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[週刊ハンギョレ21]植物人間になった18歳の少女、謝罪すらできない医師たち

登録:2015-02-10 20:36 修正:2015-02-19 07:44
歌手シン・ヘチョルの医療事故以後、こうした有名人でもこんな目に遭うんだという嘆きが溢れ出た。 医療訴訟は最初から不公正な競技場で始めるしかない争いだ。写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

7人の弁護士たち
芸能人になることを夢見ていた18歳の少女は
整形手術後に植物人間に…
“白い巨塔”を押し倒す勝訴を勝ち取ったが
苦痛の真実さえも分からない
医療紛争システムを絶対に変えなければ

 2014年10月の“魔王”シン・ヘチョルの死は多くの人を驚かせ悲嘆にくれさせた。何よりもシン・ヘチョルのような有名人が医療事故で死亡したことに驚いたし、あきれるような医療事故がシン・ヘチョルを倒したことに対する怒り、シン・ヘチョルのような有名人でもこんな目に遭うというのに、一般人ならどうなることかという嘆きが溢れた。 それもそのはず、医療事故被害者が相当数存在しているが、多くの被害者がまともに救済を受けられずにその悔しさを訴えているのが現実であるためだ。 私もやはり数件の医療訴訟を引き受けたがほとんど敗訴したし、勝訴した場合にも本当にラクダが針の穴を通るより難しい過程を通じてのことだった。

事件を終えるまでに6年の歳月

 芸能人を夢見た18歳の少女がいた。 芸能企画社の勧めで少女は整形手術を受けることにし、企画社が紹介した整形外科で手術を受けることになった。2000年11月のある日の午後3時、少女は麻酔をして下顎の骨と頬骨の縮小手術を受けた。 午後4時45分頃、麻酔薬の投与を中断したが、少女は麻酔状態から覚めず、午後7時50分頃に左瞳孔が拡大する異常兆候を見せた。一歩遅れて少女を大学病院に移送したが、夜9時31分頃の脳断層撮影検査の結果、左側頭頭頂葉の周囲に急性硬膜外出血、左前頭、側頭頭頂葉部位に全般的な脳梗塞と脳浮腫、脳腫脹が観察された。 少女は医療スタッフから応急減圧蓋頭術(頭蓋骨を開く手術)および血腫除去術を受けた後、半昏睡状態になったが最終的に植物人間になった。

 医療事故後、少女の両親は医師からまともな(道義的)謝罪さえ受けられず、自身には誤りがない、不可抗力だったという説明を繰り返し聞かされた。 少女の両親は弁護士を選任して医師を刑事告訴(業務上過失致傷)したが、結果は無嫌疑であった。 少女の最終的な状態が医師の過失によるものという証拠はないという判断だった。 少女が医療過失の被害者であると確信して事件を引き受けた弁護士は、無嫌疑処分以後に辞任してしまい、少女の両親は当時私が勤めていた法務法人を訪ねてきた。弁護士に手付金を払うお金はもちろん、印紙代などの訴訟費用も払う余力がなく、少女の病院治療費も支払えずにいた。事件を受け持った私たちは、訴訟費用も裁判所の訴訟救済を受けて用意して、時には事務室が負担した。 事件を終えるまでに6年の歳月が流れた。 その間、少女の家族は多くのものを失った。 治療費で家を失い、親戚の家に住み込みで働き細々と生活してきた。最も胸の痛む事実は、物理治療を持続的に受ければ状態が好転する可能性があったにもかかわらず、治療費が払えなくて少女はちゃんとした治療を受けられなかったことだ。

 民事訴訟は訴訟を提起する側が相手方の誤りを立証してこそ、相手方から損害賠償を受けられる。 医療過失による訴訟も同じで、被害を主張する側が医師の誤りにより被害を被ったことを証明しなければならない。 ところが医療事故での被害立証は、医師の診療記録紙、看護記録紙に対する分析、大韓医師協会のような同僚集団である医師による鑑定等を通して行われる。 そのため医師が診療記録を偽造または、加工する前にできるだけ早く診療記録を確保して、全記録を脱落なしで確保することがカギだ。 直ちに刑事告訴をして押収捜索により診療記録を確保しなければならないが、検察は医師の任意提出を優先するためこれも容易ではない。その診療記録も、難解な医学用語が並んでいる。 その意味を解釈するには前職医師、看護師などが運営している医療記録鑑定事務室に行って翻訳しなければならない。 翻訳された内容を見ても医師が公認された医学知識により正しく治療したのかは分かり難い。これを確認するために大韓医師協会などに診療記録を送って鑑定を依頼するが、同じ医者たちで構成された大韓医師協会から医者に誤りがあったという返事を受け取ることは空の星を手でつかむことより難しい。 シン・ヘチョル氏の場合も大韓医師協会が小腸と心嚢の穿孔を医療過失とは断定できないという鑑定結果を出し、「ザリガニもカニの味方」という非難が起こっている。

 このように医療訴訟は最初から不公正な競技場で始めざるをえない戦いだ。高度な医学知識で武装した医師を相手に、医学的過失を証明しなければならない戦い。 その証明すらも同じ集団である医師の力を借りなければならない戦い。 金と時間がなければできない戦い。 この戦いで勝つことは、神話や伝説に出てくるような遠い話にならざるをえない。

厳重に隠されていた骨折記録を捜し出す

 少女の場合も大韓医師協会などの診療記録鑑定結果は医師の過失ではなく原因不明、または少女の血管に先天性奇形があったという推測だった。極めておかしなことに、硬膜外出血の主要原因は外部からの衝撃による脳骨折、出血、このような経路を辿るが、少女の記録には脳骨折(外部衝撃の決定的証拠)が発見されなかった。そのために少女に先天的血管奇形の可能性があるということで1審判決が宣告された。 2審裁判で苦労の末に少女を治療した別の病院、少女が勝訴すれば勝訴金で治療費を受け取ることにしていた病院を動かすことにした。 滞っている治療費を受け取る必要のある病院は、少女が敗訴するわけがないとして非公式に応援すると言い、病院を再び訪ねて行き一緒に記録を検索した。 明確に脳骨折の関連記録がある筈だと言った。 結局、私たちは病院を検索して厳重に隠されていた骨折記録を捜し出した。 その記録を基に再び医師を刑事告訴し、6年ぶりに私たちは勝訴の喜びを味わうことができた。“白い巨塔”を押し倒す歓呼の瞬間だったが、6年間に患者とその家族が味わった苦痛、今後味わう苦痛に較べれば決して大きいとは言えない勝訴だった。

 医療訴訟の過程で患者の悔しさに接しながらも、私は均衡のとれた考えをしたかった。 医師の診療台上で発生した事故とは言え、全て医師が責任を負わなければならないという考えは危険だ。 医師という職業はそれ自体が危険を内包している。 人の生命を扱う職業であるだけに、死も常に身近にある。 すべての医学的努力を尽くしても、医師の力ではどうにもならない不可解な事故も多いだろう。 そのすべての責任を医者に問うことはできない。

 現在の問題は、患者が医療過程または事故に対する十分な説明と情報を提供されないままに、患者がすべての証明責任まで抱え込んで、その証明さえも信じられない医師の権威に寄り添わなければならないという不公正なシステムにある。ルールが公正でこそ承服し納得することができるのに、現在のルールは悔しさばかりを量産し、ごく少数の成功した人でさえ十分な被害補償を受けられずにいると考える。

医療紛争調整制度を活性化すべき

 さらに言うならば、現在のシステムは謝罪さえすることを困難にさせるシステムだ。医師は自身の謝罪が過失の認定に映るかと考えるため、道義的な謝罪すらできない。患者とその家族は最小限の人間的な慰労さえ受けられなくなっているわけだ。過失がなかったことに対する立証責任を医者に付与し(立証責任の転換)、医療過失に対する賠償保険制度(交通事故関連責任保険のように)を活性化(または義務化)し、医療事故が起こった場合にも医者が過度な賠償の荷を負わずに済む制度を用意することが必要だ。このような制度が用意され効率的に運営されれば、医療紛争調整制度も活性化するだろうと考える。現在の不公正なルールでは医療紛争調整制度は有名無実にならざるをえない。

 少女の家族にとって最大の苦痛は、真実が分からないとことだった。 なぜ死んだのか、なぜ植物人間になったのか、真実だけが最も大きな慰労であり賠償だ。 これが医療紛争システムの変化が必要であることの最も重要な理由だ。

キム・スジョン弁護士・法務法人 志向(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/677718.html 韓国語原文入力:2015/02/10 15:13
訳J.S(3562字)

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