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サムスン「非メモリー半導体」宣言から1年…小さくとも大きな“足取り”

登録:2020-05-10 22:26 修正:2020-05-11 12:15

売上3兆ウォン台の初中盤に留まった過去とは違い 
昨年第2四半期から3兆ウォン後半~4兆ウォン台 
中小企業育成・雇用創出への寄与率高く 
「半導体ビジョン2030」計画どおり投資すれば 
間接雇用の誘発効果は42万人にのぼる見込み 

ファウンドリは7ナノ以下工程を保有していながらも 
1位のTSMCとの占有率の格差解消が課題 
AP部門ではクアルコムに追いついているが 
チップ性能にはまだ差があるとの評価 

メモリー・ファウンドリ・チップ設計全て可能 
総合的な半導体能力は「長所であり短所」 

新型コロナでモバイルの需要が減少する悪材料のなか 
エクシノスの価格競争力に期待も

グラフィック_キム・ジョンスク//ハンギョレ新聞社

 昨年4月、サムスン電子は「半導体ビジョン2030」を出した。2030年までに非メモリー半導体(システム半導体)のグローバル1位を達成するために、研究開発(R&D)および生産技術の拡充に総額133兆ウォン(約11.6兆円)を投資すると明らかにした。メモリー半導体分野ではグローバル1位だが、非メモリー半導体分野では依然として成果が不十分だとの判断からだ。人工知能(AI)とモノのインターネットが、人々の暮らしの中に少しずつ入り込む第4次産業革命時代に、非メモリー半導体市場が一層大きくなるという展望もサムスン電子が非メモリー半導体投資に出る背景だ。

 サムスン電子のこうした動きは、非メモリー半導体事業を育成しようとする政府の意志とも正確に一致する。昨年3月19日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は国務会議(日本の閣議に当たる)で「メモリー半導体に比べて相対的に競争力が脆弱な非メモリー半導体分野の競争力を高め、メモリー半導体の偏重現象を緩和する策を迅速に出してほしい」と述べた。サムスン電子が「半導体ビジョン2030」を発表したのは、文大統領の発言の1カ月後だ。政府との交感の中でなされた発表だったと後に分析された。

 このように民と官が共に非メモリー半導体の育成に力を集めるのは、非メモリー半導体がメモリー半導体より大きな付加価値を持つためだ。韓国電子通信研究所(ETRI)のカン・ソンウォン情報通信技術(ICT)創意研究所長は「非メモリー半導体が産業化されれば、雇用創出などきわめて大きな波及効果を起こす」と説明した。産業研究院のキム・ヤンペン専門研究員も「メモリー半導体は価格の浮沈が激しいが、非メモリー半導体は安定的」だとして「中小企業育成や雇用創出の面でも、メモリー半導体より非メモリー半導体の寄与率ははるかに高い」と話した。サムスン電子も「半導体ビジョン2030」の計画どおりに投資がなされれば、間接雇用の誘発効果が42万人に達するとの推算を出した。

サムスン電子、非メモリー半導体の成果は?

 それではビジョンを発表してから1年が経過した現在、サムスンの非メモリー半導体はどの程度の成果を出しているだろうか。大きな流れだけを見るならば、過去1年間に著しい実績変化はまだ見られない。先月29日、サムスン電子が発表した今年第1四半期の実績を見れば、メモリー半導体を除く非メモリー半導体の売上は4兆5千億ウォン(約3900億円)だ。約10年間、四半期毎に2兆~4兆ウォンの売上を記録した流れからは大きく抜け出ない。もちろん、主に3兆ウォン台初中盤に留まっていた過去とは違い、昨年第2四半期以後からは3兆ウォン台後半から4兆ウォンを行き来する売上を続けてきたのは、小なりといえども意味ある変化と評価するに値する。

 サムスン電子の非メモリー半導体は、大きく2つの分野に分けられる。ファブレス(チップ設計)企業から受注してチップを生産するファウンドリ部門と、自らチップ設計をするシステムLSI(高密度集積回路)部門だ。システムLSI部門では、スマートフォン・アプリケーションプロセッサ(AP)の「エクシノス」シリーズが、サムスン電子が戦略的に技術競争力を強化している製品だ。サムスン電子はこの2つの部門でそれぞれグローバル1位を目標にしている。現在ファウンドリ部門で1位のメーカーは台湾のTSMC、アプリケーションプロセッサで1位のメーカーは米国のクアルコムだ。

 だが、現在までの成績だけを見れば、各分野とも1位奪還まではまだはるかに及ばないように見える。今月1日、市場調査機関TrendForceが発表した今年第1四半期のファウンドリ市場占有率は、TSMCが54.1%で1位を占めている。サムスン電子は15.9%で2位だが、1位との格差が大きい。しかも、昨年第4四半期に比べて格差はさらに広がった。TSMCの占有率は、昨年第4四半期の52.7%から今年第1四半期には1.4ポイント高まり、サムスン電子の占有率は昨年第4四半期の17.8%から1.9ポイント下がった。

