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「トランプに対抗し、米国産牛肉の報復関税の実行を」

登録:2018-02-12 09:06 修正:2018-02-12 13:20
「韓米FTA論客」ソン・ギホ弁護士インタビュー 
 
米、前例なき自由貿易攻勢 
行動で応酬しバランス取るべき 
通商官僚がつねに口にする“国益” 
何のためなのか、突き詰めるときだ 
貿易収支だけにとらわれず 
環境・安全など「通商人権」考慮すべき
スリュンアジア法律事務所のソン・ギホ代表弁護士=ハンギョレ資料//ハンギョレ新聞社

 「韓米自由貿易協定(FTA)改定交渉で、いわゆる“国益”が誰の、また何のためなのか綿密に突き詰め、特に(洗濯機セーフガード攻勢に対抗して)米国産輸入牛肉に対する報復関税の賦課を私たちが行動で実行し、米国との通商秩序を立て直さなければならない」

 6日、ソウル松坡区可楽洞にあるスリュンアジア法律事務所でハンギョレと会ったソン・ギホ代表弁護士(55・民主社会のための弁護士会国際通商委員長)は、インタビューの冒頭から「いったい通商官僚がつねに口にする“国益”とは何なのか」と問い返した。「2007年の韓米FTAの妥結直後、交渉の公務員たちは国益のために最善を尽くしたと述べ、改定交渉でも同じ言葉を繰り返している。ここで“国益”は、公務員自らが下した観点であり概念に過ぎない。どの企業・産業の輸出量が増加したのかを見て、それによる貿易収支を中心に国益を評価してきたのが、結局トランプ大統領の廃棄・改定要求を招いてしまった」。“金銭的な国益”にだけ執着したために、韓国の通商当局自ら貿易収支の不均衡というジレンマに直面してしまったという話だ。

 問題は「国益の構成」だ。「すべての自由貿易協定を評価するものさしとして使われる国益の範疇には、輸出入・貿易収支などの経済的数字に劣らず、環境・安全など社会的価値、そして農業など社会的弱者集団・階層に差別的に及ぼす影響が総合的に含まれなければならない」。韓米FTA締結当時から各種の不平等毒素条項を暴露しながら、協定を執拗に批判してきたソン弁護士は、“もの静かなFTA論客”と呼ばれる。「世界貿易機関(WTO)という多国間貿易体制があるにもかかわらず、両者の自由貿易協定を結ぶその理由は、両当事国が互いに固有で特別な(社会・経済的)価値を実現するためだ。輸出入貿易の収支ばかりを見るのは(自由貿易というよりは)重商主義貿易だ」

 彼はさらに、協定の価値は単に輸出入の物量だけで置き換えられないと述べた。「協定で韓国の対米自動車輸出が増えたとしよう。ところが協定文2.12条は、排気量に基づいた従来の自動車税制を変えられないように規定している。韓国政府の低炭素経済支援政策を制約していることなのに、この場合、果たして協定で“国益”と“価値”が完全に代弁されていると言えるだろうか?」市民の健康・環境権も国益の重要な構成要素であり、このような“価値”を今回の改定交渉で主な議題として提起しなければならないという話だ。「協定発効後の6年間、対米輸出が増えたというが、農業と消費者安全・環境にどのような影響があったのか客観的な評価が下されたなら、両国の改定交渉の行方は今とはかなり違っていただろう」

1月5日、米ワシントンで開かれた韓米FTA改定第1回交渉の場面=産業部提供//ハンギョレ新聞社

 通商条約と関連した法律は、協定履行5年目以降は必ず履行評価報告書を作成し、協定の影響・効果に対する情報を国民に知らせなければならないと定めている。しかし、政府は発効6年目の突入が切迫した今までも履行評価報告書を出していない。「発効後、毎年3月になると、政府が対米貿易収支が改善されたと広報してきたが、トランプの廃棄・改定要求が出たとたんに今は言葉を変え、『協定自体が両国の貿易収支に及ぼした影響は微々たるものだった』と話す。まともな評価とは言えない。米国との協定で果たしてどのような価値を実現するのかをめぐって、市民たちの要求を集約し、反映しなければならない」。何が国益なのかも、交渉の結果が国益に合致するのかに対する判断も、公務員自ら決定する中でで、「国民参加に基盤した通商」が失われたという話だ。

 ソン弁護士は「通商に対する“人権評価”も必要だ」と話した。協定文の投資者-国家紛争解決制度(ISDS)の改善も必要だが、その条項のために韓国中央政府と地方自治体がこれまで政策の主権を失って実行できなかったことは何なのかを、履行評価報告書で具体的に明らかにしなければならないという意味だ。「最初から協定を韓米安保同盟の次元でみる見方もあった。果たして協定がこの6年間で安保にどのような影響を及ぼしたのかを、単純な印象的評価ではなく事実と根拠に立脚して提示しなければならない」

 彼は、韓国が一時的にトランプの趣向に合わせていくつかを譲ったとしても、米国は反ダンピング・セーフガードなどの輸入規制を自ら是正しないだろうとし、「国際通商の歴史では前例のない『貿易収支の不均衡解消』というトランプの反自由貿易的発想に、韓国も米国産輸入牛肉(協定上現在の関税率25%)に対する報復関税を課すカードで対抗しなければならない」と話した。トランプの行動変化を引き出すためには、強力な報復関税対応が必要だということだ。「米国産牛肉の報復は2013年、韓米洗濯機反ダンピング紛争事件で米国が敗訴したにもかかわらず、反ダンピング関税の賦課を依然として撤回しないのに対する応酬の意味を持つが、現在の改定交渉で相互バランスを実現するためにも必要だ」

 ソン弁護士は3月に始まる韓中自由貿易協定(FTA)サービス・投資、後続協商と関連して「THAAD(高高度防衛ミサイル)報復を見ると、自由貿易協定がこれほど無気力化することはなかった」とし、「通商政策で、従来のように二国間自由貿易協定一辺倒はだめだ。韓国のような小規模開放経済は、安定的で開放的で多者主義的な枠組みが有益だ」と話した。また、韓中FTAの後続交渉で中国発PM2.5問題を「通商における健康・人権レベルで主要議題として扱わなければならない」と主張した。「韓中協定文16.5条に『環境』部分があるが、実効性のない宣言的約束に過ぎない。私たちの環境的価値と健康権を、中国に持続的に要求・反映する仕組みを今回作らなければならない」

チョ・ゲワン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/831786.html韓国語原文入力:2018-02-11 20:38
訳M.C

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