「問題の本質は台湾だ」
米国主導の「チップ4」結成推進をめぐる推測と議論が盛んになった今月初め、ある半導体業界の関係者は、本紙の電話インタビューで、「米国は台湾を抱え込もうとしており、中国はそれに反発している」と解説した。韓国がチップ4に参加するか否かよりも、台湾を中心に置いて考えなければならないという分析だった。彼は、韓国が「技術」(米国)と「市場」(中国)という選択の分かれ道に立つならば「当然、技術」だと語った。「技術があってこそ物を作り、物を作ってこそ市場に売ることができるのではないか」と述べた。
米国主導のもと、韓国・日本・台湾をまとめる半導体サプライチェーン協議体「チップ4」への韓国の参加は、既定事実として固まった。韓国の参加の意向はすでに米国に伝えられており、チップ4構想を現実化するための議論の出発点とみられる予備会議が今月末か来月初めに開かれることが、8日に分かった。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領はこの日、龍山(ヨンサン)の大統領室への出勤途中の囲み取材で、チップ4への参加について「そんなに心配しなくてもいい。関連省庁とよく連携して論議し、韓国の国益を守り抜く」と述べた。
チップ4構想のキーワードに台湾を選ぶ認識は、産業研究院(KIET)の報告書にも明確に表れている。産業研究院は、先月発行した『半導体の地政学変化と韓国の進路』で、「一部では、韓国のグローバル『チップ同盟』からの疎外の可能性とリスクが提起されている。しかし、裏面を見てみると、西側の台湾の安全保障状況に対する脅威の認識は非常に深刻な水準」だとしたうえで、「米国と欧州連合(EU)の真の目的は、中長期の対台湾依存度の縮小と自国のシェア向上」だと指摘した。
半導体産業では、米国はもちろんEU指導部と企業も、アジアへの依存度を縮小することを中心課題にしており、その中心はまさに「台湾による市場独占からの脱皮」にあるというのが、産業研究院の分析だ。産業研究院は「公然と武力統一を主張している中国の圧力とウクライナ問題によって、西側は(中国の)台湾併合と同時に先端および成熟工程の半導体の供給が遮断される場合、主力産業が受けることになる壊滅的な打撃について深刻な危機意識を持っていると把握される」と明らかにした。
これは、米国とEUの半導体産業支援策と主要人物の発言に基づいている。米国商務省が3月に発表した「2022~2026年戦略計画」において、米国の製造業およびサプライチェーンの強化を1番目の目標とし、そのために、推進戦略の1番目に米国内の先端半導体の能力強化を入れたのがその一例だ。台湾に過度に依存していることにともなう危険性を強調する米国とEUの主要人物の警告の声も、同じ流れにある。米国のジーナ・レモンド商務長官は5月、メディアのインタビューで「台湾への依存は危険だ」と述べ、EUのウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長は、同月の世界経済フォーラムでのビデオ演説で、「ごく少数の外国企業から半導体を輸入することにともなう依存性と不確実性を受けいれることはできない」と主張したことがある。
「台湾を取り込もうとするもの」(業界関係者)と「台湾による独占からの脱皮」(研究院)という分析は、一見すると相反する方向にあるように映るが、「短期」と「長期」という観点の違いを持ちだせば、結局は同じ地点を示している。半導体製造基盤を今すぐには構築するのが難しい米国の立場としては、まずは北東アジアと緊密に協力し、長期的には自身の製造能力強化に進むだろうという分析だ。
チップ4結成を中心に台湾などの北東アジア国家と協力関係を強化しようとする米国の動きについて、産業研究院は、「製造能力が劣勢である状況において、今後のサプライチェーンの衝撃にともなう(米国内の)需要産業の被害を最小化するため、短期的な需給安定化を目的にアプローチしている」と解説した。
産業研究院のイ・ジュン先任研究委員は本紙の電話インタビューで、「米国の本音をすべて知ることはできないが、台湾の地政学的な不安定さに対する懸念が強いことは事実」だとしたうえで、「時間を置いてゆっくり“フェードアウト”(台湾への依存度の縮小)する戦略を用いるはずなので、リスク分散の1次的な代案は韓国であり、最終的な代案は(米国)自国内に(製造基盤を)多く持ち込ませること」だと推測した。半導体の製造基盤を構築するためにはかなりの時間を要するため、このような漸進的な戦略を用いざるをえないという見通しだ。
したがって、チップ4構想は、短期的には韓国にとっての機会要因に挙げられる。高付加価値の非メモリー半導体の需要側である米国とEUの台湾依存による不安と供給元多角化の欲求を、「技術競争力の側面では世界唯一の代案である韓国」が請け負うしかないという点からだ。一方、長期的には、米国とEUのアジア依存度の縮小の試みによって、韓国の半導体産業も打撃を受けるものとみられる。産業研究院は「2025年前後には、供給過剰リスクを中心に韓国の半導体産業の競争環境が悪化すると見込まれており、世界経済および半導体需要産業の景気の不確実性も徐々に増している」と明らかにした。
米国は、クアルコムやエヌビディア(NVIDIA)などの設計専門企業(ファブレス)を通じて世界の半導体市場を掌握しており、日本は半導体素材・部品の領域で独走している。非メモリー半導体の委託生産(ファウンドリ)分野では、台湾のTSMCが不動の1位だ。韓国はサムスン電子を中心にメモリー分野で最強ランクであると同時に、ファウンドリ分野では台湾に次ぐ2位となっている。
チップ4は、米国・日本・韓国・台湾の4カ国の半導体における協力を強化しようというものであり、中国を牽制するという米国の構想から始まった。そのため、中国をサプライチェーンから排除する一種の経済と安全保障の「同盟」という解釈を生じさせもした。韓国のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備の時のように、中国の経済報復を引き起こす可能性があるという懸念と予想が出ているのもそのような背景からだ。
産業通商資源部のイ・チャンヤン長官はこの日、政府世宗庁舎で記者団に応じ、チップ4については「純粋に経済的な国益の次元で決める問題」だとしたうえで、「中国などの特定の国家を排除したり、閉鎖的な集まりを作る考えはない」と明らかにした。チップ4参加の場合の中国による外交的報復の可能性については、「具体的に述べるのは難しいが、チップ4の内容や水準、方式などに応じて(中国の報復の)可能性は変わるはずだとみている」とし、「チップ4予備会議では、望ましい方向性について、私たちなりの意見を提示する考え」だと述べた。
産業通商資源部の当局者は「チップ4に付いている『同盟』という表現は、メディアが間違って付けたニックネームであり、適切ではなく、あまりにも多く使われている」と述べた。「実質的な参加の主軸はサムスン電子やTSMCなどの企業であり、これらは互いに競争する関係なのに、どうやって同盟を結べるのか」という反問を付け加えた。彼は「同盟の場合は他の所(国)にとっては排他的ということになるが、半導体分野で(最大市場である)中国をデカップリング(排除)することはできない」としたうえで、「(チップ4は)サプライチェーンの安定を試みるための協議体または対話チャンネルとみるのが適切だ」と述べた。