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[ルポ]「予約0件」旅行業界が壊滅的打撃…まずガイドと運転手を襲う

登録:2020-04-28 02:42 修正:2020-04-29 02:23
「コロナ絶壁」へと追いつめられた人々 (1)旅行・観光業界 
旅行社253社が3カ月の間に廃業 
ガイドの仕事なくアルバイトを転々 
観光バスの運転手は勧告退職 
コロナ衝撃波、真っ先に受け
コロナの影響で観光客が減った中、15日午後、ソウル松坡区の炭川駐車場を観光バスが埋めている=キム・ヘユン記者//ハンギョレ新聞社

 30代後半の観光ガイドのAさんは、ここ数日で一縷の望みが消えた。フリーランサーと特殊雇用労働者に3カ月間、毎月50万ウォン(約4万3700円)の緊急雇用安定支援金を支給するという政府の発表に期待をかけていたが、複雑な手続きのため、おのずと疲れてしまった。小規模の旅行会社数社から仕事をもらっていたAさんは、経歴証明書を得ようと各旅行会社に電話をかけた。すでに廃業していた旅行会社には連絡すらまったく取れず、かろうじて看板が残っているところでは、職員がみな無給休職に入り、証明書を発行してくれる人がいなかった。経歴や所得を証明する書類のないAさんのような人には「3カ月間毎月50万ウォン」という政府の約束は空念仏だ。12人乗りの車のレンタル料70万ウォン(約6万1200円)に、部屋の保証金の利子(高額の保証金を払うため金融機関から借金している)などの固定費として毎月200万ウォン(約17万5000円)を支払わなければならないAさんにとって、カフェでアルバイトをしている妻の収入を除けば、今月21日に受け取った京畿道の災害所得20万ウォン(約1万7500円)が2カ月間の収入のすべてだ。

旅行社の廃業および休業の現状と海外旅行商品集客の前年同月比減少率//ハンギョレ新聞社

 観光ガイドのBさんの境遇はまだましなほうだ。今月初めから、国外からの入国者が自主隔離期間中に滞在する忠清北道のある隔離施設で、費用を受け取るアルバイトの口を得たためだ。Bさんが最後のガイドをしたのは2月15日。すでに2カ月が過ぎた。毎日重い防護服を着て、脱ぐたびに汗がどっと出ると言いつつも、「ガイドの大多数が仕事なしで休んでいるのに、私は本当に運がいいと思う」と気まずそうに言った。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で国と国を繋ぐ空路が閉ざされ、国境を越える世界中の人々の往来が事実上途絶えたことで、観光・旅行産業は文字通り立ち枯れつつある。小規模零細企業を中心に形成されているという韓国旅行業界の特性のため、状況はさらに厳しい。17人の従業員を抱えるベトナムとフィリピンのアウトバウンド旅行会社C社は、3月から社員が交代で休職し、今月に入ってからは全職員が休んでいる。政府から雇用維持支援金を受け取り、平均賃金の70%ほどを休業手当として支給できるのが、幸いと言えば幸いだ。同社代表のDさん(49)は「2月中旬以降、団体観光の予約は1件もない。会社を開けておけない。政府の支援を受けられる9月までは休職を続けなければならないだろう」と述べた。だからといって、ただ全職員の休職を続けられる立場でもないという。「今のように売上が全くない状態では雇用保険も負担。一部は勧告退職をしなければならないかも知れない」と付け加えた。

■3カ月間で253の旅行社が廃業

 大手旅行社だけを見ても客は激減している。集客規模は収益を示す指標だ。ハナツアーの海外旅行商品の販売は昨年同期比で1月は49.7%、2月は84.8%、3月は99%も激減した。モドゥツアーも1月は23.4%、2月は77%、3月は99.2%減少した。業界では4月と5月の予約減少率も99%と予想している。

 廃業を宣言する旅行会社も急速に増えている。韓国旅行業協会の旅行情報センターが行政安全部の地方行政許認可データをもとに推計した資料によると、国内で最初の感染者が確認された1月20日から今月23日までの間に廃業した国内・国外・一般旅行会社は253社だ。政府が賃金の90%を支援したとしても、残りの10%や雇用保険などを負担する余力のない零細企業が相次いで廃業しているためだ。どうにか営業を続けている会社の事情も、さしたる違いはない。全ての旅行会社の従事者の約90%がすでに休職状態だ。統計庁の資料によると、2019年末現在で国内登録されている旅行会社の従事者は、概算で10万人。9万人ほどが本来の仕事ができていないことになる。

