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「ノガリ+ビール」誕生した「百年の店」すら撤去…ソウルで誰が持ちこたえられるのか

登録:2022-07-06 01:49 修正:2022-07-06 06:38
[ハンギョレ21] 
韓国初のフランチャイズのビアホール「乙支OBベアー」 
42年間店を守り、家主に追い出されて2カ月目 
毎日ノガリ横丁では「OBベアーを取り戻す」コンサート
ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 不夜城。2022年6月28日に訪れたソウル中区乙支路3街(チュング・ウルチロサムガ)のノガリ横丁は、一言でこのように呼びえた。店内と野外のテーブルはノガリ(スケソウダラの幼魚の干物)でビールを一杯やる人たちであふれごった返していた。夜8時が過ぎていたが、そこは昼のように明るかった。「ヒップスター」のような格好をした若者、恋愛中のカップル、会食する会社員の集団など、客の年代も様々だった。ミュンヘンHOF、エースHOF、乙支路HOFなど(HOF(ホプ)とはビアホールのこと)、多くのビアホールが多くの客を引き寄せていた。最も目立つ看板は10号店まで出店している「満船HOF(マンソンホプ)」だった。どこを見回しても満船HOFの看板しか見えなかった。

同じ場所、二つの世界

 その時、異質な光景が目に入った。満船HOFのすぐ隣の建物の前で「乙支OBベアーを取り戻すための現場文化祭」が開催されていたのだ。「家主の満船HOFは乙支OBベアーと共生せよ」というプラカードも掲げられている。誰もがわいわい楽しく酒を飲む横丁の真ん中で、ある人は「生存」や「共生」を語る。乙支路ノガリ横丁、いや「満船横丁」と呼ばれても良いその場所は同じ場所なのだが、2つの世界が広がっていた。

2022年6月28日、ソウル中区乙支路のノガリ横丁で「乙支OBベアーを取り戻すための現場文化祭」が開催されている=パク・スンファ記者//ハンギョレ新聞社

 「店が撤去された2022年4月21日、その日から1日も欠かさず市民と連帯した。ノガリ横丁の雰囲気と共存できるデモのあり方を考え抜いた末、文化祭のかたちで企画した。深夜ラジオ、街頭講演、礼拝、コンサートなどが毎日行われている」。乙支OBベアーの2代目社長、チェ・スヨンさんは語る。

 この日の夜には活動家「サイ」さんが動物権に関する街頭講演を行っていた。15人ほどの市民が席に座って講義を聞いていた。3メートル隣の満船HOFの野外テーブルに座っている客の一部も、乙支OBベアーの方を眺めていた。横丁を通り過ぎる人の何人かは乙支OBベアーに連帯するという内容に署名したり、付箋に応援メッセージを書いて貼り付けたりもした。

 乙支OBベアーは、1980年に大韓民国初のフランチャイズのビアホールとして開業した。「ノガリ+ビール(ノメク)」が初めて登場した店でもある。生ビールも他店と異なり冷却器を使わず冷蔵庫に入れて3日間熟成させるやり方にこだわった。ノガリの価格も20年間にわたって1千ウォン(約104円)を維持したほど「こだわり」のある店だった。そのおかげで多くの客を引き付けた。以降、乙支OBベアーの周りには同業の店が一つ二つと開店してゆき、今のノガリ横丁が誕生した。

 近隣の金物屋、工場労働者だけが利用者だったノガリ横丁は、数年前から「レトロ」ブームに乗って若い世代も訪ねてくる「ヒプチロ(新しくて個性的な乙支路)」の主軸となった。ソウル市は2015年に乙支路ノガリ横丁を「ソウル未来遺産」に指定し、2018年には中小ベンチャー企業部が乙支OBベアーを酒類店舗としては初の「百年の店」に選定した。百年の店とは、100年以上の保存価値のある店を発掘し支援する政策だ。しかし家主との軋轢に直面した末に、乙支OBベアーは開店から42年経った2022年4月に撤去されてしまった。乙支OBベアーのあった空き店舗は今、シャッターが下ろされ固く閉ざされている。

42年間借家人として耐えてきた

 借家人である乙支OBベアーと家主との対立は2018年に始まった。家主が「他の用途に使いたい」として乙支OBベアーに契約解除を通知し、明け渡し訴訟まで行った末、結局は乙支OBベアーが敗訴した。その後、2020年11月から2021年8月までに5回にわたり強制執行が試みられたが、常連客や市民社会団体などの阻止により失敗に終わった。

 その後、2022年1月にノガリ横丁の別のビアホールである満船HOFの社長P氏が乙支OBベアーの入る建物の62%の所有権を購入し、家主となった。それから3カ月が過ぎた今年4月21日、乙支OBベアーは閉店した。チェ・スヨン社長は「満船HOFは2014年にこの横丁に入ってきて、465メートルほどのノガリ横丁に10店舗も展開している」とし「(家主の満船HOF側に)家賃を2倍以上出すと言ってもだめだった。奇襲的な強制執行によって私たちを追い出し、対話にも応じない」と語った。

ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 乙支OBベアーがノガリ横丁から消える可能性もあるというニュースが伝わると、連帯の輪が広がった。店の常連客と様々な市民社会団体が集まって共同対策委員会を結成し、対応しているのだ。音楽家たちは無報酬の公演で支えた。

 共同対策委員会のイ・ジョンゴン執行委員長は「(家賃が上がるために)2年に一度の引越しを余儀なくされる借家人の町で、悪条件の中で42年間も文化を育んできた店こそ乙支OBベアー」だとし、「このような店を失えば、この町ではどんな家も、どんな店も守り抜くことはできないだろう」と語った。共同対策委員会は、家主の満船HOFと乙支OBベアーの共生▽ソウル市と中区役所による事態解決▽中小ベンチャー企業部の百年の店保存対策などを求めている。

家主「満船HOF」の客も署名

 毎晩、市民たちも店の前に集う。キム・ソンヒさん(37)、イ・ジヒョンさん(28)もそのうちの一人だ。「SNSで偶然、乙支OBベアーが撤去されたというニュースを知った。『ハート』『いいね』を押すことにとどまらず、積極的に参加したかった。それでプラカードを持って店の前に行った。その時はあるDJが公演中だったが、満船HOFにいた客がその音楽を聞いて体を揺らす光景が本当に独特だった」(キム・ソンヒさん)。「古い店だからといって絶対に守るべきだとは思わない。でも、この店はソウル未来遺産、百年の店に指定されているのだから社会文化的価値がある場だと思う。ソウル市と中区役所が対処してほしい」(イ・ジヒョンさん)

 乙支OBベアーの前で街頭講演が行われていた6月28日夜、満船HOFで酒を飲んでいた40代の2人の男性が立ち上がった。彼らは「乙支OBベアーを守るための市民署名運動」の署名版に署名して去っていった。

 「時にはお金を上回る価値があるみたいです。この動きが悪あがきにならないよう願います」、「共生横丁の私有化、共同体の資本化、糾弾する! 乙支OBベアーとこの闘争に連帯する多くの人々の願いを込めて、再び共生の横丁へと生まれ変わるように」。店の前に貼り付けられた色とりどりの付箋には、客の連帯メッセージが記されている。それらが光輝いていた。

シン・ジミン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1049402.html韓国語原文入力:2022-07-03 11:43
訳D.K

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