15日午後7時40分。ロシアのミサイルがポーランド領土に落下し、2人が死亡したというAP通信の速報が流れた。欧州全体が驚愕した。「本当にロシア軍が撃ったミサイルがポーランドを攻撃したのか」(BBC)など、主要海外メディアは全欧州と世界を破滅へと導く「戦火の拡大」という不吉なシナリオを頭の中から消そうと努め、速報に速報を重ねた。
被害を受けたポーランドは、1949年に作られた軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の加盟国だ。歴史的にロシアおよびソ連の脅威に苦しんできた同国は、冷戦終結後の1999年、東欧諸国の中で真っ先にNATOに加盟した。北大西洋条約第5条は、「一国に対する攻撃は、加盟国すべてに対する攻撃」とみなして対応せよとはっきり示している。ロシアがポーランドに「意図的な攻撃」を加えたのなら、NATO加盟国は力を合わせて立ち向かわなければならない。それは、この9カ月間のロシア・ウクライナ戦争が、ロシア・NATO戦争へと拡大することを意味した。
今回の事態を不吉と考えざるを得ない理由は他にもあった。ロシアは同日、南部の主要都市ヘルソンを奪われたことに対する報復として、ウクライナ全域に100発以上のミサイルを打ち込んだ。これらのミサイルのいずれかがポーランド領土に落ちたのだとしたら…。驚愕したポーランド政府は素早く、しかし慎重に動いた。ひとまず午後8時、緊急国家安保会議を招集した。ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は、米国のジョー・バイデン大統領らNATO主要国の首脳と電話会談をはじめた。事案の深刻さのせいか、ウクライナとロシアも「声明戦」に突入した。ウクライナは、この悲劇は「ロシアの所業」だと主張し、ロシアは「ウクライナが企てたもの」と反論した。
最初の報道が流れてから約7時間半、インドネシアのバリで行われた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席していたバイデン大統領が口を開いた。バリ現地時間で16日午前9時53分、中部欧州標準時で16日午前2時53分だった。バイデン大統領は「軌跡から見て、ロシアから発射されたものではないようだ」と述べた。その後、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長が記者会見を開き、「ロシアの攻撃を防ごうとしたウクライナ防空システムのせいで発生したもの」とし「ロシアもNATOを攻撃する意図はないようだ」という「予備結論」を下した。全世界を第3次世界大戦の恐怖に陥れたポーランドのミサイル事態が終わった瞬間だった。
しかし、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は16日にも、「あれは我々のミサイルではない。我々が迎撃したものではない」と主張し続けた。だが、夜になると態度を少し軟化させ、「ウクライナの専門家たちが調査に参加して協力国が見ることのできる情報を確認するとともに、ミサイル爆発現場に接近できるようにすべき」だと述べた。
今回の危機は完全に解消されたわけではない。戦争が続く限り、いつでも同じことが起こり得る。15日夜から16日未明にかけての時間には「人類の理性」が働いたが、次の危機では誰かが取り返しのつかない「誤った判断」をするかもしれない。すでに10万人以上の人々が死亡または負傷している。もう戦争を止めなければならない。
ベルリン/ノ・ジウォン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )