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「団地の警備員って楽そうに見えますか?」社長が6430人もいるのに…

登録:2014-11-25 11:13 修正:2014-11-26 07:43
青少年に「やってみたいバイトは」と訊いたら
「団地の警備員って楽そうに見えます」と答え
韓国経営者総協会などの経営界は「これまで最低賃金が過度に吊り上げられてきた」とし、最低賃金の凍結を主張している。6月13日ソウル麻浦区のある団地で警備員がゴミを分類している。ユン・ウンシク記者//ハンギョレ新聞社

労働の貴賤を分ける根強くも恥ずかしい考え

 「お母さんはなぜ先生に怒る時と警備員さんに怒る時とでは(態度が)違うの?」。小学生の息子に言われて友人はハッとしたという。行動は時として言葉より多くを語る。労働者を弁護する仕事についていながら知らぬ間に特定の労働者を見下すような態度を取っていたのだから、顔から火が出るほど恥ずかしかったそうだ。「あなたの息子さんだからそんな立派な質問ができんたんじゃない」と言いながらも、自分も恥ずかしい記憶が蘇った。

「住民6430人が全員社長だ」

 50代半ばで、決して名誉ではない「名誉退職(希望退職)」を強いられた父が、還暦を過ぎてやっと手にした「最高」の仕事は警備員だった。財産をすべて借金返済に取られた末、子供たちに用意してもらった小さなアパートで生活しながら、父は他人が暮す団地を警備した。名前こそ警備員だが、清掃、資源ごみの整理、雪かき、駐車管理まで、あらゆる雑務を任されていた。本来は業務内容になかったはずの宅配受付業務も雪だるま式に増えていった。一日おきに24時間ずつ狭い警備室で寝起きしながら働いて、手にする給料は最低賃金にも到底及ばないものだった。賃金が支払われない休憩時間でさえ「私の納めた管理費で給料をもらっているくせに寝てばかり」とにらみつけられ、思いっきり足を伸ばして横になることもできなかった。「警備員がいつも席を外している」という苦情申告されることを恐れトイレも急いで済ませた。2年前に法改正が行われ、警備員の賃金が最低賃金の90%まで上がった時にも、喜ぶどころか隣町の警備員のように首になるのではないかと気を揉んでいた。父は以前にも増してテキパキと働くようになり、入居者には一層明るく挨拶するようになった。

雇用不安と低賃金、人格冒とくなどに悩んだ末、10月17日に焼身自殺を図り死亡した狎鴎亭洞にある新現代アパート団地の警備員イ・マンス氏の追悼集会を行っている。カン・ジェフン記者//ハンギョレ新聞社

 「団地の警備員って楽そうに見えます」。(人権教育センターでの)教育で「やってみたいアルバイトは」という質問にある青年がこう答えた時、「私の父の仕事ぶりをみると、そうでもありませんよ」とすんなり言えなかった。頭では警備員をそう蔑むこの社会に問題があると分っていても、心の底ではそんな仕事をしている父を恥ずかしく思っていた。その感情に気づいて、労働の貴賤を分ける根強くも恥ずかしい考えを捨てることができた。

 「住民6430人が全員社長だ」。最近ソウル狎鴎亭(アックジョン)洞のアパート団地で焼身自殺を図った警備員の同僚が言った言葉だ。数百~数千人の社長の下で働く労働とはどんなものか。焼身の引き金となったのは「クレーマー」入居者の暴言だったとしても、警備員を自分の下で働く下男のように扱う入居者の態度に苦痛を感じたことのない警備員が果たして何人いるだろうか。「私が警備員の顔色まで窺わなきゃならないの?」。「クビになってみないと心を入れ替えて働かないよ!」。警備員の賃金は管理費の数パーセントに過ぎないにもかかわらず、警備員と入居者との間でトラブルが起きれば住民たちは急に社長になる。自分の権利は堂々と主張しながらも、管理費節約のために警備員の低賃金は当然視する。職場で自分の労働が尊重されることを望みながらも、自分の生活の場で働く目の前の低賃金労働者は見下す。

 最近行われた労働環境健康研究所の調査で、警備員の職務ストレスの原因第1位に挙げられたのが賃金で、入居者の態度と雇用不安がその後に続く。警備労働者達は知っていたはずだ。この社会では給料こそが人格であることを。低賃金と不安な地位こそが無視と侮辱を許してしまうことを。苦情が申告されたらどうしよう、電子保安システムが導入されたらどうしよう、と戦々恐々しながら働いて、ようやく端金を手にした時、さらに大きな悲惨が押し寄せてくることを。来年から最低賃金法が警備労働者にも全面適用されるが、クビになるよりは「(最低賃金)法に満たない賃金」でも甘んじて受け取った方がいいのではないか、そんなことを悩まざるを得ない現状こそが、まさに悪口を一切伴わない優雅な侮辱であることを。だから、いくつかに分けられたアンケート項目が全く意味をなさないことを。

悪口を伴わない侮辱

 「宅配が届いたと携帯メールが来たけど…」。午前零時を過ぎて仕事を終えて帰ってきた時、警備室の明かりは消えていた。楽そうに見える、見下してもかまわない、それでも働き口があることに感謝すべきだと思われている一人の労働者が眠っている。宅配は警備室ではなく、そこを守る人間に預けられている。

ペ・ギョンネ 人権教育センター「トゥル」常任活動家 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2014/11/11 16:12

https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/663922.html
訳H.J(2216字)

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