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[ハンギョレ21 2011.10.31第883号] ルノー三星 に垂れ込める双龍(サンヨン)自動車の悪夢

(6909字)
[特集2] ルノー三星自動車 昨年、最高実績にもかかわらず利益は最低、昨年売上額中ルノー日産に24%支給
2006年対比 2.5倍増…‘第2の双龍車’危険性 提起


□クァク・ジョンス


 "労働強度があまりに高く休む余裕がないため、トイレへも行けず周囲を伺いながら作業中に小便をちびりちびりと解決することもある。"


ルノー三星自動車釜山工場で仕事をする経歴14年の労働者K(38)氏は「恥ずかしいから互いに隠して表には出さないけれど、作業中に‘大きい方’ をした職員もいると知っている」と話した。


去る8月、新たにスタートしたルノー三星車労働組合の幹部は去る9月末、現代自動車蔚山(ウルサン)工場に見学行きびっくりした。 現場労働者たちの労働強度や作業の雰囲気がルノー三星車とは比較にならなかったためだ。パク・ジョンギュ労組委員長は「‘現代車程度になれば私たちも何の不平も言わないでしょうに’と皆が大いに羨んだ」として「ルノー三星車は仕事がきついために手当てが多くつく土曜の特別勤務さえ嫌がるほど」と話した。

昨年、ルノー三星車の1台当たり部品輸入額は392万ウォンだ。2006年の130万ウォンに比べ200%も急増した。だが、同じ期間に日本円とユーロ貨幣対ウォン為替レートの上昇率(年平均基準)は各々61%、28%だった。為替レート上昇幅に比べ部品輸入額の増加率が過度に高い。自動車業界でルノー三星車からルノー日産への資本流出が急激に増えたためという主張が提起される所以だ。


作業ラインで‘大きい方’ をしながら働く


生産ラインでそのまま生理現象を解決するしかないという切迫した悲鳴が出てくるほどにルノー三星車が必要な人材補充に消極的な理由は何だろうか?


ルノー三星車は2009年金融危機の余波で実物経済まで萎縮するや売上が減り営業利益は423億ウォンの赤字を記録した。 だが、その年の下半期から回復傾向を示し、2010年には売上・販売台数・輸出などすべての面で史上最高の実績を記録した。去る9月に本社へ復帰したジャン マリ ウィルティジェ社長は離任記者会見で「ルノー三星が韓国市場で成功した」という話を自信ありげにしたほどだ。売り上げは史上初めて5兆ウォンを突破した。 自動車販売台数も27万台を越え、前年対比43%も急増した。輸出も11万6千台で、前年対比100%を越える増加率を記録した。今年も去る9月までで販売台数が計19万3千台余りで昨年水準を維持している。


ルノー三星は2000年にルノーが三星自動車を取得してスタートした。初期の数年間は輸出が不振で苦戦したが、輸出が本格化した2006年以後の中期実績傾向を見ても伸張傾向が明確だ。最近5年間で売上は2倍に増え、販売台数は1.7倍、輸出は2.8倍に増加した。輸出比率は26%から50%に迫る水準へ跳ねあがった。


だが、こういう秀でた成長勢とは異なり収益性は2008年以後に急落した。2006年以後7.7~8.7%の高水準を謳歌した営業利益率が、2008年には3.6%に墜落した。金融危機の余波で-1.2%を記録した2009年は例外としても、昨年には売上・販売台数・輸出で最大実績をおさめたにも関わらず0.06%に終わった。赤字をかろうじて免れたと言うのが正確な表現だ。 これは昨年に利益が急増した他の競争会社らとは明確な対照をなす。現代車と起亜車の昨年度営業利益率は各々8.8%、7.2%であり、史上最高水準だった。


