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「韓国の半導体ゴールデンタイムは残り僅か…」米中の狭間で進退両難に陥るリスクも

インタビュー:イ・ビョンチョル サムスン電子元副社長
サムスン電子のイ・ビョンチョル元副社長が4月27日、ハンギョレとインタビューしている//ハンギョレ新聞社

 中国の半導体生産と米中葛藤を最も近くで見守ってきたのはサムスン電子のイ・ビョンチョル元副社長(60)だ。彼は中国で2005年から2020年まで勤めながら、広大なトウモロコシ畑だったところにサムスン電子西安半導体工場を建てる現地実務を総括した。2022年12月の退職後は、このような経験を生かして亜洲大学米中政策研究所で研究活動を行っている。最近は「地政学的リスク下の企業外交」論文で博士号を取得した。

 4月27日にハンギョレと会った彼は、直接経験した中国の技術発掘と韓国の半導体・先端技術の未来に対する熟考を打ち明けた。彼は「韓国半導体のゴールデンタイムはもうあまり残っていない」として、韓国の次期政府が科学技術のコントロールタワーを作り、総合的対策を推進し危機を突破しなければならないと提案した。

■ 米中対立前から自立を執拗に推進した中国

- 中国が先端技術分野で大躍進できた秘訣は?

「政府の長期計画と推進力が欠かせない。2015年「中国製造2025」が出るや、中国サムスンの同僚たちとこれを分析した。次世代の主力産業として定めた10分野それぞれについて、必要技術、克服課題などが非常に詳細に盛り込まれていた。これに先立ち2006~2007年頃から「自主創新」(技術自立を意味する)という言葉をよく耳にした。米中競争が本格化する前から中国政府は技術自立と先端産業育成を長期的視野で執拗に推進してきた」

- 中国がこれほど速く技術を発展させ、韓国を追い越すと予感したか

「北京など中国各地の大学前に行く度に創業センター、インキュベーション、ベンチャー企業タウンができるのを見た。年間1200万人の大卒者のうち500万人以上が理工系人材だ。官僚の専門性も優れていた。2014年に西安にバッテリー工場を建設することを決め、サムスン電子の経営陣が中国工業情報化部(韓国の産業通商資源部に該当)の苗ウ(ビョウ・ウ)長官と会談した。実務のディテール(細部事項)まですべて把握していることを知り、皆が驚いた。官僚の専門性と共産党の一貫した戦略、大規模な人材プール、国家的資金支援と民間技術企業のシナジーを見ながら、中国の技術起こしはそこまで来ていると思った」

- 半導体分野で中国が韓国を追い越したとみるべきか

「分野別に少しずつ違う。NAND型フラッシュメモリー分野では韓国にほぼ近い。反面、DRAM分野では韓国企業に比べて1・2世代ほど遅れているが、追い上げてきていると思う。ファウンドリも7ナノ級水準まで追撃した。ファブレスは韓国はもちろん先進国水準に近づいた。Biren Technology(壁仞科技)やファーウェイのハイシリコンは、NVIDIAに匹敵する。中国企業の大半が米国の制裁対象であるため、追撃速度が少し遅くなったが、結局は時間の問題だ」

- 中国の半導体企業は何社あるのか

「2023年基準で約23万9千社だ。2022年に4万8千社が新たに登録し、2023年には約7万社が新たにできた。一年に廃業する約1万1千社程度を勘案しても、1年に4万~6万社の半導体関連企業が新しく生まれる。韓国は半導体協会に登録された企業が500社にも満たない。中国は膨大な半導体生態系で激しい競争を経て、チャンピオン級の企業を輩出し続けている」

■ 米中葛藤の中、進退両難に陥ったサムスン西安工場

- サムスン電子の半導体西安工場の状況は?

