「青年たちが強ければこそ国は強くなる。全党の同志は青年事業を戦略的事業としてとらえ、青年大衆の道しるべとならなければならない」
中国の習近平国家主席は、16日の「中国共産党第20回全国代表大会」(第20回党大会)開幕行事の業務報告でこう述べた。「新時代の党建設」を主張する中での発言だが、最近の中国の青年世代の変化に対する中国共産党の懸念混じりの視線が込められている。習主席は2017年の第19回党大会の業務報告でも青年について発言しているが、「党は青年世代に対する関心と愛を惜しまない」と述べるにとどまっていた。今回のような「青年事業」を通じて党は道しるべになれとの具体的な注文はなかった。
習主席が政権を担ってきた過去10年間(2012~2022年)での中国社会の急速な変化と同様、若者たちの雰囲気も大きく変化した。習主席の政権担当初期に形成された前向きで躍動的な社会の雰囲気は、次第に硬直して厳格なものとなり、若者たちも深い影響を受けた。特に2019年以降の急激な経済の失速と青年人口の増加が相まって、近ごろの中国の若者層は自暴自棄の感情が濃くなっている。
毎年末に中国の雑誌「咬文嚼字」が発表する中国のインターネット10大流行語には、このような流れがよく現れている。習主席が政権を握った最初の年である2012年、中国の10大流行語の中には「正能量」や「雷鋒に学ぶ」などの前向きな言葉があった。正能量は「プラスエネルギー(ポジティブなエネルギー)」、雷鋒に学ぶは中国の1950~60年代の労働青年の英雄である雷鋒に学ぼうという運動を意味する。2015年には、ある中学校の教師が辞表をたたきつけた際に言ったという「世の中はこんなに広いのに」が10大流行語に入った。2018年には、習主席が3月の全国人民代表大会(全人代)で発表した「運命共同体」がランクインした。全人類はひとつなのだから、国際関係では互いに利益が得られるよう図らなければならないという趣旨だ。
変化の兆しが見えるのは2019年からだ。朝9時から夜9時まで週6日働くことを意味する「996」が流行語に選ばれた。過度な労働条件に対する若者層の挫折と怒りがにじみ出た言葉だった。アリババ創業者の馬雲がこれを擁護し、物議を醸した。2020年には「さらに投入しても効果がない」ことを意味する内巻という単語がランクインした。努力してもダメだという意味で、中国の若者たちが多く使うようになった。昨年は「何もせず横になって寝そべっている」ことを意味する「躺平(タンピン)」が流行語になった。今年はさらに一歩進んで「どうにでもなれ」という意味の「擺爛(バイラン)」が流行している。
中国の若者層の自暴自棄の感情は、最近の中国の経済状況をそのまま反映するものだ。中国の経済成長率は2012~2015年には7%台、2016~2018年には6.7~6.9%を示したが、米国との貿易紛争が本格化した2019年は6.0%に下落した。コロナ禍が発生した2020年には2.2%にまで大幅に下落し、昨年は前年の基底効果で8.1%に回復したものの、今年は再び3%台にとどまると予想される。
経済成長率が落ちれば雇用が減る。それと共に人工知能(AI)・ロボット産業の成長により、良い働き口はすでに消えつつある。実際に、2010年には9.8%だった中国の16~24歳の青年の失業率は、2022年7月には過去最高の19.9%にまで上昇している。
中国社会の行き詰まった雰囲気も若者たちの挫折感を高める。2012年以降、習主席の単独の権力と共産党の社会統制力は大きく強化された一方、異なる声をあげる人権活動家、人権弁護士などはほとんど姿を消した。日常的なオンライン検閲が強化されたため、党や国家の政策とは異なる意見を言うのはますます難しい状況になっている。
そのような雰囲気の中、中国の若者たちは安定的で保守的な選択へと傾いている。特に大卒者を中心として、大学院への進学と公務員試験の受験が大幅に増えている。今年の中国の大卒者数は1076万人だが、大学院進学試験を受ける人の数はその半数の520万人に達すると推定される。昨年11月に行われた公務員試験も、史上初めて受験者が200万人を超えた。前年の157万人から35%の大幅増だ。