バドミントン女子シングルス金メダリストのアン・セヨン(22・サムスン生命)の爆弾発言は、韓国のエリートスポーツ育成システムが転換点を迎えたことを示している。選手と大韓バドミントン協会の立場が互いに異なり、真相もまだ明確ではない。文化体育観光部の調査まで時間がかかりそうだ。
しかし、これを個人的な不満の表出とみなすわけにはいかないものとみられる。アン・セヨンの問題提起は代表チーム内の個人の権利と責任、科学的かつ専門的なコーチングの要求、鎮川(チンチョン)選手村の運営体制などあらゆる問題と関連している。
アン・セヨンは2024年パリ五輪バドミントン女子シングルス決勝で、パン・スヒョン以来28年ぶりに韓国に五輪シングルスの金メダルをもたらした。ところが取材陣とのインタビューで「負傷管理がずさんだ」、「自由を装った放任だった」、「代表チームと共に歩むのは難しいと思った」 などの告発ともとれる発言をした。アン・セヨンは、個人トレーナーと五輪に臨めなかったことに対する残念な気持ちも滲ませた。
アン・セヨンの発言からは、一昔前の選手たちとは異なり、自分の主張をはっきり述べる姿がうかがえる。過去には国威宣揚、太極戦士、祖国の栄光などの用語で見られるように、選手たちは国家主義や集団的アイデンティティを持って五輪に出場した。
時代の流れが変わり、今は選手個人の成果やプライドが重視されたりもする。大韓体育会や傘下連盟、鎮村選手村など韓国エリート選手育成制度がこれまで集団的選手管理と統制の慣性に安住していたが、今や構造的変化を模索すべき時期を迎えたといえる。
パリ五輪バドミントン混合ダブルス銀メダリストのチョン・ナウンは「中国選手たちはスマートで体系的に練習したと聞いた。次の五輪に出ることになったら、中国選手たちのようにやってみたいと思う」と語った。韓国の方式にさらなる改善の必要性があるという指摘とみられる。
鎮川選手村の環境は世界最高水準だ。ほとんどの選手は最高の施設と環境で自分の力を育むことができる利点を享受する。しかし、種目別の特性や個々の選手の性向に合わせたトレーニングや個人教習など、効率的な指導方式を考えなければならない時期になった。
多くの指導者たちが熱心に取り組んでいるが、選手指導の専門性と科学性、体系的なアプローチが足りないのは事実だ。旧態依然で権威的な指導者もいる。選手がケガをしたのに、きちんと世話をする人がいないというのは、指導者と組織で意思疎通が円滑に行われていないことを示す。
大韓バドミントン協会は「アン・セヨンとの軋轢(あつれき)はなかった。物心両面で支えてきた」と述べた。文体部ではなく大韓体育会から予算を配分されるため、自らの判断で財源を特定の部門に投じることもできない。男子ダブルス、女子ダブルス、混合ダブルスなど、ダブルス種目に多くの投資が行われるしかないのも事実だ。五輪など国際大会に代表チームを派遣する際、選手個人のトレーナーが同行するのも限界がある。
にもかかわらず、アン・セヨンの発言は、韓国のエリートスポーツの構造的革新を求める契機になっている。今こそ、ひざを突き合わせて改善策を模索する時だ。