結局、ルノー三星車が人材補充に消極的であるのは収益性の悪化と密接な関連があると見なければならない。それでは急速な伸張傾向の中でも収益性は落ちている原因は何だろうか? ルノー三星車はルノー日産から部品を買い入れ国内で組み立てた後にルノー日産に再び売る独特の事業構造を持っている。ルノー日産はルノー三星車が作った車を世界市場に販売する。ルノー三星車の生産が増えるほど、ルノー日産からの部品購入額が増えざるを得ない構造だ。昨年、ルノー三星車がルノー日産から買い入れた部品価格は1兆644億ウォンであり歴代最高水準を記録した。 ルノー三星車広報本部のキム・ポムソク チーム長は「2008年以後、日本円とユーロの価値急上昇(ウォン為替レート急騰)により部品輸入負担が大きくなった」と説明する。ルノー三星車の販売が増え、為替レートまでが上がった結果、部品輸入額が増えたのは当然と見ることができる。 カギは部品輸入額増加の適正性だ。昨年度のルノー三星車1台当たり部品輸入額は392万ウォンだ。 2006年の130万ウォンに比べ200%も急増した。 だが、同期間に日本円とユーロ対比ウォン為替レートの上昇率(年平均基準)は各々61%、28%に留まる。為替レートの上昇幅に比べ部品輸入額の増加率が過度に高い。自動車業界でルノー三星車からルノー日産への資本流出が急激に増えたためという主張が提起される理由だ。


内需490億ウォン黒字、輸出457億ウォン赤字?


ルノー三星車の部品購入費だけが急増したわけではない。配当、技術使用料、研究費、雇用費、広告販促費などの名目でルノー三星車がルノー日産に支払った金(以下技術使用料等の総支給額)も同時に急増した。昨年の技術使用料等の総支給額は1792億ウォンに達する。 これは2006年の557億ウォンに比べて222%も急増したものだ。 このように部品輸入額と配当、技術使用料、研究費、雇用費、広告販促費などを全て合わせれば、ルノー三星車がルノー日産に支払った総額は最近5年間で何と3兆4475億ウォンに及ぶ。特に金融危機以後に急増しており、最近3年間の総支給額がその内の81%を占めている。 ルノー三星車がルノー日産に支払った金が奇形的に多いということは種々の面から確認できる。 昨年の売上額対比総支給額(部品購入費を含む)比重は24%であり、2006年(10%)のほとんど2.5倍水準へぐんと跳ね騰がった。また、自動車一台当りルノー日産に支払った金は昨年458万ウォンであり、2006年の165万ウォンに比べ178%も急増した。自動車業界のある専門家は「国内の完成車企業等も海外工場と取り引きする時に部品や設備の価格を韓国側が有利になるよう策定する事例がないわけではないが、ルノー三星車の場合はそれが過度な水準であるようだ」と話した。


ルノー三星車の昨年内需営業利益は490億ウォンだった。昨年の営業利益総額が33億ウォンであることを考慮すれば、輸出営業利益は457億ウォンの赤字だったという話になる。ルノー三星車が昨年赤字輸出をしたということは、他の自動車企業等で輸出が孝行息子の役割をしたのと対照的だ。 為替レート上昇にともなう恩恵規模は部品国産化率により自動車業者別に差異が生じうる。ルノー三星車は現代・起亜車に比べ部品国産化率が低いために為替レート上昇にともなう恩恵幅が相対的に少ないと言える。 だが、為替レート上昇で部品輸入負担が増えたと言っても、完成車輸出競争力の強化にともなう恩恵より大きいはずはないというのが専門家たちの指摘だ。


自動車業界ではこのようにルノー三星車からルノー日産への資本流出が急増したことを2008年以後の世界経済危機でルノー日産の経営が急速に苦しくなったことと関連づけて説明している。ルノー本社は2009年に4億ユーロの営業赤字を記録した。純利益も30億ユーロの赤字を免れなかった。 ルノー三星車からの資本流出を増やしたおかげか否かは分からないが、昨年ルノー本社の営業利益と純利益は11億ユーロと34億ユーロを各々記録し黒字転換に成功した。社会進歩連帯付設労働者運動研究所のハン・ジウォン研究室長は「世界経済危機でルノー日産の経営状態が悪化するや意図的に部品販売と研究費などの名目でルノー三星車の利益を抜き取ったようだ」と指摘する。


