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雲ひとつない火星で雷が…犯人は「砂嵐」

登録:2025-12-09 07:57 修正:2025-12-09 10:52
クァク・ノピルの未来の窓 
ロボット探査車、火花が散る音を捕捉 
静電気現象に類似…規模は小さい
フランスの科学者たちが火星ロボット探査車「パーサビアランス」に搭載されたスーパーカム装備を通じて稲妻現象を確認した=フランス国立科学研究センター提供//ハンギョレ新聞社

 地球人の火星に対する関心は生命体だけにあるのではない。火星の環境が地球とどの程度似ていて、どこが違うのかについても、大きな関心事となっている。稲妻のような自然現象もそのうちの一つだといえる。大気を持つ天体であれば、稲光が発生しうる物理的条件がおおむね備わっているとみられる。大気がある場合は電荷を分離する粒子間衝突が起き、稲妻の種を作ることができる。

 木星と土星では早くから稲妻現象が確認されていた。1979年にボイジャー1号が初めて木星で稲妻が起こす閃光を撮影した。ボイジャー1号はその後、土星でも稲妻特有の電波信号を確認した。2016年に木星に到着した探査機「ジュノー」も2020年、木星の稲妻を光学カメラで撮影した。しかし、地球と近い惑星については、これまでそのような機会がなかった。

 火星でも微弱だが稲妻現象が確認された。フランスの天体物理学惑星学研究所と大気環境宇宙観測研究所が中心となった国際研究チームは、米国航空宇宙局(NASA)の火星ロボット探査車「パーサビアランス」の録音記録から、稲光の発生にともなう音と電磁気信号を検出し、国際学術誌「ネイチャー」に発表した。

2020年12月、NASAの木星探査機「ジュノー」が3万2000キロメートル上空で撮影した木星の稲妻=NASA提供//ハンギョレ新聞社

 研究チームは、パーサビアランスが2021年に火星に着陸してから火星日基準で2年(地球日基準では3.76年)間にわたり、高解像度カメラ「スーパーカム」のマイクを通じて収集した28時間分の音を分析したところ、稲妻が55回発生したことを示す音と電磁気信号を確認したことを明らかにした。

 このマイクは、本来は砂嵐(ダストストーム)など、火星表面で発生する他の音を録音するために設置されたものだったが、研究チームは大気中の電気放電の音も録音されているとみて、分析を開始した。その結果、55件の特徴的な音が感知された。特に、そのうちの7件については、電磁波がマイクにあたる電磁干渉と同時に発生したことが分かった。電磁干渉は主に風や砂嵐、砂塵の旋風がパーサビアランスを通過する際に発生する。残りの48件の音についても、これに似た種類のものだった。研究チームはこれを根拠に、この音が大気中の電気放電により発生したスパークの音だという結論を下した。

 55件のうち1件を除くすべての音が、気流の強さが上位30%に達する時期に発生した。これは風が火星で電気的電荷を生成するうえで重要な役割を果たしていることを示唆している。

火星軌道船からみた旋風。火星の大気で発生する稲妻の一部は「ダストデビル」として知られる竜巻とも関連がある=NASA提供//ハンギョレ新聞社

■火星探査時の危険要素として考慮すべき

 地球では雲中の氷の微粒子が衝突して発生する摩擦電気によって、プラス電荷とマイナス電荷が分離(プラス電荷は上へ、マイナス電荷は下へ)した後、電荷量が増加し、ある瞬間に両者を結ぶ通路が形成される稲妻が発生する。しかし、大気中の水分子がきわめて珍しい火星では、このような雷雨型の水雲は存在しない。

 代わりに、火星の稲妻は、ちりの粒子の摩擦で生じる電荷が稲妻のエネルギー源になる。「火星の稲妻は、非常に乾燥した日にドアノブに触れたときに感じることがある微細な静電気の衝撃に類似したもの」で、「長年理論だけで存在した火星の大気の放電現象を初めて確認した」との説明だ。

 研究チームは「地球でも、ちり粒子、特に砂漠地域で摩擦電気が生じることがあるが、実際に放電が生じるケースは珍しい」としたうえで、「しかし、火星では大気が薄いため、このような現象がはるかに容易に発生する」と説明した。火星では絶縁体の役割を果たす空気の量が少なく、そのため火花が形成されるのに必要な電荷の量も、地球よりはるかに少なくて済むということだ。火星の大気密度は地球の約1%にすぎない。

 したがって、地球では稲妻の長さは数キロメートルに達するが、火星の稲妻は小さな火花程度だ。今回測定した稲妻の長さを最大で1センチメートルと推定。研究チームは、音と電磁干渉の時間差を利用して計算した結果、稲妻が発生した位置はマイクから数センチメートル離れた場所だったことを明らかにした。

 また、今回の発見が火星の大気化学、気候、生命体の存在の可能性についての理解を深めるだけでなく、将来の火星探査における安全対策を立てる際にも重要な資料になるとの期待も示された。

 論文共同著者のパデュー大学のロジャー・ウィンス教授(惑星科学)は、一般向け科学誌「サイエンティフィック・アメリカン」に「火星の砂嵐や砂の竜巻が発見されたことは、火星探査の危険を示している」として、「1971年に火星に着陸した最初の宇宙船(ソ連のマルス3号)は砂嵐のなかで墜落したが、この宇宙船が摩擦電気の影響を受けた可能性が高い」と話した。

 過去にも火星で稲妻の兆候をとらえ、これを確認しようとする試みはあった。科学者たちは2006年、深宇宙ネットワーク(DSN)の34メートルの電波望遠鏡を通じて、初めて火星で稲妻と考えられるマイクロ波の信号を感知した。しかしその後、欧州宇宙機関(ESA)の火星軌道船「マーズ・エクスプレス」が5年間にわたりレーダーで追跡したが、稲妻の信号はとらえられなかった。2016年には欧州とロシアの共同による軌道船「エクソマーズ」が火星で砂嵐が起きる際の大気の放電現象を測定するために装置を送ったが、途中で墜落した。同様の装置を搭載した2回目の軌道船「エクソマーズ」は、2022年に発射される予定だったが、ロシア・ウクライナ戦争により中断している。

 ただしネイチャーは、今回の研究成果にもかかわらず、現時点ではカメラで放電現象を直接確認したわけではないため、確実な結論を下すには火星に大気放電測定用装置を送って確認する必要があると指摘した。

*論文情報
Detection of triboelectric discharges during dust events on Mars.
Nature(2025).
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09736-y

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/science_general/1232545.html韓国語原文入力:2025-12-03 11:29
訳M.S

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