 旅行会社が直面しているこのような困難も、COVID-19が襲った現場の一断面に過ぎない。旅行会社よりも一歩先に、そしてより深く奈落に落ちた人々の悲鳴は、あちこちから聞こえてくる。仕事を失った観光ガイドはもちろん、一夜にして団体客を失ったがらんとしたレストラン、運行を止めた貸切バス…。国内旅行産業の生態系の最も弱い部分を成す存在たちが声もなく泣いている。

 2011年から中国と台湾からの観光客を相手に中国語の観光ガイドの仕事をしてきた50代前半のEさんは先日、携帯電話の料金制を変えた。普段は食堂やホテルなどに随時電話することが多く、無制限料金制を利用していたが、今は最も低い料金制で十分だからだ。1カ月に4泊5日のパッケージ商品が少なくとも3~5件ほどあった仕事は、2月末以降完全に途絶えた。2カ月間、収入もなしに暮しているEさんは「解雇された人がうらやましかった」と、もどかしさを訴えた。「解雇されたら少なくとも国から失業手当てがもらえるじゃないですか」

ソウル麻浦区の外国人観光客相手の団体食堂。この食堂を営むFさんは3月から店を閉め、宅配便のアルバイトをしている。インタビューのため、23日に2カ月ぶりに食堂を開けた=キム・ユンジュ記者//ハンギョレ新聞社

■月4000万ウォンを期待していたのに「宅配のバイト」に奔走

 団体観光客でいつも賑わっていた食堂も悲鳴を上げている。ソウル麻浦区(マポグ)で団体観光客相手の食堂を営むFさん(38)は、2月初めにこの店を引き継いだ。前のオーナーは、月平均の売上高が3000万~4000万ウォン(約262万~350万円)、700万~800万ウォン(約61万2000~69万9000円)を純利益として手にすることができると話していた。しかしFさんはわずか1カ月で臨時休業に入り、今はクーパンフレックス(クーパンは宅配業者)をしている。クーパンフレックスは自分の車で物流センターに行き、宅配を受け取り、配送するアルバイトだ。仕事が多い日は正午から6時まで、そして午前0時から午前5時までと1日2回走り、平均150~200個を配達する。Fさんが3月の1カ月間、クーパンフレックスで稼いだ金は200万ウォン(約17万5000円)。

 かつて、Fさんの食堂は主に東南アジアからの団体観光客であふれていた。中華と韓国料理を出していた食堂は、1日平均400人あまりの団体客で賑わった。繁忙期には1日500人、オフシーズンでも200~250人は確実に入った。バスの運転手やガイドに食事を無料で提供し、バスの運転手に手数料を5000ウォン(約437円)ほど支払う程度にしては、かなり良いほうだった。国内の客は全く取らず、100%予約制で運営していた食堂に異常信号が灯り始めたのは2月第1週ごろ。客は普段の70%程度に減ったと思いきや、中旬以降は40%にまで落ち込み、とうとう3月の予約は皆無になった。2月には800万ウォンだった損失が、3月には1500万ウォン(約131万円)にふくれ上がった。休業しても賃貸料と人件費は変わらず出ていくためだ。3月は、厨房を担当していた3人と給仕担当の2人に賃金の70%を払って有給休職させたが、今月に入ってからは無給休職が避けられなくなった。

 Fさんは「今すぐ稼げる仕事は宅配アルバイトぐらいで、事態が良くなるまでは生活費を稼ぐために続けるつもり。社員にもいつまた営業できるか分からないので、他の働き口も当たってみるように言った」と話す。10歳と7歳の二人の息子を持つFさんは、そうするしかないではないかと言う。借金までして食堂を買い取ったため、家族4人の基本的な生活費以外にも月に400万~500万ウォン(約35万~43万7000円)は優に出ていく状況において、COVID-19の力は強すぎた。