生産性は最高、労働条件は最悪


ルノー三星車は「2008年から2010年までの3年間、ルノー日産から4358億ウォンの研究・開発費を支給された」として資本流出疑惑を否認した。 だが、ルノー三星車が金融監督院に提出した監査報告書でルノー日産との内部取引の内訳を見れば、ルノー三星車がルノー日産に支給した技術使用料や研究費は載っているが、反対にルノー日産がルノー三星車に支給した研究・開発費は出てこない。<ハンギョレ21>はこれについてルノー三星車に追加回答を要請したが受け取ることはできなかった。


ルノー三星車労組はルノー日産が抜き取った金は結局、労働者が犠牲になった代価だと主張する。ルノー三星車の労働生産性は国内自動車業界で最高水準だ。 ルノー三星車の生産職労働者(社内下請けは除外)一人当たりの年間自動車生産台数は94台で、現代車の65台も韓国GMの80台よりはるかに多い。労働者運動研究所のハン・ジウォン研究室長は「時間当り生産台数もルノー三星車は66台で、韓国GM富平2工場の34台、現代車蔚山(ウルサン)2工場1ラインの24台よりはるかに多い」として「労働強度が他の自動車業者と比較にならないほど強い」と話す。


労働者は工程別に必要とされる標準作業時間があまりに短く、作業の合間に体力を回復できる余裕もないと訴えている。 また、ルノー三星車釜山工場は小型車、中型車、スポーツ実用車(SUV)等、車種の別なく同じ生産ラインで6種類の車を作れる混流生産方式だ。 組み立てラインのある労働者は「作業者が遂行しなければならない工程が1車種に20工程とすれば、6種類の車を同時に作る混流生産の場合には120工程を熟知していなければならないため労働強度がはるかに強くならざるを得ない」と話した。


ルノー三星車の厳格な労働統制は労働者に対する人権侵害論難まで産んでいる。ある労働者は「現代車の場合、労働者が作業能率を高めるために仕事中にヘッドセットをつけて音楽を聞いたりもしているが、ルノー三星車では想像すら出来ない話」と語った。 彼はまた「労働者の個人用携帯電話まで作業時間中には使用を禁じ、一律的に保管箱にしまい作業終了後に取りに行く」として「事務職労働者たちも仕事をする時間に携帯電話の使用を禁止しているのか」と問い直した。ルノー三星車は「競争会社に比べて効率性が高いのはどの通り」としつつも「だが、効率性は設備、作業環境、作業者熟練度、施設配置など多様な要因が影響を及ぼすので、単純に労働強度が強いと断定することには無理がある」と反論した。


ルノー三星車の生産職労働者は昨年末現在2899人だ。2006年の2430人に比べて19%増えた。 だが、年間販売台数は同期間に16万台から27万2千台へ70%も急増した。人員増に比べて作業量がはるかに大きく増えたのだ。ある労働者は「一日9~10時間ずつ夜昼2交代勤務をしているが、土曜日夜間組の場合、日曜日の夜明けに退勤し、からだの生体リズムを回復する時間的余裕もないまま月曜日の朝昼組へ投入されることが反復されている」と話した。


ルノー三星車の厳格な労働統制は労働者に対する人権侵害論難まで産んでいる。ある労働者は「労働者の個人用携帯電話まで作業時間中には使用を禁じ、一律的に保管箱にしまい作業終了後に取りに行く」として「事務職労働者も仕事をする時間に携帯電話使用を禁止しているのか」と問い直した。


労組、未払い賃金支払い訴訟を提起


ルノー三星車の労働者がこのように競争会社よりはるかに高い労働強度の中で仕事をしているが給与ははるかに少ない。金属労組の調査によれば、ルノー三星車の昨年1人当り月平均賃金は468万ウォンで、現代車の666万ウォン、韓国GMの547万ウォンの70~86%水準に止まる。これに対してルノー三星車側は「生産職勤労者の平均勤続年数が他の業者より短いので賃金水準を単純比較するのは無理」とし「また、各社別の市場占有率、生産、販売、利益規模などに応じ支払い能力に差が発生せざるを得ず、福利厚生を含めた総賃金水準は他社に比べ少なくない」と主張した。だが、労組は「会社側の主張どおり福利厚生を含めれば、現代車など他社との賃金格差はさらに広がる」と反論した。また、労働者が体調が悪くてもきちんと治療を受けられないという哀訴が多い。ある労働者は「胃が痛いと訴えれば‘お前だけが痛いのか。仕事をすればその程度は当然だ’とか‘お前が体調管理をきちんとできないからとではないのか’と反応するので、なかなか体調が悪いという話もできない」として「業務関連性を立証しなければならない労災申請はほとんど不可能」と話した。


