支持する政治家がナルシシスト・サイコパス・マキャベリストの場合
相手側に対して支持者をさらに敵対的にする効果
ナルシシズム、サイコパス、マキャベリズムのような「暗い」性格的特性を持つ政治家が、市民の間での敵対感情をさらに強めるなどの「感情的分極化」の強化に寄与するという研究結果が公開された。米国のドナルド・トランプ大統領などのいわゆる「ポピュリスト」の政治指導者は、一般大衆には人気がなくても、攻撃的な指向の支持者から熱狂的な人気を享受する傾向がある。この場合、政治指導者の暗い性格によって、「自分の側」の支持者は「相手側」に対してさらに敵対的になるよう煽られるということだ。
オランダのアムステルダム大学とアムステルダム自由大学、スイスのローザンヌ大学の研究チームは最近、このような研究結果を国際ジャーナル「欧州政治研究」で発表した。政治的に敵と味方に分ける対立が感情的なレベルにまで深刻化する「感情的分極化」は、現代民主主義に対する重大な脅威の一つとみなされている。感情的分極化を引き起こす多種多様な原因のなかから、研究チームは、政治家の役割、特に政治家の性格的特性に注目した。研究チームは、直近（2016～2021）に全世界で実施された40回の総選挙に出馬した約90人の政治家に関する性格調査データセットと、選挙後に有権者を対象にしたアンケート調査結果のデータセットを結びつけて分析した。対象の政治家には、米国のドナルド・トランプ大統領、ドイツのアンゲラ・メルケル前首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、インドのナレンドラ・モディ首相など、幅広く含まれている。政治家の性格的特性としては「暗い」3要素、すなわち、ナルシシズム（過度な自己中心性）、サイコパス（共感不足）、マキャベリズム（操作・欺瞞の傾向）に注目した。
分析の結果、3要素で高い点数を付けた政治家であるほど、その支持者の間では政治的反対者に対する敵対感情が強いことがわかった。候補者と有権者とのイデオロギー的近接性が強い場合、候補者の暗い性格的特性が感情的分極化に及ぼす影響は有意にあらわれた。一方、候補者と有権者がイデオロギー的に遠く離れている場合、候補者の暗い性格的特性は特別な影響を与えなかった。一言で言うと、暗い性格的特性が強い政治家は、支持者が反対勢力に対して抱く敵対感情を強化し、支持者が政治家と自身をさらに強く同一視するほど、その敵対感情はさらに強まるということだ。
3要素のなかでは、マキャベリズムが最も強い効果を発揮することが明らかになった。アムステルダム大学所属のアレッサンドロ・ナイ研究員は「特に、戦略的かつ巧妙で目標指向的なマキャベリズム傾向の政治家が、支持者と他の人の間の感情的分裂を強化し、感情的分極化を促進するものとみられる」と指摘した。
一方、「味方」ではない政治家の暗い性格的特性は、有権者に特別な影響を与えなかった。これは、「人々は、反対勢力に属する政治家の性格をどの程度嫌っているかによって、冷笑的かつ急進的に変わるという一般的な考えとは違う」結果だ。ナイ研究員は「今のわれわれは、有権者が自分に近いと感じる政治家のシグナルは受け入れ、自分とは意見が違う政治家のメッセージは無視する可能性が高いという事実を知っている。われわれをさらに不快にさせ、他者に対する敵対的な考えを扇動し、感情的分極化を助長するのは、まさに『味方』の政治家であり、これは劇的な結果を招くことになる」と述べた。
このような結果は、全世界的に「暗いリーダー」が浮上し、民主的手続きを脅かす現象を見るうえで、重要な手がかりを提供する。米国の「トランプ現象」が代表するように、こんにちのように政治的緊張が高まる状況で有権者は、ルールを破ったり対立的な行動をみせたりしていても、支配的で強硬な指導者を好む傾向を示しているためだ。研究チームは「暗い性格的特性は、独裁者とポピュリストの間に広まっているとみられ、これは、妥協しない指導者、民主主義の脱定着、そして感情的分極化の間に邪悪な交差点があることを示している」と明らかにした。共著者の一人であるカトヤナ・ガッターマン氏は「指導者の個人的特性が公論を汚染すると、公共の協力の意志と社会的凝集力が弱まり、最終的には民主的な規範が侵食される」と指摘した。
*論文情報
Ripping the public apart? Politicians’ dark personality and affective polarization
doi.org/10.1111/1475-6765.70002
訳M.S
