原文入力:2011-03-04 午後08:32:10(1960字)
チァン・ジョンイル 本の中イシュー
米国のように狂っていく世界
[原題:Crazy Like Us: The Globalization of the American Psyche…訳注]
エタン・ワーターズ(Ethan Watters)著/キム・ハンヨン訳
アーカイブ/1万8000ウォン。
エタン・ワーターズの「アメリカのように狂っていく世界」は、予想と違い、原題そのままであった。 意訳されたのは、「アメリカ式精神健康の世界化」という本来の副題が、「彼らはマクドナルドだけでなくうつ病も売った」に変わったことだ。しかし、著者の序論によると、韓国版副題は決して的外れではない。全世界あちこちで見られるマクドナルドが地球人の胃腸を征服したように、アメリカ式精神疾患マニュアル(DSM)と治療法は、世界の人の心まで従わせている。
アメリカ型拒食症は、ダイエットとスマートな容貌を病的に追求するアメリカ大衆文化により全世界に広がり、西欧のフェミニストはそこに家父長社会に抑圧された女性の表現意志を重ねて負わせた。それなら、1994年を基点に香港で急増した女性の拒食症も、そのように解釈されなければならないだろうか? 香港は流行が早い国際都市だが、肥満に対するタブーがなかった中国文化の中には、長らくアメリカ型拒食症が隙間に入る余地がなかった。そこに拒食症が広がった現象には、目の前に近づいた香港返還(1997年)という社会的不安要素が考慮されなければならなかった。
2004年、インド洋沿岸国家を襲った津波が25万人の死亡者を出した直後、生存者たちの外傷後ストレス障害(PTSD)を治療するということで、アメリカ人心理療法士がスリランカにはせ参じた。この治療は、外傷に包帯を巻くように心理的外傷を受けた人にも直ちに「心理的包帯」をあてる必要があるという理論に基づくが、この治療技法がすべての文化圏に適用されるのだろうか? アメリカ人心理療法士たちは、生存者を相手に、「苦痛を回避せずに直面すること」と「記憶を回想すること」などを求め、同じ技法で現地人の相談者を訓練した。しかし。この技法は30年以上、民族・宗教紛争を超えてスリランカ民衆たちがお互いを保護するために考案した「婉曲語法」を破綻させた。アメリカ人心理療法士が外傷後ストレス障害を治療するとしながら推奨した「直説話法」は、スリランカ社会への次の津波となった。
東アフリカのタンザニアでは、精神病を病気でなく神の恩寵や贖罪の機会として受け入れられている。しかし、精神病を化学的不均衡や脳の奇形により生じると見なす西欧の生理学が第三世界に浸透して、患者をその社会の「文化的叙事」から分離する。もはや家族や社会は、患者に対する好意をも失い苛酷に扱うだけでなく、精神病者をほとんど他の生物と感じるようになる。現地の歴史と文化を無視する現代の精神医学は、かつて人類学が犯した帝国主義のバトンをそっくり譲り受けたように見える。
2000年頃に至っても日本ではうつ病が病気に分類されず、重い精神疾患のみが治療と隔離を必要とした。アメリカの薬品業界は、うつ病を人生の芸術のように考える日本を攻略するための緻密な準備をしたあげく、1990年初めの日本恐慌と共に急増した過労死により、「過労死=自殺=うつ病」という等式を完成した。自殺の増加とうつ病の間には大きい関連性がないのみならず、過労死が続出する企業環境をより問題にしなければならなかったが、うつ病を、「心の風邪」という風に身近だが放置してはいけない軽い精神疾患に、作り上げることに成功したのだ。
この本の後半は、薬を売るために新しい精神疾患のカテゴリーを増やしていこうとする薬品会社とアメリカ精神医学会の隠密な結託を詳細に暴露したクリストファー・レーン(Christopher Lane)の「作られたうつ病」(ハンギョレ出版・2009年)[原題:Shyness: How Normal Behavior Became a Sickness…訳注]に直結する。ともすれば「米国たたき」と誤読される心配もなくはないこの本は、フロイト抜きの精神医学、言い換えればすべての精神病症状を、脳と遺伝子欠陥と扱うことで「錠剤の薬」を売れる大型薬品会社の生医学的観点と、人間の心が多様な宗教的・文化的信頼で連結しているという交差文化的精神医学の鋭い対決の場だ。
チァン・ジョンイル 小説家
原文: https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/466554.html 訳M.S