この一年、世界は電気自動車時代に向かう期待で揺れた。各国の政府と企業が先を争って未来車産業に対するバラ色の展望を出したが、未来車の登場と共に社会が直面することになる成長痛については十分に議論されていない。自動車産業全般の構造調整と伝統的な労使関係の解体は、まだ未知の宿題として残っている。未来車が私たちの社会に起こしている亀裂を二回に分けて調べる。
1.未来車の2つの顔
20日午後0時30分、現代自動車蔚山(ウルサン)第1工場。アイオニック5のテスト車両を作っていた工程が突然停止した。労働者が車体の投入を阻止したせいだ。彼らが立ち上がった理由は、電気自動車の主要部品の外注化。現代自動車グループは現代自動車・起亜自動車ではなく現代モービスを中心とする電気自動車生産計画を確定し、そのトップバッターとしてアイオニック5を試験量産中だ。このまま推移すれば、完成車工場の約半分は内燃機関車とともに徐々に歴史の中に消えることになる。
蔚山工場の風景は、電気自動車時代に自動車産業が直面することになる構造調整ドラマの予告篇を見せる。産業パラダイムの急変で、企業らは一方では新事業に投資財源を注ぎ込み、他方では原価低減にいつにもまして強力なドライブをかけている。現代自動車グループが労組の“雇用安定”要求に確答を避け続けてきたのも同じ脈絡だ。
すでに構造調整が始まった現代自動車
28日、現代自動車労使双方の説明を聞いてみると、現代自動車グループは内燃機関車のパワートレインに該当するE-GMP(エレクトリック・グローバル・モジュラープラットホーム)と電気自動車のPE(パワーエレクトロニクス)モジュールをすべて部品系列会社で生産することにした。E-GMPは現代自動車グループの電気自動車専用プラットホームで、3月に発売するアイオニック5を皮切りに、すべての電気自動車に適用される予定だ。現代自動車グループの関係者は「E-GMP電気自動車パワートレインの場合、現代モービスと(グループ外の)別の部品企業を競争させて、原価を削減する方向に進むだろう」とし「現代自動車や起亜自動車は選択肢にない」と話した。
労組は崖っぷちに立たされた。現在、現代自動車の工場の半分程は完成車の組立、残りの半分は主に内燃機関車のパワートレイン生産を担っている。電気自動車の比重が増えるだけに、後者は次第に規模を減らさざるをえないわけだ。これに対して労組は、昨年の団体交渉で電気自動車のPEモジュール物量を要求したが、会社は受け入れなかった。最近は労組執行部もこれをあきらめる側に傾いている。執行部関係者は「毎回、賃金交渉の度に成果給の獲得が精一杯で、こうした状況に全く備えることができなかった。すでに手遅れだ」と打ち明けた。
その間に現代自動車はすでに事実上の構造調整を敢行している。毎年の定年退職人員にあわせて工程を大幅に減らす作業だ。会社はこれを“工程改善”と呼んでいる。昨年の“改善”対象は、1041工程で計1572名分だ。同じ年の定年退職人員1436人を少し上回る。1970人が定年退職する今年は、1712名分の工程がなくなる見込みだ。
人員の補充が必要なところには新規採用の代わりにシニア嘱託制で対応している。シニア嘱託制は、定年退職した後も最長1年間の契約職として勤務できる制度だ。2019年の労使合意で導入された。ある組合員は「最大限新規採用をしないとする会社と、定年を少しでも延長したい高齢組合員の利害関係が合致した結果」と話した。
「労使共に対策がない」指摘
産業パラダイムの変化に伴ってなされる不可逆的な構造調整という側面で、混乱はいっそう激しい。今後労使紛争につながる兆しも見える。最近蔚山第1工場で起こった衝突が代表的だ。当時現場にいたある組合員は「百歩譲歩して電気自動車のパワートレインをくれないならば、PEモジュールとサスペンションを統合するフロントシャーシモジュールでもくれというのが要求」だとして「アイオニック5の生産工程を中断させたのもそのため」と話した。
会社は強硬基調を維持している。労組が要求する総雇用の保障に対しても、最近では言及自体を避けている。定年の保障でない“雇用の保障”と解釈される可能性を警戒する雰囲気だ。労組執行部は昨年10月、チョン・ウィソン会長と会い「総雇用保障合意書に対する信頼を欲しい」と要求した。現代自動車はこれに対してチョン会長が「雇用不安が発生しないよう労使が共に努力しなければならない」と答えたと明らかにしている。
このために正規職の生産職の比重が高い現代自動車・起亜自動車の生産物量を大幅に減らす計画は、近い将来本格化する公算が大きい。新規採用を事実上“0”とする現在の計画のとおり進めば、2030年には生産職の40%だけが会社に残ることになる。韓国最大規模を誇った「5万組合員」の現代自動車労組も昔話になるわけだ。
現代自動車の雇用安定委員会の内部からは懐疑的な声が出ている。雇用安定委員会は、2019年から未来車時代に備えて生産職の再配置案を準備している。ある諮問委員は「現実的な再配置案を見つけにくいことも問題だが、さらに大きな問題は他にある」として「基本的にグループのトップの決断が必要な事案なのに、本社では(雇用安定委を)形式的な手続きとのみ考えていて、このまま整理することを願う雰囲気が濃厚だ」と話した。
現代自動車工場の萎縮は、自動車産業全般で影響を及ぼす可能性が高い。未来車投資に莫大な金額がかかるだけに、内燃機関車の生産側から原価を下げなければならないという誘引が大きくなっているためだ。現代自動車の原価低減推進委員会は、2018~2025年に合計41兆ウォン(約3.8兆円)を削減する計画を今年新たに樹立した。既存の目標である2018~2022年に34兆5000億ウォン(約3.2兆円)から期間も金額も増やした。また別の諮問委員は「労使ともに短期利益だけに没頭することから抜け出して、未来世代のために自動車産業がどんな働き口を提供するかを熟考しなければならない」と話した。