「わずか4日前(面会で)会った時は元気に生きていたし、幸せそうだったのに…」
「プーチンの唯一の政治的対抗馬」と呼ばれたロシアの野党指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)の突然の死に、母親のリュドミラさんは息子の死が信じられない様子だった。40代の若い政治家がロシア大統領選挙をわずか1カ月後に控えた16日(現地時間)、シベリアのヤマロ・ネネツ自治区のハルフ入植地にある第3刑務所(IK-3)に移監されてから2カ月後に突然死亡したことをめぐり、様々な疑惑が持ち上がっている。
ロシア政府はナワリヌイ氏が死亡した状況について「刑務所で散歩をしている途中、『体調が良くない』と言った後、意識を失って倒れてから、回復できずそのまま死亡した」と発表した。ナワリヌイ氏が倒れて2分後に刑務所の医療スタッフが到着し、再び4分後に救急車が到着したが、命を救うことができなかったという。ロシアのインタファクス通信は「医療スタッフがナワリヌイ氏を助けるために30分近く努力したが無駄だった」と報じた。ナワリヌイ氏は同日午後2時17分に死亡した。
ナワリヌイ氏の死をめぐり、欧米のマスコミはさまざまな推定をしている。 2021年2月、ロシア当局によって逮捕され収監された後、3年間にわたり300日間も独房に閉じ込められていたことから、ロシア政府が今回の死を意図した可能性が高いとみられている。ニューヨーク・タイムズはナワリヌイ氏が「収監期間の4分の1以上を『冷凍処罰監房』で過ごした」とし、「何が入っているか分からない注射を打たれたこともある」と報道した。昨年末、世界で最も過酷な刑務所の一つとされ、「北極オオカミ」という異名を持つ第3刑務所に移監されたことが、健康に致命的な影響を及ぼした可能性もあるという指摘もある。英国のBBC放送は、同刑務所は冬の気温が氷点下20度まで下がり、収監者に対する刑罰として、真冬にコートなしで外に立たせたり、冷水を浴びせかけたりする場合もあると報じた。5月になってようやく気温がマイナスからプラスに上がるが、夏には夜のない長い昼が続くなど、天気も収監者の健康に深刻な打撃を与えるという。
ナワリヌイ氏は2021年に逮捕される4カ月前、旧ソ連時代に使われていた神経作用毒物「ノビチョク」によるテロで3週間にわたり死の淵をさまよった末に回復した。矯正当局は、ナワリヌイ氏にこれに対するきちんとした治療を施さなかったという。最近立っていられないほどの深刻な腰の病気で、足の片方が麻痺し、椎間板ヘルニアが疑われる状況もあったものとみられる。
しかし、前日の15日、法廷に出席した時の映像では、精神と健康状態に異常がないように見えた。刑務所に収監されていたこの3年間にも、「プーチンのいないロシア」というウェブサイトを開設して反プーチン運動を行い、3月の大統領選挙でも有権者1人が他の10人を説得して反対票を投じるよう督励するなど、プーチン大統領にとって「目の上のたんこぶ」のような存在だった。BBCは「ナワリヌイ氏は法廷で余裕を見せたが、実際にはかなり憔悴した様子だった」と報じた。毒物中毒後、まともな治療を受けられない状態で、血管の中の血の塊(血栓)が固まって死亡に至ったのではないかという見方もある。日本経済新聞も18日付で、「(ロシアの捜査当局が)死因については調査中だが、過酷な環境での収監に伴う(事実上の)『殺人』という見方も出ている」とし、「3月のロシア大統領選挙を控えたプーチン政権がナワリヌイ氏の排除に動いたとの疑念も深まっている」と報道した。
ナワリヌイ氏の死亡で、ロシアのプーチン大統領に対する国際社会の非難世論が高まっている。ジョー・バイデン米国大統領はナワリヌイ氏死亡のニュースが流れた直後、「ナワリヌイ氏の死がプーチンとその側近のならず者たちがした何らかの行動にともなう結果であることは疑う余地がない」と述べた。欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長も、「この死に対するロシアの責任を問うため、努力を惜しまない」と約束した。英国のデービッド・キャメロン外相も、西側の主要7カ国(G7)とともにロシアに対する対応措置を検討すると宣言した。ロシアと戦争中のウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「プーチンは野党指導者であれ、自分にとって標的とみられる人であれば、誰でも殺す」と非難した。
世界の世論も悪化している。BBCは17日、「ナワリヌイ氏は、ウラジーミル・プーチン大統領の統治に挑戦して死亡したロシアの著名人の中で、最も直近の事例になった」と説明した。ニューヨーク・タイムズは「プーチン大統領の反対勢力はほとんど逮捕されたか、海外に逃避したが、新たな殉教者(ナワリヌイ氏)の登場はプーチンに対する疑問と非難に力を与え、『プーチン神話』を維持することははるかに難しくなるだろう」と見通した。ただし、大統領選挙を控えた状況で「意図的他殺」でプーチン大統領が得るものはないという反論もある。ワシントン・ポストは「ロシアのエリート層の間では、ナワリヌイ氏が『殉教者』とみなされる可能性と、これを通じて西側がプーチン政権に対する決議を強化し、ウクライナ支援を増やす危険性があると指摘している」と報じた。