOOK振興会」が毎年「日本語で読みたい韓国の本」翻訳コンクールを開催するのも同じ流れだ。韓国の短編小説2作品を選定し、誰でも翻訳を提出でき、受賞作は本として出版され、翻訳家としてデビューするシステムだ。金代表は「多いときには1年で応募者が200人を超える」として、「本1冊に対して日本語翻訳本が200冊誕生するという、興味深く意義ある実験」だと評した。

 金代表は、韓国国際交流財団と「K-BOOK振興会」が共同主催する「K-BOOKフェスティバル」の執行委員長も務めている。韓国文学と日本の読者が出会う場として、韓国の出版社10社、日本の出版社35社をはじめ、作家や編集者、翻訳家が参加するイベントだ。金代表は「日本にいる韓国文学の読者たちに直接会いたいという思いで始めたイベントで、すでに6回目になる」と述べた。

 金代表は「ノーベル文学賞の受賞後」を尋ねた質問に「ハン・ガンの文学だけでなく、韓国文学の裾野全体を広げる絶好の機会が来た」として、「ここで出版社をやっていて本当によかったと思う」と語った。

東京/文・写真 ホン・ソクジェ特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1163030.html韓国語原文入力:2024-10-17 20:51
訳M.S

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