ルノー三星車の労働者がこのように人材補充と適切な治療を切実に願っていても、この間労組の代わりに団体協約や賃金交渉を受け持ってきた社員代表者委員会は労働者代表機構の役割を果たせなかったという指摘を受けている。ある労働者は「むしろ競争会社より会社規模が小さく競争力が低いので仕方がないとし、会社経営陣側の論理を代弁してきた」と話した。


ルノー三星車は賃金未払いの疑惑まで提起されている。労組は去る10月18日、62人の労組員名義で会社を相手に裁判所に未払い賃金支払い訴訟を提起した。労組によれば、会社は各種時間外手当と特別勤務手当て、賞与金支給の基準になる通常賃金を縮小し計算してきた。会社が通常賃金計算に含めなかったのは昼食代補助費、文化生活費、交代勤務者手当、夏季休暇の費用、名節賞与金などのように法的に性格が明確なものなどだ。労組は去る3年間、会社から受けとれなかった賃金が労働者一人当たり少なくて700万ウォン、多い人では3千万ウォンに達し、労働者全体では少なくとも170億ウォンに及ぶと見ている。訴訟を引き受けた民主労総法律院のパク・ギョンス労務士は「法的に性格が明確な部分に対しても通常賃金計算から除いたことは会社の意図性が伺える」と話した。労組ができる以前に勤労者代表の役割をしてきた社員代表委員会もこういう事実を予め知っていながら会社に支払い要求をしなかったという疑惑が同時に提起されている。労組関係者は「会社と社員代表委員会間の以前の賃金交渉過程で社員代表委員会がこの問題を知っていたという証拠を確保している」と主張した。ルノー三星車側は「通常賃金に含まれる対象については他企業でも労使間で異見が多い事項」と釈明した。


ルノー三星車は人材補充と共に追加工場の設立が必要だという指摘が多い。ルノー三星車の生産量は昨年すでに27万台を越え、最大生産能力の30万台に肉迫している状態だ。だが、まだ具体的な第2工場の設立計画は出て来ていない。 フランソワ プロポ新任社長は、就任記者会見で「第2工場増設は今後進行されるプロジェクトと販売量により自然に解決されるだろう」という原則的なことしか話さなかった。ルノー三星関係者は「無理に第2工場を設立し十分な稼動物量がなければ大規模な人材構造調整という悪循環に陥らざるを得ず、第2の双龍車事態が起きかねない」として慎重な態度を示した。


‘第2の食い逃げ’になるか、恐ろしがる労働者たち


ルノー日産には中国工場がない。世界優秀自動車企業等が大部分、世界最大自動車市場に浮上した中国に現地工場を稼動している現実と対比される。金属労組のチョ・ギョンソク未組織・非正規職事業局長は「現在のようにルノー三星の資本流出が続き、労働者の労働強度深化を放置し経済危機の長期化とルノー日産グループのグローバル戦略変化により韓国工場の撤収と大規模解雇という最悪の事態が起き、対応無策になるだろう」としつつ、双龍車に続く(外国資本による) ‘第2の食い逃げ’の危険性を提起した。労組では「去る9月にM&A(企業吸収合併)専門家の韓国系外国人が招聘されたといううわさもあり、労働者が一層緊張している」と話している。これに対してルノー三星車側は「双龍車事態は当初技術力のない中国企業が取得し問題が始まったが、ルノー三星車は100年以上の歴史を持つ世界的自動車会社であるルノーが直接取得したもので、スタートからして全く違う」として「ルノー三星車はルノーグループのグローバル戦略で‘アジア ハブ’の役割をしている」と反論した。


果たして誰の言葉が真実であろうか? いつか歴史が明らかにするだろうが、当座は労使間の相互不信と対話不足から先ず解決することが最も緊急な課題と見える。


クァク・ジョンス記者 jskwak@hani.co.kr


原文: http://h21.hani.co.kr/arti/special/special_general/30661.html 訳J.S