 TSMCは技術力でもサムスン電子に先行している。ファウンドリ企業のうち7ナノ以下の微細工程技術を持っているのは、TSMCとサムスン電子だけだ。しかし、極紫外線(EUV)超微細工程が必要な5ナノ競争では、サムスン電子が遅れを取っている。TSMCがすでに4月に世界で初めて5ナノ工程の量産に入ったのに対して、サムスン電子は昨年下半期に5ナノ工程の製品設計を完了し、まだ製品の量産を始められずにいる。サムスン電子関係者は「今年第2四半期から5ナノ基盤の製品を量産する計画」と明らかにした。

戦略スマートフォンにクアルコムのチップを搭載

 サムスン電子は、アプリケーションプロセッサ事業でも市場占有率を少しずつ高めているものの、依然として1位との格差は大きい。最近、グローバル市場調査機関のカウンターポイントが出した四半期別報告書によれば、昨年サムスン電子の世界アプリケーションプロセッサ市場占有率は、2018年の11.8%から2019年には14.1%に上がり、アップルを抜き3位を占めた。クアルコムが33.4%で1位、ミディオテクが24.6%で2位を記録した。アップルは13.1%で、2018年市場占有率3位から昨年は4位に下がった。一方、サムスン電子は2018年の11.8%から2.3%ポイント増えた。

 だが、1位のクアルコムの技術力にはまだ追いつけずにいる。サムスン電子は、今年初めに発売した戦略スマートフォン「ギャラクシーS20」国内用製品にサムスン電子が自ら設計したエクシノスの代わりにクアルコムのスナップドラゴン865を採択した。これまでも販売地域により搭載されるアプリケーションプロセッサは異なっていたが、韓国国内用の戦略スマートフォンには常にエクシノスを搭載してきた。しかし、今回初めて国内用製品にもクアルコムの製品が入った。業界関係者は「性能が劣るチップを採択すれば、スマートフォン市場で競争力を持ちえないので、自社製品より品質が優秀なチップを搭載せざるをえなかったのだろう」と話した。

半導体総合企業のチャンス要因とリスク要因

 このように、サムスン電子がモバイルからメモリー半導体、ファウンドリ、チップ設計までをカバーする総合半導体企業という点は、サムスン電子にとってリスク要因であると同時にチャンス要因だ。TSMCは、ファブレス企業から受け取ったチップ設計図でチップを作るだけのファウンドリ専門企業で、クアルコムにはチップを作る工場がないチップ設計専門企業(ファブレス)だ。これに対してサムスン電子は、自社が設計したチップを自社ファウンドリに任せ、自社が生産したチップを自社のスマートフォンに搭載できる。内部売上要因がそれだけ大きい。昨年のサムスン電子の半導体部門の内部売上は19.6%だ。2018年には24.9%、2017年には21%が内部売上だった。サムスン電子のこうした事業構造は、非メモリー半導体がここまで成長できた背景でもある。

 しかし、こうした事業構造は、同時にリスク要因にもなる。サムスン電子関係者は「サムスン電子の事業構造はそれなりの強みではあるが、ここからさらに成長するにはむしろ邪魔にもなりうる」として「内部売上に安住していてはグローバル1位を達成できない。すでに内部売上がほとんど反映された状況であり、ここからさらに成長するためには他の顧客をさらに多く誘致しなければならない」と話した。

 サムスン電子が自らチップ設計に乗り出すことも、ファウンドリ企業としてはリスク要因として作用しかねない。キム・ヤンペン専門研究員は「サムスン電子が自らチップを作るので、ファウンドリ部門では受注を任せるファブレス企業が技術流出の可能性を考慮をしないはずがない」と話した。サムスン電子がシステムLSI部門に統合されていたファウンドリ部門を2017年に分離したのも、このような憂慮を考慮した結果だ。

新型コロナは悪材料、AP性能改善の展望も

 「半導体ビジョン2030」を発表して1年。サムスン電子は残る9年間で非メモリー半導体でグローバル1位を達成できるだろうか。現在、サムスン電子の前には様々な変数が置かれている。その中でも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は最大の悪材料だ。第1四半期にサムスン電子の非メモリー半導体実績は史上二番目に高かったが、COVID-19でモバイル需要が一層減ると見られる第2四半期の展望は明るくない。サムスン電子システムLSI部門のシン・ドンホ専務は先月29日、カンファレンスコールで「COVID-19によるグローバルメーカーの生産支障、消費心理の鈍化の影響で、全般的な需要萎縮が予想される」と明らかにした。

 肯定的な展望もある。KTB投資証券のアナリストのキム・ヤンジェ氏は、先月報告書でサムスン電子のアプリケーションプロセッサの市場占有率拡大を展望し「クアルコムの価額上昇で、スマートフォンメーカーの原価負担が大きくなり、代案としてサムスン電子のアプリケーションプロセッサの採択を増やす可能性が拡大している」とし、「今後、エクシノスの性能改善も期待される」と説明した。

ソンチェ・ギョンファ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/marketing/944324.html韓国語原文入力:2020-05-10 17:51
訳J.S

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