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[レビュー]いまや旅は変わるべき時…「持続可能な旅」のすすめ

登録:2021-06-07 02:44 修正:2021-06-07 07:42
気候変動時代、旅の影響を考慮して持続可能な代案を模索 
炭素排出を減らし、エネルギーやプラスチックをより使わない方向へ転換を 

『持続可能な旅をしています:旅は好きだけど、これ以上地球を壊したくないから』
(ホリー・ターペン著、ペ・ジヘ訳、ハンスメディア、1万7000ウォン)
ハンスメディア提供//ハンギョレ新聞社
//ハンギョレ新聞社

 コロナ禍で海外旅行ができなくなってからあっという間に1年がたった。多くの人が再び海外旅行をできる日が来るのを心待ちにしている。一方では、新型コロナウイルスワクチンの接種が進み、各旅行会社が海外旅行商品のマーケティングを開始し、予約も殺到しているというニュースが流れている。コロナ禍が終わったら、すべてが「もとどおり」となれるのだろうか。やみくもにそうあるべきだと答えるのは容易ではない。

 『持続可能な旅をしています』の著者は、「コロナで世界が止まっている間に、私たちの旅の従来のあり方の明と暗が一層はっきりと目に見えるようになった」とし、「私たちが愛してやまないその旅を続けたいなら、私たちは必ず変わらなければならない」と述べる。

 コロナパンデミックの直前まで、グローバル観光産業の成長は環境にとって脅威的な水準だった。観光需要が爆発的に増加したことで、2019年の国際便の乗客は14億人に達した。5年間で航空産業関連の炭素排出量は32%増加し、全世界の炭素排出量の8~12%が観光産業によって発生していた。世界の主な観光地は「過剰観光(オーバーツーリズム)」に悩まされるようになった。過剰観光とは、特定の旅行先に観光客が殺到し、環境や地域社会に負担を与えることを指す。宿泊施設のせいで不動産賃貸料が高くなり、地域社会に必要な施設は土産物店に変わるため、現地人は暮らしにくくなる。1年間にバルセロナを訪れた観光客の数は、実際にバルセロナに居住する人口の20倍の3200万人に達した。15万人が居住できるベネチアには毎年2400万人の観光客が訪れ、残っている住民は5300人だけだ。

 それでは、文字通り「持続可能な」旅をするには何が必要なのか。著者は、旅のあらゆる段階で炭素排出を減らす方法について考えなければならないと強調する。どのように旅しようが地球に影響を及ぼさざるを得ないが、否定的な行動は減らし、肯定的な習慣を優先しようというのだ。また旅を計画する際には「財政的に持続可能で、生態系を保護し、地域共同体を支持し、文化を保存することに役立つのか」を自らに問わなければならない。

 本書は、原則的な命題とともに具体的な方法も提示する。最も問題になるのは飛行機の旅だ。スウェーデンのある報告書によると、オーストラリアとの往復では4トンの炭素が排出される。これは1年間のリサイクルで節約できる炭素量の20倍であり、世界資源研究所の定めた1人当たりの年間炭素許容値2.5トンを上回る数値だ。「プライスカム(スウェーデン語で「飛行機に乗るのは恥」の意)」という単語が作られたほどだ。できれば飛行機ではなく、列車や旅客船などの他の交通手段を利用すべきだ。どうしても乗らなければならないのなら、できるだけ経由地を少なくし、昼の時間帯の飛行機とエコノミークラスを利用しよう。旅行地に到着してからは公共交通機関や自転車、電気自動車などを利用する。世界持続可能観光協議会のランディ・ダーバン代表は著者とのインタビューで「飛行機に乗ることになってもあまり自分を責める必要はない。ただしできるだけ少なく、絶対に必要な時にのみ利用してほしい」と述べた。

 旅先はどのように選ぶべきか。過剰観光問題を深化させないためには、あまり知られていない地域や観光客の少ないところに行くことが望ましい。観光事業に重きを置いていない地域では、その地域の文化を学んだり経験したりしやすいうえ、旅行者が消費するお金が地域にとどまるので地域経済にも役に立つ。持続可能性のために努力する都市や国を旅することも代案となる。「ステイケーション(休暇の際に遠くに行かずに自宅や車で行ける近距離で過ごすこと)」も、海外旅行の「強制休止期」のやむを得ない選択ではなく、環境にやさしい旅の立派な方法の一つだ。

 宿の選択も重要だ。再生可能エネルギーを使っていたり省エネ方針を取っていたり、地域で生産される資源や食材を用いたりしている小規模な宿を調べてみよう。4つ星クラスのホテルは小規模な宿より炭素を4倍も多く排出する。従業員は7割以上現地の人を雇用しているなど、「責任ある雇用」を行っているかどうかも見なければならない。

 荷物を小さくすることで、飛行機の離着陸で排出される炭素量を減らすことができる。ファッション産業は航空や運輸産業よりも炭素を多く吐き出す。休暇気分を盛り上げるために新調した服が地球に被害を与えるということを覚えておくべきだ。どうしても買わなければならないのなら、持続可能認証を受けた企業の製品や古着を利用しよう。旅行中のプラスチックの使用を減らすためには、再利用できる水筒、コップ、カバン、食器などを持ち歩く必要がある。

 著者は、持続可能な旅は炭素排出量を減らすことにとどまらず、世界を「より良い場所」にする過程とすべきだと話す。旅先で地域共同体や地域の事業体を発展させ、野生動物や文化遺産を保護するのに役立つ方法を見つけて実践すべきだということだ。

 結論は「回数を抑え、のんびり、より良い方法で旅せよ」という言葉に要約される。時に著者の提案は負担に感じられることもあるが、コロナによって生態系のバランスの破壊と気候変動に対する懸念がいつになく高まっている中で、著者が投げかけた「気候危機のさなかでの旅は正当化できるのか」という問いは有効な苦悩の種と思われる。持続可能な旅についての原則論的な話とともに、詳細な実践方法と具体的な旅行プログラムの紹介にもかなりのページを割いており、ガイドブックとしての性格も強い。

アン・ソンヒ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/998011.html韓国語原文入力:2021-06-04 05:00
訳D.K

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