ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が16日(現地時間)、防空用ミサイルがないため、ロシア軍による発電所への空爆を防ぐことができなかったことを打ち明けた。こうした発言は、防空用兵器の備蓄量は十分だとした11日前の発言とは対照的なものだ。
ゼレンスキー大統領はこの日、米国の公共放送PBSとのインタビューで、ミサイル不足のために、11日のロシア軍の空爆で完全に破壊されたトリピリスカ火力発電所を防御できなかったと述べた。ゼレンスキー大統領は「(首都)キーウ地域はこの発電所に依存していた」とし、「11発のミサイルがこの発電所に向かって発射され、最初の7発は撃墜したが、4発が発電所を破壊した」と説明した。さらに、「これは我々にミサイルがないためだ。我々はミサイル不足に苦しめられている」と述べた。
ゼレンスキー大統領は5日のウクライナの放送局のインタビューでは、ロシア軍の空爆に対応するための十分な武器を備蓄していると明らかにしている。その際、ゼレンスキー大統領は「彼らが先月のように今後も毎日空爆を加えるのであれば、防空用ミサイルが不足する可能性もある」としたうえで、このように述べた。
16日の同大統領の発言は、ロシアがウクライナのエネルギー施設を集中攻撃して状況が日増しに悪化していることを示していると、ロイター通信が指摘した。
ロシア軍は、ウクライナ軍がロシア国内のエネルギー施設を相次いでドローンで攻撃したことを受け、先月中旬からウクライナのエネルギー施設を狙った空爆を強化した。それにともない、11日にはウクライナの首都キーウ周辺で最大の発電所であるトリピリスカ発電所が完全に破壊された。ウクライナの第2都市ハルキウでも、電力施設が1日の間に10回以上空爆され、大規模な停電が発生した。
ゼレンスキー大統領はこの日のインタビューで、13日にイランがイスラエルを空爆したところ米国や英国、フランスなどがミサイル撃墜を支援したことを取りあげ、西側がウクライナ支援を敬遠していることを批判した。ゼレンスキー大統領は「ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)の戦争を遂行すると認識されかねないため兵器を支援できない、というようなことを言う人たちには、イスラエルはNATOの一員なのかと聞きたい」と述べ、イスラエルとウクライナに対してそれぞれ違う態度を示す西側に不満を示した。
ゼレンスキー大統領は、米国議会が600億ドル(約9兆3000億円)規模のウクライナ軍事支援の予算案を承認しないでいることについて、「率直に言って、この支援がなければウクライナが戦争で勝利する可能性はない」と述べた。
ウクライナ軍は、防空能力の弱体化に加え、地上軍の戦闘でもロシア軍に押され、東部ドネツク州の状況は日増しに危険になっている。英国経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は、ロシア軍が徐々に進撃しており、2月にロシア軍に占領されたアウディーイウカ周辺地域の住民たちは、極度の恐怖に苦しめられていると報じた。アウディーイウカから北西側に30キロメートル離れたミルノフラドで活動するジャーナリストのマクシム・ザベルヤ氏は「ほぼ毎日砲撃が続き、戦線が少しずつ近づいている」として、「明日に対する確信がなく、住民たちの脱出が続いている」と述べた。鉱夫として働き引退したというある住民は「誰も死から逃れることはできないが、ここでは死が非常に近いことを感じる」と述べた。
同紙によると、ロシア軍は5月9日のロシアの第2次世界大戦勝利日に合わせ、この地域の戦線の重要な橋頭堡であるチャシフヤールを占領するための攻勢を強化している。現地のウクライナ兵は、ロシア軍がすでにチャシフヤールの近くまで接近しているとして、この都市が陥落した場合、ロシア軍がドネツク州西部の地域の奥深いところまですぐに進撃すると懸念を示した。