「3つのリスクを抱えている。まず2022年10月7日、米国は『一定水準以上の半導体装備は中国に納品できなくする』という制裁を出した。この制裁は『技術新冷戦』の分水嶺と呼ばれるほど波紋が大きかった。サムスン電子とSKハイニックスが米国政府から最初は1年間の制裁猶予を、2023年にはVEU(検証された最終使用者)資格を受けて装備を持ち込むことはできる。問題はこの資格がいつでも取り消される危険があり、既存装備の維持・補修・交替のような制限的装備だけを入れることができるという点だ。足かせはさらに強化されるかもしれない。2番目は米国のチップス法には米国に工場を建て補助金を受ければ「憂慮国家」(中国)で今後10年間は5%以上の生産能力拡張をできないという規定がある。半導体産業は規模の経済であるため、絶えず拡張し、新しい装備も投入しなければならない。先端装備の導入が難しい「非正常」状態が続けば稼働率も下がり収益性も悪化する恐れがある」

- 3番目のリスクは?

「中国の『域外遮断法』だ。同法には、外部から中国に不当な制裁をした場合、企業は商務部に報告し指針に従わなければならず、指針に従わなければ中国政府が処罰できるという規定がある。中国が先端半導体の完全な国産化をしていないため、まだ韓国の半導体企業が米国の制裁に従っても同法は適用されていない。ところが中国の技術水準が継続的に高まり韓国半導体がこれ以上必要なくなれば、韓国企業は米国の制裁に従ったという理由でこの法を適用されかねない。韓国半導体企業が米・中の狭間で進退両難に陥りかねないという意味だ。このような理由から西安工場は長期計画を立てるのが難しい」

- 西安に半導体工場を建設することを決め、建設する間の中国政府の態度は?

「当時、西安は10億ドル以上の規模の外国人投資を受けた経験もなかった。広大なトウモロコシ畑に工場を建てることができるだろうかと思った。しかし、西安市政府は非常に積極的に支援を約束し、途方もない推進力を発揮した。中央政府の批准や環境評価など、全ての過程を西安市政府が乗り出して、6カ月で終えた。我々は早くても1~2年を予想していた。西安市政府は「サムスンプロジェクト支援班」を公式組織に作り、現場支援班を建設現場に常駐させた。必要な工程を作る建設会社がない時は、市政府が直接装備を持ち込んで建設会社を設立したりもした」

2012年9月、中国陝西省西安でサムスン半導体工場の着工式が開かれている=西安/パク・ミンヒ記者//ハンギョレ新聞社

■ 韓国の新政権は科学技術のコントロールタワーを作るべきだ

- 最近、サムスン電子のイ・ジェヨン会長が習近平主席の招待で中国を訪問した。中国序列6位で中央科学技術委員会を率いる丁薛祥(ディン・シュエシアン)常務委員は、サムスン電子の西安工場を視察した。中国はサムスン電子をはじめとする外国企業が中国と一緒に進もうという信号を送っている。韓国はどう対応すれば良いのか

「2019年の李克強首相訪問以来、6年ぶりに丁薛祥常務委員が西安工場を訪問し、相互にウィンウィンしようと話した。重要なメッセージだ。韓国企業は、世界市場の半分である中国市場を諦めるわけにはいかない。リスクを管理し、隙間を見つけて中国で市場を拡大し、協力できる地点を探さなければならない。難しいからと諦めれば、苦労して維持してきたものもすべて失うことになる」

- 企業一人では危機を乗り越えることはできないという話もある。韓国の新政府と企業がどのような協力をすべきか

「経済が国家安保とつながる経済安保時代が来てしまった。韓国はもう一段階上がるか、このまま座り込んでしまうかという決定的な転換点に立っている。「国家対抗戦」時代に企業一人で生き残ることは難しい。企業が複合的リスクを克服できるようにする政府の役割が重要だ。中国は2023年、共産党の傘下に科学技術委員会を設置し、科学技術と先端産業に対する総合計画を立てて推進している。米国はホワイトハウスの傘下に科学技術政策室(OSTP)を置いている。韓国は各省庁が別々に動いているため、総合的な計画も実行力も担保しにくい。韓国の次期政府が米・中のように強力な科学技術のコントロールタワーを設立し、総合的対応方案を用意・推進しなければならない。時間はもうあまり残っていない」

2012年9月、サムスン電子西安半導体工場の着工を祝う西安政府の広告看板が市内随所に設置されている=西安/パク・ミンヒ記者//ハンギョレ新聞社
文・写真パク・ミンヒ先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/1197221.html韓国語原文入力:2025-05-13 18:59
訳J.S