「悪手、駄目詰まり(自分に不利な行動)、砂上の楼閣…」
英国政府による大規模減税政策の発表直後、韓国の証券各社が出した分析報告書のタイトルの数々だ。高物価・高金利の時期の大々的な減税は英国債券と通貨の「ダブル安」を招き、世界の金融市場を動揺させたというのだ。
世界的な物価高の危険性を警告してきた米国のラリー・サマーズ元財務長官は「英国は長きにわたり、主要国の中で最悪のマクロ経済政策を追求したと記憶されるだろう」と指摘した。英国と「似たような減税」を推進している韓国政府も政策の修正を考える必要があるとの指摘が出ている。
26日(以下現地時間)の英国債券市場は、英国債2年物の金利が前取引日に比べて0.62ポイント上昇の4.53%となり取引を終えた。中央銀行の政策金利の変更に敏感なこの2年物国債の金利は、先月末の約3%からわずか1カ月あまりで50%以上上昇した。いわゆる「ギルト・タントラム」(英国債のかんしゃく)現象が現れたわけだ。
これは英国政府が23日に発表した景気浮揚策の余波だ。この浮揚策は、ここ50年で最大規模となる年間450億ポンド(約70兆ウォン)の減税に加え、家計と企業に対して今後6カ月間にわたって電気・ガス料金など600億ポンド(約92兆ウォン)を補助するというのが中心だ。今月初めに就任したリズ・トラス首相は、物価の負担を軽減するとともに、来年は0%と予想される実質経済成長率を2.5%にまで引き上げるとして勝負に出たわけだ。
問題は、不足する税収を充当するためには大規模な国債発行が必要だということ。債権供給拡大に対する懸念はもちろん、ドル高の中では英国債の投資収益率が下がるのではないかとの憂慮が重なったことで、市場では英国債の投げ売り現象が起きた。これこそ国債金利が跳ね上がった背景だ。そのうえ減税などの浮揚策を通じて市場での需要を増やせば物価をむしろ刺激するため、政策金利引き上げが速まりうるという懸念もある。
市場では、英国債の価格と共にポンドが過去最低水準にまで暴落したのは、英国政府の経済政策に対する金融市場の信頼が墜落したためだとの見方が強い。通常は、政策金利が上がれば人々は利子をより多く得ようとするため、通貨価値は上がらなければならないが、正反対の現象が現れている。減税政策によって物価安定と成長の両方が達成できないうえ、高金利のせいで政府の借金ばかりが増えるため、国の信用に問題が生じうるというわけだ。国際通貨基金(IMF)で首席エコノミストを務めたオリビエ・ブランシャール氏は最近、自身のツイッターに「英国がユーロ圏(ユーロ使用国)にいないのは幸い」だとし「さもなければもう一つのユーロ危機に直面していただろう」と記している。
英国政府が推進する減税は韓国政府のそれとそっくりだ。政権初期の物価高の時期に大規模減税政策を打ち出したことや、企業に対する減税と規制緩和によって供給を増やすという論理も同じだ。法人税、所得税、不動産税の引き下げなどで「金持ち減税」、「トリクルダウン効果」論争が拡大しているのも似ている。しかしコラムニストのマーティン・ウルフ氏は「フィナンシャル・タイムズ」のコラムで「供給面の(改革の)約束は幻想だが、財政と経済に及ぼすリスクはそうではない」と指摘した。減税の供給拡大効果が不透明であるうえ、物価高の時期においてはマクロ経済の不安定ばかりをもたらすという現実的なリスクが大きいというわけだ。
両国には違いももちろんある。英国の国内総生産(GDP)に対する政府負債の比率は2020年現在で102.6%で、韓国(48.9%)の2倍を超える。安定した輸出製造業を支えに経常収支(国全体の貯蓄-投資)黒字を守る韓国と、慢性的な経常収支の赤字を抱えているうえ、エネルギー危機にも脆弱な英国とでは事情が異なる。企画財政部の関係者は「最近、対外問題の影響がとにかく高まっていることで、過去に比べて個別国家の政策に市場は敏感に反応している」とし「英国は減税と支出の拡大によって莫大な財政赤字を出したことで大規模に国債を発行することになったが、韓国は新型コロナウイルス禍の時期に比べて支出を減らしているため財政収支(収入-支出)が改善されており、基本的な状況が異なる」と述べた。