新規の原子力発電所の建設に対する賛否をめぐる議論に再び火がついた。与党の重鎮のソン・ヨンギル議員が新規原発(新ハンウル3・4号機)を建設すべきだと発言すると、野党と原子力業界が待っていたかのように、それに加わっている様相だ。ソン議員は、温室効果ガスとPM2.5(粒子状物質)の主犯とされてきた石炭発電を先に縮小しなければならないと主張した。新規原発とPM2.5の間には相関関係があるだろうか。はたして脱原発のために石炭発電が拡大しているのだろうか。
■原子力は減って石炭は増えた?…総じて段階的縮小中
「まず削減すべきは二酸化炭素とPM2.5排出とは関係のない原子力ではなく、石炭火力発電所です」
ソン議員が15日、フェイスブックに書いた文章の一部だ。原発と石炭火力発電所のいずれかを選択しなければならないように見える。しかし、政府のエネルギー転換政策は、原発や石炭火力発電所ともに段階的に縮小するのが目標だ。2017年末に確定した第8次電力需給基本計画によると、全電源で原発が占める割合は、2017年の19.3%が2022年まで維持され、2026年は15.5%、2030年は11.7%へと縮小される。同時に石炭の割合は、2017年の31.6%から2022年には29.5%へ、2026年は26.1%、2030年は23%に減る。脱原発で石炭発電が拡大するわけではないということだ。さらにPM2.5の“主犯”とされてきた30年以上使用した老朽化した石炭火力は、2022年にすべて閉鎖される。2016年7月、政府は老朽化した石炭火力発電所の廃止時点を2025年としたが、文在寅(ムン・ジェイン)政権になって3年繰り上げた。
■石炭火力、容量は増してもPM2.5は減少傾向
老朽化した石炭火力発電所の廃止の代わりに、新規石炭火力7基(7.3GW)が2022年までに建設される点は、議論の対象になりうる。石炭火力全体の設備容量は、2017年の36.9GWから2030年には39.9GWへとむしろ増える。しかし、排出する超微小粒子状物質が減ることも明らかだ。新規の石炭火力発電所(霊興(ヨンフン)3~6号機、2017年基準)のPM2.5の排出量は1メガワット時当たり0.045キログラムで、1990年以前に建設された老朽化した石炭火力発電所の排出量(0.208キログラム)に比べて目立って少ないからだ。
これまでも石炭火力発電所が排出するPM2.5など有害物質の排出量は少しずつ減ってきた。この5年間、各石炭火力発電所に設置された煙突遠隔監視システム(TMS)測定資料によると、韓国電力発電子会社が運営する石炭火力発電所が排出した超微小粒子状物質は、2013年の3万5292トンから2017年には2万6658トンへ減少した。老朽化した石炭火力発電所の縮小やエコ設備の強化などが推進された結果と見られる。
■“亀の歩み”のスピードの脱原発…韓国は2082年
「脱原発に進むものの、長期間のエネルギーミックス政策が必要です」
ソン議員はこのように主張したが、政府政策もやはり変わらない。文在寅政府は既存の原発は設計寿命(40~60年)まで使用するが、新規原発を建設しないことをエネルギー転換の大原則としている。このため、現在稼働中の原発23基が20年後の2038年には14基に減り、2082年にはゼロになる。建設中の新古里5・6号機の竣工予定時点は2021~22年で、両原発の設計寿命は60年に及ぶからだ。ドイツが「原発ゼロ」時点を2022年、台湾が2025年、スイスが2029年に設定したことに比べ、“亀の歩みの脱原発”レベルだ。
■今も設備過剰…誰のための新規原発?
「火力発電所を早期退出させ、古い原子力発電を停止させ、新ハンウル3・4号機をスワップ(交換)して建設」しようというソン議員の主張は、ややもすると韓国水力原子力と斗山重工業・現代建設・サムスン物産など少数の原発業界の「建設」収益を増やすことだけに貢献するという指摘につながりかねない。
発電設備は今も“過剰”状態だ。14日の電力需要ピーク時の供給予備率は20.2%(1655万キロワット、原発15基分容量)だった。全体発電設備の20%が稼動すらされなかった。供給予備率は電力需要量が減る春秋には50%近く高まる。このため、電力専門家らは2基の建設に約8兆~10兆ウォン、期間は7~8年程度が投入される新規原発ではなく、需要資源取引制度(DR、消費者が電気使用が集中する時間帯に電気使用を減らせば電力市場の価格で補償を受ける制度)など需要管理でピークに対応すべきだと指摘してきた。