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クレディ・スイスの火の粉、韓国造船業界に飛んでくるか

登録:2023-04-04 06:01 修正:2023-04-04 08:02
[ハンギョレS]キム・スホンの投資「トーク」 
クレディ・スイスと船舶金融 
 
UBSによる買収後「船舶金融が縮小」 
クレディ・スイスの船舶金融の半分はギリシャ 
韓国内の海運業者、ギリシャとの取引は少ない 
専門家ら「韓国への影響は限定的」
先月20日(現地時間)、スイスのチューリッヒにあるクレディ・スイスの前で人々がデモを行っている/EPA・聯合ニュース

 欧州で広がっているクレディ・スイス(CS)の騒動の火の粉が、韓国の造船業界に飛んでくるのではないかと懸念する声が出ている。多くの業界専門家らは大きな影響はないとみる反面、推移をよく見守らなければならないという指摘も提起されている。クレディ・スイス問題が、なぜ韓国の造船業者に影響を及ぼしうるのか。

 クレディ・スイスは、スイス最大の銀行であるUBSに買収されることが確定した。UBSは最近、クレディ・スイスの船舶金融の割合を減らすことにしたと発表した。船舶の価格は種類や大きさにより差が大きいが、LNG船やコンテナ船(2万3000TEU級)は、新規の船舶を基準とすると2000億ウォン(約200億円)を軽く超える。海運会社がこれほどの価格の船舶を発注するには、船舶金融が必須だ。したがって、この資金市場がふさがれるとなると、船会社としては新規の船舶発注だけでなく既存発注の船舶の建造代金を支払うことも困難にならざるをえない。

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船舶を建造して運用する方法

 造船所と船舶契約を結ぶのは海運船会社ではない。船会社は発注のために特別目的会社(SPC)を設立する。船舶の建造代金を100万ウォンとする場合、SPCは通常、銀行などから優先融資として80万ウォンを、船舶投資会社やファンドなどから劣後融資として20万ウォンを調達する。多くの場合、船会社が一定の自己資金を投じる。例えば、船会社が直接造船業者に20万ウォンの前受金を支払い、船舶建造契約を締結した後、SPCに契約を移転する。すると、SPCは80万ウォンの資金だけを船舶金融から調達すればよい。SPCは、その資金を船の建造と引き渡しの過程で中途金および残金として造船所に支払う。SPCが船舶の法的な所有者になるわけだ。

 船会社は、このSPCから船舶を借りて貨物運送の営業を行う。船会社から用船料を受け取るSPCは、融資元に元利金を支払う。船会社は、船舶建造代金として20万ウォンを負担したので、用船料からその金額分の免除を受ける。船を借りる期間が終わると、多くの場合は船舶は船会社が買収する。その際、中古船舶の価格が高く値付けされた場合、劣後融資者である船舶投資会社やファンドは、用船料の収益がなくても、契約内容にしたがい売却差益の一部を受けることができる。

 船舶金融の構造を細かく調べてみると、実際の船主は船会社だといえる。船会社は自己資金で20%前後だけを投入すればよく、少ない資金で複数の船を発注することでレバレッジ効果を得ることができる。SPCの構造を活用する最大の理由は、いわゆる「倒産隔離」効果だ。SPC所有の船舶は融資者に担保として提供される。船会社はSPCの元利金の支払いに対する保証人になったりもする。船会社がつぶれても、貸出者はSPCから船舶を譲り受け、投資金を回収できる。

 ここで、ふたたびクレディ・スイス問題に話を戻そう。船会社が船舶金融なしで発注するには、自己資金を使うか、増資または社債発行などで調達した資金を活用せざるをえない。そのような形での資金運用は資本効率性の側面で望ましくないため、船舶金融はほぼ必須だ。専門家らは、船舶金融に支障が生じると、船主が発注に踏み切ることが困難になると予想する。既存発注の船舶に対する中途金や残金などを支払えない場合、造船所としては造船契約自体を取り消さなければならない状況に追い込まれることにもなりうる。船舶代金は、建造契約時に前受金で20%、建造段階で中途金として10%ずつ3回、そして最後の完成船舶の引き渡しの段階で50%を支払うのが一般的な慣行だ。

 証券業界によると、クレディ・スイスの船舶金融の規模は、2021年時点で100億ドルの水準だ。このうち半分を上回る約50億ドルがギリシャの船主との取引額だ。全世界の金融会社がギリシャと取引する船舶金融の規模は500億ドルで、うち50億ドルがクレディ・スイスによるものとみると、10%程度を占めるわけだ。したがって、クレディ・スイスの船舶金融を減らす影響はギリシャの船主が最も大きく受けるものとみられる。

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船舶金融の融資主体が多様化

 ならば、韓国の造船業者とギリシャの船主の間での取引はどの程度だろうか。韓国投資証券がグローバル市場の調査機関であるクラークソンの資料を基に分析した内容によると、現代重工業の今年3月時点での受注残高のうち、ギリシャの船主の発注分は15.8%(金額基準)を占める。大宇造船海洋、現代三湖重工業、サムスン重工業は、それぞれ13%、11.3%、7.8%の水準だ。SK証券の分析では数値が少し増え、現代重工業は22%、現代尾浦造船は24.2%、現代三湖重工業は11.3%、サムスン重工業は7.3%、大宇造船海洋は13%と把握された。

 業界の専門家らは概して、クレディ・スイス問題が韓国造船業界に及ぼす影響は限定的だと語る。まず、クレディ・スイスが2021年時点で全世界の船舶金融(2900億ドル)に占める割合は3.4%(100億ドル)にすぎないという点をその根拠として提示した。韓国の造船業者の受注残高に占めるギリシャの割合も大きくないと評価した。クレディ・スイスが既存の船舶金融の融資の回収に乗りだすのではないかという予想については、専門家は可能性は低いとみている。既存の融資資産を減らすとしても、債権を他の銀行に売却譲渡する方式を選ぶしかないということだ。海運運賃や中古船舶の価格は高い水準を維持しており、船舶融資は優良資産と評価されている。したがって、クレディ・スイスが放出する融資資産の譲渡は問題なく達成できると見通した。用船料の支払い主体である船会社の流動性と財務状態も、ここ数年の間に非常によくなった。

 船舶金融の融資主体が多様化したという点も、影響が限定的であることの根拠として提示された。かつて融資主体はほぼ銀行が中心となっていた。だが、2008年以降、世界金融危機や欧州危機などを経て、一般の商業銀行は船舶金融を大幅に減らした。そこを船舶関連のファンドと政策金融機関が埋めた。韓国でも、輸出入銀行、産業銀行、海洋振興公社、資産管理公社などが以前よりも活発に船舶金融に参加している。

 一方では慎重論も出ている。米国や欧州の地域銀行の問題がまだ進行中であるため、その影響は断定しにくいということだ。銀行の資本健全性や安定性が問題として浮上すると、船舶金融のような高リスクの資産から減らそうとする動きが同時多発的に発生する可能性がある。仮にそのような状況が現実化するとなれば、やはり政策金融機関の役割が大きくならざるをえないだろう。

キム・スホン|経済問題分析メディア「コリアモニター」代表 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/global/1086116.html韓国語原文入力:2023-04-02 19:51
訳M.S

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