■観光バスの運転手は「勧告退職」の行列

 外国人観光客を運ぶGバス会社で働いていた貸切バスの運転手Hさん(51)の最近の日課は、求人・求職サイトへのアクセスだ。観光バスの運転手を始めたのは2013年で、Gバス会社には2015年に入った。1日平均12時間、長ければ15時間働いて、手にできるのは最低賃金水準の基本給179万ウォン(約15万6000円)と、ガイドとショッピングセンターから1日平均3万ウォン(約2620円)程をもらうのがせいぜいのところ。しかしHさんは3月中旬、無いよりはましだったその仕事を勧告退職の形で失った。COVID-19の影響で観光客が途絶え、バスを運転することがなくなったからだ。

 20代後半で早くも市内バスを運転し始めたHさんにとって、バス運転以外の仕事は馴染みのない世界だ。当面は月168万ウォン(約14万7000円)の失業手当を受け取るとしても、不安は拭えない。しかし、バス会社の中で新規採用を始める会社はなかなか見つからない。仕方なく先週は、ある製造会社に履歴書を出した。熱心に求職活動しているということを証明しようという意図もあったが、再びハンドルを握る日ばかりをただやみくもに待っているわけにはいかないからだ。1人暮らしで家賃40万ウォン(約3万5000円)、保険料45万ウォン(約3万9300円)など、固定支出だけでも120万~130万ウォン(約10万5000~11万4000円)にのぼるHさんは、「事態が長期化すれば、これといった方法もないので、保険の解約などを考えなければならなくなる」と話す。

 昨年9月から京畿道の外国人観光客向けバス会社で運転手をしていたIさん(54)も状況はほぼ同じだ。Iさんは今年2月1日に会社に辞表を提出して以降、仕方なしに3カ月近く休んでいる。社員は計15人で、10人のバス運転手は全員会社側から退職を勧告され、職を失った。1カ月の家賃とガス代が50万ウォン(約4万3700円)、通信費・食費・保険料などが80万ウォン(約6万9900円)。それ以外にも大学に通う2人の娘に送る小遣いが60万ウォン(約5万2400円)、借金の利子と元金120万ウォン(約10万5000円)。合わせて固定支出だけで310万ウォン(約27万1000円)に達するIさんにとっては、一日一日が不安と途方に暮れる気持ちの連続だ。仕事をやめる前は1日に12~15時間働き、待機時間にも駐車する場所がない時は駐停車違反を避けるために同じ場所をぐるぐる回ることが多かったが、Iさんは「今もあの頃が懐かしい」と話す。

 Iさんが観光客向け貸切バスの運転手をしていた期間は9年。2015年のMERS(中東呼吸器症候群)事態も観光バスの運転手として経験した。「建設現場や日雇いなどで働こうかとも思ったが、まだ迷っている」というIさんは、COVID-19ショックに対する不安を隠さない。「MERSの時は2カ月しか休まなかった。その程度休んだらまた働きたいというのが望みだが、今回は難しいと思う」。

■「金融危機の時よりも深刻」の叫び

 今回のコロナ禍は、過去のいかなる危機とも比べものにならないほど、韓国経済に深い亀裂を生じさせている。ある大手旅行会社の関係者は「MERSは全世界的な話題にはならなかったし、グローバル金融危機の時も景気全般が厳しかっただけで、今のように飛行機が飛ばなかったり旅行業が直撃を受けたりしたわけではない。MERSや金融危機は3カ月ほどで回復傾向を見せたと内部的には評価している。現在はそれよりはるかに厳しい状況であり、他の産業に比べても回復が遅れると予想している」と述べた。

 韓国銀行の資料によると、2019年現在の韓国の旅行収支項目のうち「一般旅行収入」は215億630万ドルで、韓国ウォンでは約25兆ウォン(約2兆1900億円)にのぼる。他国から韓国を訪れる観光客が国内に落とした金額の規模を示すもので、10年間で2倍に増えている。今のように国内旅行産業の生態系全般がなすすべもなく崩壊すれば、韓国経済全体にも大きな傷が残らざるを得ないわけだ。

キム・ユンジュ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/startup/942115.html韓国語原文入力:2020-04-2704:59
訳D.K

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